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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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乗り継ぎ列車2

「…………」


 ギョッとした顔を、こちらに向けるアシェルと目が合う。


「アシェル、変だと思わない?」


 エテルナキューブを握ったまま、彼を見つめる。


「何が?」


 彼は無表情のまま、窓の外を見続けている。


「ルミナリウム王国には、うるさい親がいて、私たちを型にはめたがる貴族社会があって、アーク寮の生徒を人生終了だと馬鹿にする人がいて、私たちはたぶん、馴染めてなかった」


「ああ」


「だから家出をしたら、きっとマシになると思ったの」


「そうだな」


「でも、キャメロン王国についてから、詐欺にあって、野宿して、まるで凶悪指名手配犯みたいに、みんなに追いかけられて、それでお姉様は消えちゃって、状況は最悪よ。つまり……」


「どこにいたって、結局は変わらないってことだな」


 アシェルは肩をすくめる。


「自分はいつだって、正しいと思って行動しているはずなのに、おかしなものよね」


 私は手の中のキューブを見つめる。


「エテルナキューブをは冷たい。でも握り締める手は温かい。矛盾してる。私たちは逃げてきた、でも逃げてる。つまり、全てが矛盾してる」


「この世は、矛盾だらけって言いたいのか?」


 アシェルがようやく私の方を向く。


「そうかもね」


 私は鳥かごの中のカラスを見る。


 羽を畳んで眠っているただの鳥。でも、私にはお姉様に見える。


「アシェル」


 彼の名を口にしながら、窓の外を流れる景色に目を向ける。


「私たち、きっと正気じゃないわ」


 黄金色に染まるのどかな、田舎町の風景が広がっている。


「そうかもな」


 彼は小さく頷く。


「でも、それでいいと思う。だって……」


 私は手の中のキューブを見つめる。


「正気じゃないから、こんな旅が出来てるわけだし」


 アシェルが低く笑う。


「確かに。普通の貴族なら、こんな三等車両には乗らないだろうな」


「ねえ」


 私は彼の目を見つめる。


「私たちって、何を見つけたらゴールなのかな」


「さあな」


 彼は窓に頭を寄せる。


「多分、僕らは何も見つけられないんじゃないか」


「うん」


「それで、元通りの生活に戻る」


 私も頷く。


「でも、それでもいいわ」


 列車が大きくカーブを描く。外から差し込む光が私たちの影を車内に長く伸ばしていく。


「お姉様は、きっと、手の上で転がる私を笑ってるんだろうな」


 私は鳥かごの中の、眠ったままのカラスを見る。


「私たち、ほんとバカみたいよね」


 誰かが私たちのことを狂っていると言うかもしれない。


(でも、それでいいわ)


 世界が狂っているのか、私たちが狂っているのか。


 もう、そんなのどうでもよかった。

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