乗り継ぎ列車2
「…………」
ギョッとした顔を、こちらに向けるアシェルと目が合う。
「アシェル、変だと思わない?」
エテルナキューブを握ったまま、彼を見つめる。
「何が?」
彼は無表情のまま、窓の外を見続けている。
「ルミナリウム王国には、うるさい親がいて、私たちを型にはめたがる貴族社会があって、アーク寮の生徒を人生終了だと馬鹿にする人がいて、私たちはたぶん、馴染めてなかった」
「ああ」
「だから家出をしたら、きっとマシになると思ったの」
「そうだな」
「でも、キャメロン王国についてから、詐欺にあって、野宿して、まるで凶悪指名手配犯みたいに、みんなに追いかけられて、それでお姉様は消えちゃって、状況は最悪よ。つまり……」
「どこにいたって、結局は変わらないってことだな」
アシェルは肩をすくめる。
「自分はいつだって、正しいと思って行動しているはずなのに、おかしなものよね」
私は手の中のキューブを見つめる。
「エテルナキューブをは冷たい。でも握り締める手は温かい。矛盾してる。私たちは逃げてきた、でも逃げてる。つまり、全てが矛盾してる」
「この世は、矛盾だらけって言いたいのか?」
アシェルがようやく私の方を向く。
「そうかもね」
私は鳥かごの中のカラスを見る。
羽を畳んで眠っているただの鳥。でも、私にはお姉様に見える。
「アシェル」
彼の名を口にしながら、窓の外を流れる景色に目を向ける。
「私たち、きっと正気じゃないわ」
黄金色に染まるのどかな、田舎町の風景が広がっている。
「そうかもな」
彼は小さく頷く。
「でも、それでいいと思う。だって……」
私は手の中のキューブを見つめる。
「正気じゃないから、こんな旅が出来てるわけだし」
アシェルが低く笑う。
「確かに。普通の貴族なら、こんな三等車両には乗らないだろうな」
「ねえ」
私は彼の目を見つめる。
「私たちって、何を見つけたらゴールなのかな」
「さあな」
彼は窓に頭を寄せる。
「多分、僕らは何も見つけられないんじゃないか」
「うん」
「それで、元通りの生活に戻る」
私も頷く。
「でも、それでもいいわ」
列車が大きくカーブを描く。外から差し込む光が私たちの影を車内に長く伸ばしていく。
「お姉様は、きっと、手の上で転がる私を笑ってるんだろうな」
私は鳥かごの中の、眠ったままのカラスを見る。
「私たち、ほんとバカみたいよね」
誰かが私たちのことを狂っていると言うかもしれない。
(でも、それでいいわ)
世界が狂っているのか、私たちが狂っているのか。
もう、そんなのどうでもよかった。