許される罪、消えない罪3
「殿下は、なぜジャスティスリークを放置したままにするんですか?」
静かに、けれどはっきりと、言葉を放つ。
彼は目を閉じ、しばらく何も言わなかった。
実際はそこまで長くないのかも知れない。けれど私にはとても長い間に感じ、彼は答える気がないのだろうと思った。
「それは……」
殿下が再び目を開け、覚悟を決めたような表情をこちらに向けた。
「誹謗中傷はしてはならぬことだ。ただ、この世界には、他人を気にせず、愚痴を吐き出す場所も必要だと思う。それに」
殿下の薄い唇が閉じられ、今度はすぐに開く。
「ディアと約束したから」
月が雲に隠れ、中庭はさらに暗さを増す。
「約束ですか?」
聞き間違いなのだろうかと、訝しみながらたずねる。すると殿下は、少し困ったような表情を、私に向けた。
「あの掲示板の企画を考えたのは、ディアなんだよ」
信じ難いことではあるけれど、彼の言葉には偽りがないように思えた。
「つまり、管理者が姉ということですか?」
問いを投げかけた私の声は、少し震えていた。
(もしお姉様が管理者だとしたら……)
彼女がジャスティスリークに行き着いた理由も、悪意ばかり集めたような掲示板で正義を訴えていた理由にも説明がつく。
(でも、あんな最低な掲示板の管理者がお姉様だなんて)
出来れば嘘だと言って欲しい。
殿下を告発すれば、姉の名誉が回復するはずどころか、道連れになってしまうから。
(嘘よ。お姉様は掲示板に関係ないと言って)
祈るような気持ちで、彼の言葉を待つ。
「最初は、不満を声に出すことが出来ない生徒のために、投書箱のような役割を果たすものとして、ジャスティスリークを開設しようとしていたんだ」
「わざわざ秘匿領域にですか?」
「いや、ルクス寮の公式ホームページに上に用意するつもりだった。ただ、プロジェクトの途中で、開発を頼んでいた者のアーケインステーションがウイルスに感染し、外部に枠組みの情報が漏れてしまった」
フィデリス殿下は微かに眉を寄せ、話を続ける。
「そして、ジャスティスリークの名を模した掲示板が、いつの間にか、シャドウレイヤーに開設されていたんだ」
「殿下はどうやってその存在を知ったんですか?」
「それは……」
殿下がチラリと私の背後に視線を移動させた。
「僕が姉に教えたからだ」
声がして、反射的に振り向く。するとそこにいたのは、思いがけない人だった。




