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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第一部:きっかけ
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談話室にて2

「アレックスに、情報提供をお願いできるかな」


 両手を合わせ、クロエにお願いする。


「オッケー。早速メッセージを送っておくね」


「ありがとう、すごく助かる」


「いいわよ、このくらい。親友の頼みだし、私だってそのサイトの存在は気になるもの」


 頼もしい親友クロエは、早速スペルタッチの画面を指でなぞりはじめる。


「それにしても、一般の検索エンジンでアクセスできない裏サイトに、わざわざ名指しで悪口を書き込む奴って、相当ストレスたまってるんだろうな」


 ルシュは頬張っていたクッキーを紅茶で流し込むと、もっともな意見を述べる。


「けど、そういうサイトにある掲示板の書き込みは、時間経過で投稿内容が消える設定になってることが多いって聞いたことがあるからなぁ」


 特定は難しそうだと、ルシュが匂わす。


「そもそも、クラウディア様が使っていたスペルタッチ内に残されたデータは調べたの?」


 手にしたスペルタッチの画面から視線をそらし、クロエが会話に参加してきた。


「それが、姉のスペルタッチは、フィデリス殿下に預けたあと行方不明のままなの」


「え、まだ返してもらってないのか?」


 ルシュが驚いたように言う。


「お兄様経由でお父様に確認してもらったけど、まだ返却されてないんだって。もう三ヶ月も経つのに」


「中身を調べるのに三ヶ月もかかるって、おかしくないか?」


 ルシュが訝しむ。


「私もそう思う。けど、お姉様が亡くなってからフィデリス殿下とは、何というかお互い避けているというか……」


 無礼に当たらない言葉を思いつかず、口ごもる。


「クラウディア様繋がりだったわけだし、お互いどうしたって、しんみりしちゃうものね」


 クロエは、気遣うように私の腕に手を添えながら続ける。


「それに加えて最近殿下は、エリザ様と懇意にされているみたいだし。何となく会うのはお互い気まずいもん」


 クロエが言い出し辛いことを、ズバリ指摘する。


「それは仕方ないだろ。殿下はこの国の跡継ぎを残す義務を背負っている訳だし、一生独身ってわけにはいかないんだから」


 国民の意見を代弁したルシュは、クロエに負けじと言い返す。


「それは理解した上で、親族的には複雑な感情を抱くわけ。まだクラウディア様が亡くなって三ヶ月なんだし」


「だけど、殿下がフリーになったことで、婚約が保留になりかけてる奴らがチラホラ出てきてるわけだし」


 負けじと言い返してきたルシュが明かす情報は初耳だ。


「え、そうなの?」


 私はルシュに「説明を求む」と目で訴える。


「もちろん婚約破棄なんて体裁が悪いから、あくまでそういう話を匂わされた奴がいるって噂が流れてるだけだけどな。けど、かなり真実味のある話だと思う」


「そうなんだ」


「まぁ、殿下は婚活市場で一番魅力的で、高値で売れる事間違いなしな商品だしね。みんながこぞって入札したがるのも無理ないわ」


(さすが実家が商会を切り盛りしているだけのことはある……)


 クロエの例えは、実に彼女らしく、そしてわかりやすいものだった。


「しかも、この機会に殿下に近づこうとしているのは、貴族連中だけじゃない。国内の有力商会の令嬢たちも、こぞって殿下に群がり始めているみたいだし」


「確かに、商会経営が上手く行っている私の実家みたいな中産階級が次に狙うのは、国内における影響力……つまり誰にもわかりやすく名誉とされる、貴族の称号だもの」


 クロエが補足する。


「まぁ、貴族だってピンキリだけどな。ただ、フィデリス殿下が商会の娘……つまり、庶民と結婚することが、国民感情も含め許される可能性が高い、絶好のチャンスであることは間違いない」


「そうね。クラウディア様の件で傷心した殿下を慰めた優しくて素朴な子は庶民受けがいいもの。『階級を超えた真実の愛が、婚約者を亡くし冷めきった殿下の心を溶かした』なんて、陳腐な新聞の見出しが目に浮かぶわ」


 クロエが熱弁し、ふぅと息を吐く。


「ま、殿下の婚約者不在な状況を、好機とみるものが多いってことだ。だから今、誰も彼もがこぞって躍起になっているんだろ」


 ルシュがうまくまとめ、この話題に一段落つけた。


「好機ね」


 つい、ため息がこぼれてしまう。


「あ、ごめん。今の話題はロッテの前でする必要なかったよね」


 クロエが慌てて、フォローに入る。


「すまない。その言い方は配慮に欠けたと思う」


 ルシュもわかりやすく項垂れた。


「気にしないで。お姉様の責任でもあるから。殿下も、年頃の令嬢たちも、みんな、自分勝手に死んじゃったお姉様のせいで振り回されているだけだもの」


 もう手放せたと思っていた、姉を許せない気持ちが自然と込み上げる。


「ロッテ」


 クロエが、私の肩をそっと抱き寄せる。


 私は寄りかかるようにして、彼女に体重を預けたのであった。

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