会いたかった人2
「いやいやいや、待ってよ。絆の制約は闇オークションで購入した怪しくて薄い本に記載されていた違法な魔法で、だから解き方だってわからないって」
私にはその先が続かなかった。アシェルの言葉をにわかに信じることが出来ない。けれど彼の表情を見る限り、嘘ではないと悟ってしまったから。
(アシェルってそんなことするタイプだった?もっとクールでドライな人じゃなかったっけ?)
私の知るアシェルは、いつも冷静で皮肉屋で、自殺願望がある病んでる男子で、それから魔法の天才で、とてもキレイな紫の瞳を持ってる私の親友だ。
(そう、彼は魔法の天才だわ)
だとすると、絆の制約が解けないわけがない。
自問自答して、うっかり答えに辿り着いてしまった私は体の力を抜く。
「いつ解いたのよ」
「キャンプから帰ってすぐ」
「……嘘つき。完全に騙されていたわ」
衝撃的な事実を前に、私はプイと横を向く。
「騙していたことは謝る。けれど、絆の制約がかかっていると思い込んでいた君のおかげで、夏休み実家に戻らないで済んだし、思いがけずキャメロン王国を訪問することが出来た。だから、君には感謝している」
「感謝って……ここにいることが嫌じゃないの?」
顔を戻すと、どこか悲しげに微笑む彼と目が合う。
「僕はこの瞳の呪い……災厄を呼ぶ者とされていたことに、半信半疑だったんだ」
「そうよ。そんなの迷信よ」
力強く言い切ったのに、彼は小さく首を振る。
「迷信なんかじゃなかったんだ。キャメロン王国を訪れ、僕は普通に魔法を使えた。あれはどうしたっておかしい。しかも、今回この施設で詳しい検査を行った結果、僕が異常なほどエーテルを保有できる体質だと証明された」
「それって悪いことなの?」
「今はいい。エーテルが上手く循環できているから。けれど、もし、エーテルを体内に溜め込むようになった場合、僕は気が狂い、きっと周囲の人を傷つけるだろう」
「でもそれって、未来の話でしょう?」
彼を励まそうと、繋がれた手を強く握る。
「今のアシェルは、私の目の前にいるこの人でしょう? 狂ってもいないし、私を傷つけてもいない。アシェルは……私の大好きな人よ」
「シャルロッテ……」
「それに、エーテルが溜まるなら放出すればいいじゃない。あなたは魔法の天才なんだから、それくらい簡単でしょう?」
アシェルが小さく笑う。でもその笑みには、どこか諦めのような色が混ざっている。
「相変わらず君は、単純すぎる」
「単純でいいのよ。みんな物事を難しくしちゃうから悩むのよ」
ルシュの言葉を、さも自分の思いつきかのように告げた。
「私は、今まであなたに助けてもらったから、あなたを助けたい。だから……」
「だから?」
彼の紫の瞳が、私を射抜く。
「だから、今度は私の番ってこと。アシェルが困ってる時は、私が助ける。それが親友ってものでしょう?」
ガゼボに差し込む陽光が、私たちの間に淡い光の帯を作る。アシェルは長い間黙っていたが、やがてポツリと呟いた。
「親友か……」
その言葉には、どこか物足りなさそうな響きがあるように感じた。でも今の私には、その意味を考える余裕はない。
「そう、親友よ。だから、もう逃げないで。一緒に卒業しようよ」
私の言葉に、アシェルは静かに目を閉じた。
「あれから、ずっと考えていたんだ」
「何を?」
「僕はここにいるのが一番安全なんじゃないかってことを」
目を開けた彼の瞳に影が落ちる。