表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
114/167

クラウディアを取り戻す3

 絶体絶命のピンチを前に、新たな人物が横槍を入れてきた。


「オリビア・ドーンズ、ならびにマシュー・ウッド。一体こんなところで何をしてるんだ?」


「その鳥かごはなんだ」


「駅でスリでもしようとしてるんじゃないのか?」


 治安官が詐欺師二人に詰め寄る。


「い、いえ、滅相もない」


「そ、そうよ。この子達のカラスを預かっていただけで。ねぇ、そうよね?」


 女は私に駆け寄ると、何故かエテルナキューブを私の手に握らせてきた。


(どういうこと?)


 首を傾げつつ、これ幸いとエテルナキューブをしっかりポケットにしまい込む。


「さぁ、行きましょう」


 女が私の手を掴む。


「いやよ。カラスを返して」


 女の手を乱暴に振りほどく。


「ほら、マシュー、返してあげなさいよ」


「そうだな。ほらよ。次からは逃がすんじゃねーぞ」


 赤毛の男がアシェルに鳥かごを渡す。


「お、おう」


 ぽかんとした表情のアシェルが男から鳥かごを受け取った。


「じゃ、この子達を親の元へ返さないとなので失礼しますわ。マシュー」


「ほら、いくぞ」


 男が私とアシェルの背中を乱暴に押す。


(なるほど、私たちにかかっている懸賞金目当てってことね)


 閃いた私は、わざとらしく大きな声で二人に告げる。


「いくら私たちに金貨五百枚の懸賞金がかけられているからって、白昼堂々と誘拐しようとするなんて、あなた狂ってるわよ?」


「しかも治安官の前でな」


 アシェルが追加で彼らをけなす。


「私が見つけました!」


 突如見知らぬ男性が私たちの前に飛び出す。


「嘘をつかないで」


 詐欺師の女がぴしゃりと言い放つ。


「いや、俺が」


「いいえ、私が」


「何を言ってる、僕が!!」


「私が」


 周囲にいる人たちが次々と、我こそはと名乗りを上げる。


「え、ちょっと」


(この展開は望んでなかったんですけど)


 顔を引き攣らせながら後ずさる。


「君が最初に見つけたという証拠はあるのか?」


「そういう君はどうなんだ」


「うるさいわね、私が見つけたのよ!」


 詐欺師の女が自分が見つけたと突如主張しだした男の胸を押す。


「やったな!」


 よろけた男性は、拳を振り上げた。


「まて、相手は女だぞ」


 止めに入った男性の頭に、振り下ろした男性の拳が直撃する。


(うわぁ、痛そう)


 目を細めている間に、あたりは突如乱闘騒ぎに発展してしまう。


「金貨五百枚って、人をこんなにも醜くするものなのね」


「まあ、自由競争を通じて国の経済が発展しやすいのが、資本主義社会の良い所だしな」


「なるほど」


 よくわからないアシェルの解説に、ひとまず頷いておく。


「カァー!!」


 姉が一際大きく鳴く声で、私はハッとする。


「アシェル、チャンスよ」


「確かに」


 二人でくるりと振り返る。すると目の前に恰幅の良い治安官が、ヌッと行く手を阻むように現れた。


「アシェル・コンラッド様、シャルロッテ・ルグウィン様。ご家族が心配されています」


 口ひげを生やした治安官は、帽子を頭から取って、私たちに丁寧に頭を下げる。


(全く、次から次へと、休む暇がないわね)


 あり得ないことの連続に苦笑する。


「皆さん、随分と手際がいいんですね」


「当然です。ルミナリウムと我が国の陛下同士を通じて命が下された、特別捜索願いですから」


(なるほど、そういうこと)


 私は深いため息をつく。


 視界の隅で、詐欺師の男と女が治安官に取り囲まれているのが見える。二人の表情が急激に曇っていく様は、「ざまあみろ」と心がスカッとした。


(でもここで、諦めるわけにはいかないわ)


 私は金貨の袋を振りかざし、周囲の注意を引きつけた。


「お金ならここにあるわ」


 袋の中に手を入れ、思い切りばらまいた。宙を舞った金貨が散らばり、地面にキラキラと光る円が広がる。それを見て群衆がざわめき、治安官たちの注意もそちらに向く。


「こっちだ!」


 アシェルが即座に察し、私の腕を掴む。二人で人混みの間をすり抜け、ホームに降りる。


「待て!」


 後ろから男たちの怒号が聞こえるが、私は振り返らず、列車の間を全力で走った。


 始発となるホームには、多くの列車が停車中だ。


「アシェル、あれにしよう!」


 扉が、今まさに閉まりかけている列車を発見し、彼に告げる。


「飛び乗れ!」


 アシェルが叫び、私たちはほぼ同時に列車の扉へ飛び込んだ。背後で扉が音を立てて閉まり、私たちは息を切らしながらその場に倒れ込む。列車はガタンと揺れ、動き出す。


「お姉様は……?」


 私はアシェルの手元を確認した。彼は鳥かごをしっかりと抱えており、中で姉が興奮したように羽を広げて騒いでいた。


「間に合った」


 床に座り込むアシェルがほっとした表情を見せる。


「やったわね」


 私は彼と目を合わせ、自然と笑みがこぼれた。


 列車が動き出し、ホームが遠ざかっていく。怒り狂った男たちの姿が窓越しに小さくなるのを見て、私は初めて深く息を吐いた。


「この列車はどこへ行くんだろうな」


 アシェルが少し疲れた笑顔を私に向けた。


「どこだって関係ないわ。行き先なんて、私たちで自由に決めていいんだから」


 私は前を向き、列車の揺れに身を任せたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ