許される罪、消えない罪5
「はい、姉妹喧嘩は終わりよ」
エリザ様が軽く拍手をするように手を叩き、場の空気を和らげようとする。
「殿下とディアは仲直り。これで一件落着、というところかしら? つまり、この話はお終い。いいわよね、ロッテ?」
無邪気な笑みを浮かべたエリザ様は、姉と私に漂う極悪な雰囲気をもろともせず、明るく告げた。
(そうだったわ。姉の親友であるこの人は、底抜けに明るくて、笑顔で世界を救えると本気で信じてる側の人間だったわ)
下ろした拳を握りしめ、何度か深呼吸をし、私は口を開く。
「姉が許すなら、そうすればいいと思います。私には関係のないことだから」
キリキリする気持ちを抑えながら、十六歳らしく見えるよう、常識的な対応に留めておく。
「ですって。ディア、あなたは殿下を許す?」
「そうね、私は……」
エリザの肩から飛び立ち、殿下の肩にとまる。
「もちろん、フィーを許すわ。だから私のことで、暗い顔をしないで。私は昔からあなたの困った顔が好きだけど、それは今のような暗い顔とは微妙に違うのよ?」
「ディア……ありがとう」
殿下は肩にとまる姉に目を細め、困った顔で、だけど少し嬉しそうに頭を撫でた。
そんな殿下の態度に、姉も目を細め、まるで猫のように喉を鳴らす。
(私の抱える問題は、何一つ解決してないのに、ハッピーエンドな雰囲気は何なの?)
一人怒りを抱えるのがバカバカしくなって、肩を落とし脱力する。
そんな私に気づいたエリザ様は、微笑んだ。
「悪いけど、今日はディアとパジャマパーティをするつもりなの。許してくれる?」
彼女は、遠慮がちに提案してきた。
「まぁ、それはとても素敵な提案ね!」
殿下の肩にとまる姉は初耳だったのか、嬉しそうに羽をバタバタさせる。そのせいで殿下の麗しの顔に羽が容赦なく当たっている。そんな姉に対して殿下は、文句一つ言わず、むしろ嬉しそうな顔で自分の肩にとまる姉を見つめていた。
「ロッテ、この通り本人は乗り気なんだけど、いい?」
エリザ様に再度問われ、私は彼女を見返す。
(お姉様と二人きりで気まずい雰囲気になるよりずっとマシだわ)
即座に浮かんだ思いのまま、答える。
「……許すも何も、どうぞ、どうぞご自由に」
手のひらを上に向け、快く了解した。
(というか、カラスのお姉様と女子会しようだなんて、さすがエリザ様というべきか……)
内心呆れかけて気付く。
(私だってそうだったじゃない)
姉が戻ってきたと浮かれて、クロエやルシュとの時間を削り、毎日姉の待つ寮の部屋にいそいそと戻っていた事実を思い出す。
(それに、エリザ様は私が気まずい夜を過ごさないよう、提案してくれたのかも)
単純そうに見える彼女の気遣いに思い当たり、眉間にシワを寄せ続けていた険しい顔を緩める。
「じゃ、悪いんだけど、すっかり置物になってしまったアシェルを寮までエスコートしてあげてくれる?」
「子どもじゃあるまいし、一人で帰れるだろ」
エリザ様の冗談交じりの言葉に、アシェルが眉をひそめる。
「あなたがモテないのはそういうところよ、アシェル。そうよね、殿下?」
「まぁ、そうだな」
気まずそうに同意した殿下に、アシェルはあからさまに顔をしかめる。
「ロッテをエスコートするって、自ら言い出せるようにならないと。いつまでたっても立派な紳士になれないわよ。ほら早く。ロッテをエスコートしてあげなさい」
エリザ様の押し売りすぎる発言に、思わずため息をつく。
「エリザ様。私は一人の方が気楽だと思うタイプなので、どうぞ、お気になさらず」
ニコリと微笑むと、エリザ様と姉が同時に天を仰いだ。
「さすがアーク寮生と褒めるべきか……」
殿下の言葉が風に乗って、月夜に舞う。
カラスの姿で復活したお姉様のこと。
掲示板を巡る過去の話に、殿下は許されて私は許してもらえそうにないこと。
(お姉様は何で死んじゃったの?)
その答えにたどり着くには、まだ寄り道が必要らしい。
(というか、お姉様は私に過去を見せて、どうしたいんだろう……)
胸の中で呟く私をのけ者にして、殿下の肩にとまり楽しそうにさえずる姉。
(あんなに楽しそうにできるのに、なんで死んじゃったのよ)
私はすっきりしない気持ちを抱えながら、仲良しな彼らのやり取りを、冷めた目で見守るのだった。
*第一部『きっかけ』完*




