ただのカラス2
突如カラスと会話できる能力を手にした私は、鳥かごを抱え、迷わずアシェルの部屋に向かった。
アーク寮内にある彼の部屋は、すでにチェック済み。階を移動するだけで、ものの数分でたどり着く。
保護者が知ったら、「年頃の男女が簡単に行き来出来るなど、けしからん!!」と学校に物申しそうなセキュリティの甘さだ。
現に貴族籍の子供が多く所属するルクス寮では、男女が行き来する際は、未だ届け出が必要らしい。
面倒な手続きが必要ない理由は、ここがアーク寮だからに尽きる。
アーク寮生においては、性別より個性が優先される風潮なので、誰も気にしないからだ。
階段を登り、同じドアがズラリと並ぶ部屋の前を走り抜ける。廊下の壁にかけられた時計が示す時刻は、午後十時を過ぎたところ。行き交う生徒の姿は見当たらず、目的地に最短で到着する。
『アシェル、開けて。緊急事態なの』
バンバンバンとなりふり構わず、彼の部屋のドアを叩く。
ドアの下から微かに光が漏れているので、まだ起きていると確信した瞬間、わざとらしく明かりが消えた。
「無視しようとしても無駄よ。起きてることはわかってるわ。はやく開けて!」
大声で叫びながら、ドアを叩く。
突如ドアが開き、暗闇からパジャマ姿のアシェルが顔を出す。私の拳は危うく彼の顔面を直撃しかけた。しかし、彼が咄嗟に私の手を掴み、ことなきを得る。
「うるさい、黙れ。君に割く時間はない。では」
不機嫌極まりないアシェルが、私の手を乱暴に放り投げて、ドアを閉じかけた。
「待って!」
慌てて足のつま先をドアと部屋の間に挟む。
「なっ!?」
彼はカッと目を見開き、私のつま先を見て固まった。
「緊急事態が起きたの」
「時間外だ。帰ってくれ」
「そこをなんとか」
「断る」
「カラスが喋ったの」
「それは一大事だな。明日詳しく聞こう」
「だめよ、今聞いて」
「断る。切断されたくなければ、今すぐ足をどかしてくれ」
流石にドアを引くようなことはしなかったけれど、アシェルは、露骨に迷惑だと言いたげな表情を向けてきた。
「一意見としてお伝えしておくと、そもそもこの状況が、紳士淑女にあるまじき状況だし、誰かに見られたら、お互いまずいことになると思うわよ?」
手にした鳥かごの中にいる泥棒カラスが、冷静な声で指摘する。
顔を顰めたアシェルが鳥かごを見つめて固まる。
「信じてくれた?」
「嘘だと言ってくれ」
ため息をつきながらも、彼はドアを抑える力を緩めた。
その隙に、「お邪魔します」と一言添えて、すかさず彼の部屋に侵入した。




