消えたカラス2
「えーと、これが打開策?」
「ネットで広く呼びかければ、目撃情報が集まる可能性がある。何百何千もの目を借りるのは、現状では最も効率的だろう」
「それは確かに一理あるけど……」
私は眉をひそめる。
「問題は、拾った人に、エテルナキューブのことを隠し通せるかどうかじゃない?」
(エテルナキューブ経由で、ネクロメモリアを無断使用したことが知られたら、問題になるのは、間違いないし……)
最悪学校から停学を言い渡されるかも知れない。私は自己責任で仕方がないとしても、アシェルが巻き添えになるのは避けたい。
「アシェル、このアカウントの投稿は消そう」
彼の端末に手を伸ばすも、ひょいと交わされてしまう。
「ネクロメモリアを使ったって知られたらまずくない?停学になるかもよ?」
「君は保身に走るタイプなんだな」
冷ややかな視線が飛んできた。
「私は気にしないわ。ただ、こっちの事情に巻き込んだ形になっているあなたに迷惑をかけるのは、違うかなと思っただけ」
「脅して、無理やり手伝わせておいて、いまさら偽善者ぶるな。それに停学なんて怖くない」
アシェルはきっぱりと言い切る。
「……そう」
小さく呟く。
「なら、好きにすれば」
突き放すような言い方になってしまったが、これ以上の干渉はしないことにした。
(だって、本人がそれでいいって言ってるし)
これ以上私にできることはない。
諦めの境地で、彼が手にしたスペルタッチの画面を見つめる。
「拗ねるな」
「拗ねてないし」
いら立つ気持ちを伝えようと彼の横顔を睨むも、全く効果はなさそうだ。
「落ち着け」
「落ち着いてる」
「シャルロッテ」
「なに?」
名前を呼ばれ、顔をあげる。すると、アシェルの透き通る紫色した目が、今回ばかりは私をしっかり映していた。
「現状、記憶の痕跡が入るエテルナキューブを飲み込んだカラスの過去データがないため、あのカラスが何をしでかすかわからない状況だ」
「それは、そうだけど」
「その上、あのカラスはクラウディア様の記憶を……いわば魂の欠片を飲み込んでいる状態なんだ。だから、早急に発見することを優先した。それに……」
言葉を切った彼は、バツの悪そうな表情になる。
「あのカラスを逃がしたのは、僕の責任でもある。だから、停学になるのは構わないと言った」
罪悪感を両肩に背負ったかのように項垂れているくせに、反論は許さないといった口調のアシェル。
「もしかして、反省してるの?」
「さすがにあれは、君のせいじゃない。僕のミスだ」
驚いた私は、思わず彼を無遠慮に凝視してしまう。
「何だ、その目は」
「だって……」
まさか彼が素直に非を認めるとは予想外だったから。
(ちゃんと人間らしい部分があるんだ……)
唖然とし、そんな失礼な感想を抱く。
「この投稿では、エテルナキューブのことを『大事な荷物』という表現で濁してある。それに万が一騒ぎになったとしても、その時はその時だ。少なくとも、動かなければ可能性すら掴めない」
(私の負けね)
彼の意見に反論の余地はなかった。
「ちなみに、謝礼って具体的にはなにを?」
「そんなもの、見つけてから考えればいい」
「無責任すぎるのでは?」
「大事なのはスピードだ。考える時間があるなら、手を動かせ」
彼が再びスペルタッチに向き合う。
ほどなくして、投稿ボタンを押す音が小さく響いた。
「あとは全国に散らばる、フレアスクロールユーザーたちの拡散力に任せよう」
「本当に泥棒カラスは見つかるのかな」
不安げに呟いた私に、彼は薄く微笑む。
「希望がなければ、こんな危ない橋は渡らない。それに、ネットワークの力を侮るな」
彼の言葉が心強く感じられたので、信じることにする。
一気に気が抜けたようになった私たちは、風に揺れる木々の音を聞きながら、しばし黙り込む。
どこか遠くでカラスの鳴き声が聞こえたような気がしたのは、きっと気のせいだ。




