表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第四部 誰が姉を殺したの?
163/167

月光舞踏会2

 月光舞踏会は学校中を使って行われる。場所ごとに雰囲気が微妙に違うのは、この学校らしいと言えるのかもしれない。


 ひとしきり食事に舌鼓を打ち満足した私たちは、レモンスカッシュの入ったグラスを片手に、少しだけ距離を取った場所からそれぞれの様子を観察中だ。


「ルクスの集まる場所だけ見たら、まるで王城のパーティに招待されているみたいよね」


 クロエの素直な感想に大きく頷く。


 ルクス寮の生徒たちが集まっている場所は、まるで貴族の社交場そのものだった。華やかなドレスやタキシードに身を包む彼らの動き一つ一つは、悔しいけれど洗練された気品が感じられる。


「エヴァレット伯爵家のアラスター様が、王国魔法士団の入団試験で最高評価を取ったとか」


「カーネル男爵令嬢が、今季のデビュタントの中で一番の注目株なんですって」


「そう言えば、冬の舞踏会に向けて、我が家の庭師が特別な魔法の花を育てたの」


「それは楽しみね。ところで、その庭師の出身はどちらですか? 我が家の庭師は王室御用達でして、近隣では評判の高い方ですのよ」


「出身地はごく普通ですが、腕前は申し分ありません。実際、庭園の審査員を務められた方々からも絶賛されておりましてよ」


「まあ、それは結構。ですが、どれほど優れた庭師でも、格式ある家が管理する庭園には敵わないものですわ」


 そんな会話があちらこちらから聞こえてくる。


 話題に上がるのはほとんどが家名や功績に関することばかり。そこには微妙な牽制や見栄が混じっていて、話している本人たちは穏やかに微笑んでいるけれど、その裏側に張り詰めた空気が漂っているのが分かる。


(優雅だわ……でも、私はやっぱ疲れそう)


 庭師の出身地でいちいち牽制し合う会話を耳にしつつ、グラスを傾けた。


「ソリスの生徒は相変わらずだな」


 ルシェの呆れたような声に、ソリス寮の集団に目を向ける。彼らが集まる場所は、ルクスとはまた違った活気に満ちているようだ。ルクスより一層鮮やかな色のドレスや装飾が目を引き、声高な笑い声が響いている。


「ねえ、この前うちの店で出した魔法茶葉、試した? すごく評判が良くて、もう次のロットも予約でいっぱいなの」


「ええ、聞いたわよ。香りが良いって話題になってるよね。でも、うちの新しい調香キャンドルも負けてないわよ。魔法で空気を浄化する効果がついてるんだから」


「それは便利そうね。でも、やっぱり香りといえば飲み物から直接楽しめる方が日常的じゃない?」


「まあ、そうかもしれないけど、キャンドルはおしゃれなプレゼントにもなるから、売り上げがどんどん伸びてるのよ?」


 ソリスの生徒たちは、商家の娘や息子が多い。彼らの会話の中心には家業や新製品の話題がよく出てくる。自分たちのブランドを自慢したり、他人の成功を素直に称賛したりする様子は、ある意味でルクスよりも温かみがあって親しみやすい。


 でもその裏には、彼らなりの競争意識があるのだろう。さりげなく相手よりも自分の方が優れていることを示そうとする言葉が交わされるたび、その空気の動きを感じ取ることができた。


「商人の感覚って、本当に独特ね。言葉の中に数字が見え隠れしてる気がするわ」


 思わず本音を口にする。


「そりゃそうよ。儲けてなんぼだもの。ちなみに、ロッテの未来の旦那様。アシェルは私にとって金の成る木にしか見えないから安心して」


 商人代表クロエがけろりとした顔で告げる。


「それのどこが安心ポイントなんだよ……」


 ルシュが私の代わりに的確な指摘を入れてくれたので、良しとする。


 最後に私たちが視線を向けたのは、我らがアーク寮の生徒たちだ。他のどの場所とも違う独特の雰囲気が漂っている。


「あれ、君、そのドレス……自分で作ったのか?」


「そうそう!見て、この仕掛け、押すと煙が出るの。すごくない?」


「リリアのスカートに縫い付けてあるのは?」


「よくぞ気付いてくれたわね。死霊の叫びモチーフのぬいぐるみ」


「めちゃくちゃいいじゃん」


 そんな声が聞こえてくる。アークの生徒たちは、まるでこの舞踏会そのものを遊び道具にしているかのようだ。ドレスのデザインも個性的すぎて、どう見ても正統派な舞踏会の場に馴染んでいない。


 一人は背中に奇妙な羽をつけているし、別の生徒は仮面舞踏会でもないのに、顔全体を覆う仮面をつけている。


「アークの連中って本当マイペースよね。でも、そこがいいんだけど」


 クロエの意見にうんうんと頷き、再びグラスを口に運ぶ。


「……シャルロッテ」


 名前を呼ばれて振り向く。するとすぐ傍にアシェルが立っていた。


「うわ、いつの間に」


 驚いてのけぞる。


「アシェルは、かなり前からいたけどな」


「ええ、ロッテにひたすら無言のアピールをしてたわよ」


 ルシェとクロエが驚きの発言をした。


「お願いだから、声をかけて。それと、気づかない間にいるのやめてくれない?びっくりするから」


 私は小声で文句を言いながらも、自然と彼の隣に立つ。彼は言い訳もせず、微かに笑う。


「ルシュ、アシェルが笑ったわ」


「見た。笑ってた」


 外野二人が、大げさな声をあげる。


「確かにアシェルの微笑みはレアだけど、露骨過ぎるから。というか、彼と散歩してくる」


 このまま二人にからかわれてはたまらないと、私は彼の腕を引いてその場から離れる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ