ジャスティスリーク4
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18:返信者:ID:???
エリザ様って、数日前に開催された殿下主催のお食事会でうざかったって聞いたんだけど、詳しい人いない?
19:返信者:ID:???
知ってる!ソリスの生徒が食事中、席を立つ時にお皿の横にナプキンを置いちゃったら、嫌味っぽく注意されたって話でしょ?
20:返信者:ID:???
食べる前に塩を振らないことって、注意された子もいるらしいよ
21:返信者:ID:???
給仕された食事を、折角だから熱々のうちに楽しもうとナイフを入れたら、「もう一人分が給仕されるまで待つこと」って、怖い声で言われたって話も聞いたわ
22:返信者:ID:???
なにそれ、そのくらいで目くじらたてなくてもいいのに
23:返信者:ID:???
まぁ、彼女はお貴族様ですから
24:返信者:ID:???
でも、正直なところ、マナーは大事だと思う
25:返信者:ID:???
その人の教養が見てすぐわかるものね
26:返信者:ID:???
ソリスの生徒って、粗雑な人が多い印象だし
27:返信者:ID:???
ナプキンなんか、別にどこに置いてもいいじゃん
28:返信者:ID:???
ほんと、そう
29:返信者:ID:???
でもまぁ、エリザ様が苦手な気持ちはわかる
30:返信者:ID:???
あざとい部分が見えるしね
31:返信者:ID:???
そういう話は、個スレを立てて、そっちでやって
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スレッドは急速に過熱し、いつしか「いじめについて議論する場」から「特定個人の陰口を言う場」へと変貌していったようだ。
(しかもエリザ様が誹謗中傷されていたなんて、全く知らなかったわ)
まじまじと画面に記された「エリザ」という文字を見つめる。
(少し前なら、いい気味って思えたかも知れないけど)
今はそうは思えない。
脳裏にクラウディアの記憶の中で見つけた、幼い殿下とエリザ様と姉の三人が、無邪気に微笑む仲睦まじい写真を思い出してしまったから。
(お姉様はどんな気持ちでこのスレを追っていたんだろう)
浮かんだ疑問の答えは、すぐに見つかった。
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32: スレ主:ID:NobodyHere
皆さん、私の意図を誤解しているようです。私は特定の個人を攻撃するためにこのスレを立てたわけではありません。誰にでも失敗はあります。それを責め立てるのではなく、互いに正しい方向へ導くための行動を求めているのです。
それに、あなた達が口にする話題は、どれも噂の域を出ないものばかりです。何が真実で嘘なのか。正しい情報を見極める力を、もう少し養うべきなのではないでしょうか。
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どうやら姉は、留まるところを知らないエリザ様への悪口を、必死に鎮火させようとしていたようだ。
(お姉様らしいわ)
親友であるエリザ様を誹謗中傷する人から守ろうとする書き込みは、私の知る姉そのものだ。
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33:返信者:ID:???
は?スレ主は神ですか?
34:返信者:ID:???
うざ
35:返信者:ID:???
ここは自由な書き込みが許される掲示板です
36:返信者:ID:???
しかも、みんなのもの
37:返信者:ID:???
結局スレ主も目立ちたいだけの、偽善者ってことだろ?
38:返信者:ID:???
スレ主の正体を暴こうぜ。もしかしたらボロが出るかもしれないし
39:返信者:ID:???
のった
40:返信者:ID:???
なにそれ、楽しそう
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それ以降、一致団結したスレ民は、スレ主である姉の正体を暴こうとする方向に向かっていた。
結局のところ、様々な人の名が書き込まれるも、スレ主が姉である証拠は上がらず、いつの間にかこのスレは、過疎って過去ログ倉庫に飛ばされたようだ。
「これは……」
ルシュが絶句する。
「ネットの悪い所を凝縮したようだわ」
クロエが目を細める。
(お姉様が本来議論したかった話題は、完全に横道に逸れちゃった)
さらに、彼女が掲げた「正義」は勝手に暴走し、彼女自身を標的に変えてしまった。
(お姉様が望んだのは、改善だったのに)
アレックスの言う通り、掲示板という匿名性のある場では、その意図は簡単に歪められ、加害するための道具として使われてしまう。
その有様を目の当たりにした私は、ショックを受けつつも、どこかで「そんなもんだよね」と諦めの気持ちになる。
(だって私は、こういう掲示板を、もううんざりするほど目にしたことがあるもの)
魔導ネットワーク上にある大小様々な掲示板では、欲望のままに言葉を操り、他者を攻撃し傷つける文面がずらりと並び、今この瞬間も誰かが誰かを攻撃し続けている。
しかも変に正義感を持って、傷つく誰かを庇う発言をしたところで、火に油を注ぐだけ。
自分に火の粉がかからないよう、傍観者でいることが、魔導ネットワーク上では唯一の防衛策だ。
だから、匿名の攻撃から誰かを救おうだなんて考えない方がいい。
(お姉様は、人の持つ善の心を信じすぎたのよ)
つい、そう感じてしまう私は、今も生きている。
(それが現実だわ)
私は腕を組んだ手に力を入れる。それから片眉をあげて、唇も噛み締めた。




