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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第一部:きっかけ
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真夜中の訪問者1

 カラスだろうと、なんだろうと、お姉様が復活した。


 それだけが私にとっての事実だ。それ以外の、特に都合の悪い部分は全て無視することにした。


 かつて自分が姉を無視していた事実を上書きするように、彼女とべったりの日々。それはもう、姉のことで悩むことなく、久しぶりに安眠できる素晴らしい毎日だったのだけれど……。


「おい、起きろ」


 容赦なく揺さぶられ、私は目を開ける。


「君に話がある」


 召喚された悪魔のように、白いリネンのパジャマを着たアシェルの……亡霊が立っていた。


「ついに亡霊になったの?」


「勝手に殺すな」


 どうやら彼は生きているようだ。


「じゃあ、なんでここにいるの?」


 寝ぼけ眼の目をこすりながら、時計を見ると午前零時を回っていた。


「部屋の鍵はしめてたはずだけど。あ、そっか」


(夢だ)


 もう一度ゆっくりと部屋の中を見回した。


 私は今、自分の部屋の自分のベッドの上にいる。すぐそばには、こちらを見下ろし仁王立ちする亡霊のようなアシェルがいる。


 彼がここにいるのは、私の事情でさんざん振り回してしまったという、潜在的に抱える彼への罪悪感のせい。


(そう。これは、全部夢)


 睡魔に勝てず、自分を言いくるめた。寝返りを打ち、再び意識を手放そうとした瞬間。


「おい、寝るな」


 無理やり布団を剥がされた。


「え、なに?夜這いするつもり?」


 体を丸め、布団を取り戻そうと手を伸ばす。


「違う」


 アシェルが私の腕を無遠慮に掴んだ。


「話がある」


「明日にしてよ……眠い……」


 彼の手を振りほどき、再び眠りの世界へと旅立とうと目を閉じる。


「おい!」


 今度は腕を引っ張られ、渋々目を開ける。


「痛いって!もうなんなの!?」


 仕方なく彼を睨みつけたまま、体を起こす。


「どういうこと?」


 ベッドボードにもたれ掛かりながらたずねる。


「知るか」


 短く返され、ため息をつく。


 それから、たった今、自分の身に降りかかった状況を再度確認する。


(突然アシェルが鍵をかけていた私の部屋に現れ、安眠を妨害し、こちらを睨みつけている……)


 小さく首を振る。


「やっぱり、意味不明な状況だわ。一体どういうこと?」


 目をこすりながら、不機嫌さを全開にしたら、ふて腐れた声になった。


「こっちだって、意味不明だ」


 ベッドの横に立つアシェルは腕を組み、チラリと何かに視線を向ける。


(なんなの?)


 彼の視線の先には、私の枕の横に置いてあるクッションの上で、ゆったり羽を休めるクラウディアがいる。


 彼女は私と目が合うと、どこか勝ち誇ったような顔を向けてきた。


「え、お姉様?」


「君が僕に何をさせたかを、忘れたとは言わせない」


「何の話?」


 寝起きの頭で必死に考えるけれど、彼の話がまったく飲み込めない。


「君はくだらない捏造写真で僕を脅し、無断外出させ、挙句の果てに墓を暴かせた。しかもそれで終わりではない。君の家の敷地内に不法侵入までさせておいて、まだ言い訳する気か?」


 こちらを見下ろすアシェルは、私たちのスリル溢れる冒険談をまとめて口にすると、口元を不満げに結んで腕を組む。


 彼が私に向ける視線には、明らかに怒りが籠っている。


「いきなりどうしたの?」


「僕だって、自分が真夜中であるというのに、君のベット脇に立っているという、悪夢極まりない状況に、頭の整理が追いついていないんだ。全くなんなんだよ」


 彼はイライラしたように、頭を掻いた。


「えーと、それは……つまり……あ、夢遊病になったってことね?」


 不可解な状況にぴったりくる答えを発見してしまう。寝起きにしては、冴えている自分を褒めたくなった。しかし、眉間にシワを寄せた彼は、低く唸り、いらだちをあらわにする。


「もしかして違うの?」


「部屋にいたら、いきなり窓から飛び込んできた君のペットに頭をツツかれたんだ」


「え、お姉様が男子の部屋に不法侵入をしたってこと?」


(あの品行方正なお姉様が!?)


 大事件なんだけどと、私はあんぐりと口を開けたまま、クッションの上でくつろぐ姉を見つめる。


「だって私はカラスだもの。淑女のマナーは当てはまらないわ。かー、かー」


「実にうまい鳴き真似だ。やはり君はただのカラスだな」


 アシェルが嫌味たっぷりに告げる。


「ちょっと、お姉様に失礼だから。で、結局のところ、どうしてあなたは私の部屋にいるの?しっかり鍵をかけておいたはずよ」


(用もないのに、女の子の部屋に侵入するなんて、紳士の風上にも置けない人ね)


 圧倒的有利な状況を前に、非難めいた視線を彼に送る。


「君に強制的にさせられた違反行為の数々を、実家に告げ口されたくなければ従えと、そこの忌々しいカラスに脅された。ちなみに、この部屋の鍵を開けたのは、君の無礼なカラスだ」


 不機嫌さを隠そうともせず、アシェルは噛みつくように自らの無実を主張した。


「つまりお姉様が、あなたを私の部屋に招き入れたってこと?」


「ああそうだ」


 アシェルはわざとらしくため息をつくと、手のひらを上にしてこちらに突き出した。


 彼の手のひらの上にあるのは、小さな透き通る球体状の結晶が二つ。


「……それは?」


 あやしい結晶に視線を落としながらたずねる。


「魔法記録を神経と同期させる魔道具『シナプスレコーダー』だ」


「シナプスレコーダー?」


 知らない魔導具の名前が飛び出し、首を傾げる。


「僕が作った魔導具だ。いいか?この中には、例のバックアップ結晶から取り出したデータをエンコードし直したものが入っている」


「つまり?」


「今すぐ、これを耳に差し込み使用しろ、ということだ」


「なにそれ意味わかんない。そもそも、そんなこと誰も頼んでないんだけど」


「君の姉に脅されて、仕方なく作成したんだぞ」


 吐き捨てるように言われ、私はようやく状況を理解した。


「お姉様……」


 私は姉を睨む。


「だってロッテがいつまで経っても私の記憶を再生してくれないんですもの。こうするしかなかったのよ」


 全ての責任は私にあると言わんばかり。姉はツンと顔を背ける。


「だからって、何もアシェルまで巻き込まなくてもいいじゃない」


「言っておくが、最初に僕を面倒事に巻き込んだのは君だけどな」


 アシェルが低い声で告げる。


「私は今、あなたを庇ったつもりなんだけど」


「いまさらだ」


 姉から視線をそらした私は、アシェルと無言で睨み合う。


「やっぱり二人は息がピッタリね。意外な組み合わせだから考えもしなかったけど。早くエリザに知らせてあげたいわ」


 姉は、しれっとした顔で告げると、嘴で器用に毛づくろいを始めた。


「姉に余計なことを吹き込むな」


 相手を脅す気たっぷりな、とても低く怖い声を出して、アシェルが姉を見つめる。


「あら、エリザはあなたの社会不適合具合をいつも心配してたのよ?私の妹の部屋に真夜中に訪れるくらい二人が仲良くなったって聞いたら、喜んで紳士らしくあなたに責任を取るように迫ると思うわ」


 クラウディアが優雅な声で、彼にとどめを刺す。


(お姉様は、こんな強烈な性格じゃなかったはずなのに……)


 いつかカラスに戻ってしまうのではないか。


 消し去ったはずの不安が再び浮上し、澄ました顔をしてアシェルを挑発する姉を見つめる。


 そこにいるのは、黒く光沢があり、鋭い眼光と大きなクチバシを持ち、羽が青く光るお喋りな――カラスだ。

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