残された家族1
姉が亡くなった日を境に、ルグウィン侯爵家から笑みが失われた。
兄は以前にも増して無口になり、廊下でぼんやりと立ち尽くすことが多くなった。
慈善活動に精を出していた社交的な母は、姉の部屋に籠もり、彼女の形見を見て毎日泣いている。
頼りになるはずの使用人たちも、物憂げな表情で目を腫らしつつ、ルグウィン侯爵家の行く末について不安げな表情を見せていた。
そんな中、執事のロジェと父だけが、姉を失った悲しみを胸に秘め、粛々と業務をこなしているという状況だ。
ちなみに喪に服すためという理由で学校を一ヶ月ほど休学し、家族と共に領地にこもる私は、時折ヒステリックに泣き叫ぶ母の相手をさせられている。
(私が死んだら、こんな風に悲しまないくせに)
母が感情を爆発させるたび、姉と自分を比べ、卑下する気持ちは変わらない。
「あの子の悩みに気付かなかった、私のせいよ」
母が自分を責めるたび、ドレスのポケットに何枚も忍び込ませてあるハンカチを、しおらしく差し出す。
「私もそうよ、お母様」
母を庇うように同意しながら、内心思う。
(何も変わらない)
姉がいないのに、姉に囚われている。
密かに姉の死を喜ぶ私は、やっぱり仲間外れ。それなのに、姉の残したものから思い出を手繰り寄せ、共有し、お互いを支え合うことを、周囲から強制させられている。
姉が欠けた屋敷に漂うのは、重く、暗く、冷たく、沈み込む雰囲気。
(まるでお姉様の亡霊に、底なし沼に屋敷ごと引きずり込まれるみたい)
私は母にハンカチを差し出しながら、以前と変わらず、姉の存在に支配される日々を送っていた。
そんな中、気丈に振る舞っていた父が感情を爆発させた。