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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第二部:諦めること
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記憶:諦めること4

(お姉様は私に何を見せたいの?)


 叶わない恋の記憶を、せめて私に覚えておいて欲しいのだろうか。


 姉の意図に見当が付かないまま、次の場面に飛ばされた。



 ✳︎



 頭上に無数の星がきらめく中、姉とイアン様の姿を見つけた。


 焚き火の炎がちらちらと揺れ、二人の顔を柔らかく照らしている。薪がはぜる音に混じり、遠くから聞こえるのは、楽しげな笑い声。その声に混じることなく、姉とイアン様は横並びで丸太に腰掛け、静かに炎を見つめていた。


「どうやら、あなたが苦手とする、キャンプファイヤー中みたいね」


 隣で空を見上げるアシェルに、少しからかうように声をかけた。


 彼はピクリとも反応しない。その無愛想な態度に小さく笑いながら、私はたずねた。


「ねぇ、お姉様はどうして秘密の恋を私に明かしたと思う?」


 明確な答えが欲しいわけじゃない。


 私の視線の先には、焚き火の炎を無言で見つめるクラウディアとイアン様の姿がある。その様子をじっと見ていると、胸が少し締めつけられるような気がして落ち着かない。


 だから、口を閉じたままでいられなかっただけだ。


 アシェルは星空に視線を向けたまま、素っ気なく答える。


「さあな」


(ですよねー)


 彼のそういう所は、もう慣れた。


「アシェルは、誰か好きな人がいる?」


 不意に尋ねると、彼はようやく私の方を向く。


「いないし、もしいたとしても、君に教える義務はない」


 彼はやっぱり、そっけなく返してきた。


「あなたは人が嫌いだもんね」


 私の少し棘ある言葉に、彼は軽く眉をひそめる。


「そういう君は?」


「私は人が好き……とは言い切れないけれど、あなたほど嫌いでもないと思う」


 曖昧な言葉を選びながらも、正直な気持ちを伝えた。


「誤魔化すつもりか?」


「そういうつもりじゃないわ」


 むっとしながら、誤解を解くために自分の本音を少しだけ漏らすことにする。


「正直、自分らしくいるためには、一人でいる方が楽だと思う。でも、物凄く楽しいことがあったりすると、誰かと共有できたらいいな、と思う瞬間もあるの」


 一息ついて、自然と視線はクラウディアに向かう。


「ただ、誰かと関わるということは、その人の人生に踏み込むことでもあるのよ」


 言葉を紡ぎながら、遠くで聞こえる笑い声が耳に届く。明るく楽しげな声とは裏腹に、クラウディアを見つめる私の気持ちは、沈んでいく。


「良くも悪くも、自分の行動が誰かの人生を変えてしまうかもしれないと思うと、その責任を負いたくないと思う気持ちのほうが勝る」


 突如アシェルの声で、私の気持ちが代弁された。


「え?」


「自分では、最大限他人に配慮して生きているつもりでも、人の受け取り方は様々だからな。こっちにしてみれば、身に覚えのないことで、勝手に誰かが傷つき、一方的に傷ついた側が同情を買う世の中の構図に、うんざりする気持ちは理解できる」


 いつも通り淡々とした口調ではあるものの、彼は意外なことに、私の意見を肯定してくれた。


「そう、そうなの。どんな言葉や行動で相手を傷つけるかなんて、事前に知りようがない以上、どうしようもないわ」


「人の気持ちとやらを学んでも、時と場合、相手のメンタル度合いによっては、正解が不正解になるのが人間の厄介な所だしな」


「わかる。完全同意」


 私は改めて彼に向き直る。


「ごめんなさい。私はあなたを勘違いしていたみたい」


「勘違い?」


「あなたって本当は、人の気持ちがわかるアンデ……いい人なのね」


 うっかりアンデットと言いかけた。


 失態をなかったことにするため、ニコリと微笑む。


「……君よりはマシなようでホッとした」


 彼はボソリと呟き、話はお終いといった様子で、空を見上げてしまう。


「私よりマシって、どういうことよ」


「僕にとって君のその間抜けさは、排除するに値しないということだ」


「ありがとう……え、まぬけ?ちょっとアシェル、まぬけはないわ。撤回して」


 澄ました顔で空を見上げる彼に、謝罪を迫った瞬間。


『キャンプも、今日で終わりなのね』


 寂しげに呟く姉の声が耳に届く。

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