表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第四部 誰が姉を殺したの?
154/167

突然の訪問2

 どうやら父と母は、コンラッド侯爵家が来訪する事自体は把握していたらしい。


 その証拠に、サロンのソファーに向かい合って座る私たちの間にあるローテーブルの上には、これでもかと言うくらい、お菓子が並べられているから。


(朝から屋敷に漂っていた、いい匂いの正体はこれだったのね)


 お行儀良く並ぶ、マドレーヌに薄目を向ける。


「こちらとしては、即答するわけにはまいりません」


 父の言葉に、アシェルの母が穏やかに頷いた。


「もちろんです。喪中であることは重々承知した上で、このような不躾なお願いを申し上げに訪問したことを、こちらも理解しておりますわ」


 バイオレット様が目を伏せる。


「ほんとうに、クラウディアのことは、残念でしたわ。ロジーナの……ご家族の気持ちを思うと、我がことのように胸が痛みます」


 彼女は胸元に手を当てて、慈悲深い表情で母を見つめる。


「ビィオ、ありがとう。あなたから届く手紙は、私の心の支えになったわ」


 母もまたバイオレット様を見て、弱々しく微笑む。


 その瞬間、ピンときた。


(たぶんこの二人は、夫に隠れて繋がっている)


 なぜなら、しおらしい顔をしている二人は顔なじみで、貴族の婦人会の中心人物で、以前は良く交流していたことを思い出したから。


(そうよ。だからお姉様とエリザ様も仲良くて、私だってコンラッド家に遊びに行ったことがあるのよ)


 それが一体いつ、宿敵のような位置になったのか。


(原因は、確実にお父様たちにあるに違いないわ)


 私は父に視線を向けた。むっつりと口を閉じ、腕を組んだままコンラッド侯爵を睨んでいる。ついでに向かいに座るコンラッド侯爵を確認する。すると彼もまた、私の父と同じようにぶすっとした顔で父を睨んでいた。


 どうやら父とコンラッド侯爵の間には、いがみ合う何かがあるらしい。


 テーブルに用意された、いい匂いを発している焼き菓子を挟んで互いに威圧感を醸し出す父たちの冷え冷えとした雰囲気。まるで目に見えない壁が二人の間にそびえているかのような気まずい空気は、ただならぬ感じだ。


「それで、侯爵閣下。この話はどうやら貴殿のご子息から持ち上がった話のようだが、アシェル、君は本気なのか?」


 父が、低く響く声で口を開いた。その言葉に、両親に挟まれて座るアシェルが背筋を伸ばす。


「はい、閣下」


 毅然とした口調で答えるアシェル。その姿に本気度を感じて、思わず唾を飲み込む。


「シャルロッテ嬢のことを心から尊敬し、大切に思っています。この先も、彼女を支えたいと考えています」


 あまりに真剣な眼差しに、私は顔が熱くなるのを感じた。


 父がため息をつき、眉をひそめながら再び口を開く。


「言葉は立派だが、責任を取る覚悟はあるのか。君のような若造が――」


「あなた!」


 母が父を鋭く睨みつけた。父が口をつぐむのを見て、私は驚いた。母がこんな風に父を制するのは、あまり見たことがなかったからだ。


「あなた、子どもたちは関係ないのよ?アシェルに八つ当たりするのは間違いよ」


「当たってなど……」


「あなたは、まだ素直に謝ることができないわけ?」


「謝るだと?私が?誰に?」


 父が憤慨して眉を吊り上げる。


「あなたが、コンラッド侯爵によ」


 母は落ち着いた声で言い切った。


「あなたたちが険悪になったきっかけなんて、ほんの些細なことじゃないの。思い出してご覧なさい」


「些細なこと……だと?」


 父が眉間に皺を寄せる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ