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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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遺跡4

「私ね、お姉様のことを憎んでた。でも同時に、大好きだったの」


 気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。


 まるで誰かが黒いインクを零したかのように、夕陽が私の影を古代劇場の石段にまで伸ばしている。その長い影を見つめながら続ける。


「矛盾してるって分かってる。でも、嫌いじゃなかったのは、本当なのよ」


 まるで私の言葉を理解したかのように、カラスが小さく鳴いた。


「今思うと、本当に嫌いだったのは、お姉様じゃなくて、彼女に嫉妬して彼女を避けていた自分自身なのかも知れないわ」


 認めると、少し心が軽くなった。


「シャルロッテ、それでも君は諦めてないだろう?」


 彼の言葉に、肩をすくめる。だってわからないから。


「ほら」


 アシェルが差し出したのは、さっき地面に投げつけたエテルナキューブだ。夕陽に照らされて、中に閉じ込められた気泡がほのかに輝いている。


「それはもう、要らない」


 私はエテルナキューブから視線をそらす。


「でも、君が持つべきだ」


 有無を言わさぬ勢いで、エテルナキューブを握らされてしまう。


「これはもともと、あなたの持ち物じゃない」


 彼の手に押し返そうとする。しかし、アシェルは素早く手を引っ込めてしまった。


「このキューブの中に、君の姉の記憶の欠片はもうない。でも、君が今までやってきたことは詰まっている」


「でも、これを見たら絶望的な気分になるから、きっとまたイライラしちゃうわ」


「それでも、君が始めたことなんだから、最後まできちんと責任を持つべきだ」


 古代劇場に染み込むように赤く染まる空を見上げながら、私たちはしばらく何も言わずに座っていた。


 その静かな時間が、私の荒れすさんだ心を癒してくれる。


「エテルナキューブのように、僕らの人生なんて、輝いたと思ったら、失敗続きで、何をしても最悪な状況に行き着くように出来てるのかもな」


 彼は肩をすくめる。


「でも、諦めて妥協しながらも、死ねない僕は生きていくしかない。それに」


 彼は言葉を切った。


「それに?」


「それに、怒った君と遺跡を巡るのは、案外スリル満点で悪くなかった」


 夕陽が彼の頬を赤く染めているのか、それとも別の理由なのか、分からない。


 カラスが鳴いた。その声が、まるで古代劇場の観客たちの笑い声みたいに響く。


「そうね。あなたの解釈つきの遺跡巡りは、まあまあ……悪くなかったわ」


 私はエテルナキューブを握りしめる。


「ねぇ」


「ん?」


「全てが終わったら、もう一度。ちゃんとあなたの解説で遺跡を見学しなおしたいわ」


 アシェルがニヤリと微笑む。


「石を蹴らないなら、付き合ってやろう」


「残念。それは、約束できないわ」


 思わず、くすりと笑みがこぼれた。


 夕焼けの光が、私たちの影を重ねて、一つの長い影にする。


 古代劇場の石段に細く伸びるその影は、まるでアシェルと私で演じているお芝居の一場面みたいだと、私は思った。

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