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誰が姉を殺したの?  作者: 月食ぱんな
第三部:世界が終わる瞬間
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試される交渉術2

「こんにちは」


 まずは笑顔で相手を油断させる。


「あらまあ、可愛らしいお嬢さんだこと。何か入用かしら?」


 店主の女性は、商売上手な笑顔を浮かべながら、値踏みする視線をアシェルと私に交互に送ってきた。


「あの、お伺いしたいのですが」


 か弱い娘を演じ、遠慮がちに自分のドレスを掴んで見せる。


「これと交換という形で、新しい服を購入できないでしょうか」


 店主は興味深そうに私のスカートに手を伸ばし、生地を指でこすり、縫い目を確認する。


「滑らかさとしなやかさが素晴らしいわね。縫い目も頑丈だし、真っすぐだわ。最高級品のコットン素材を使用しているオーダーメイドの一点物というわけね」


 大絶賛する店主に向かって、アシェルも無言で自分の薄いベージュのコットンジャケットを差し出す。


「あら、こちらも?」


「ええ、彼も取り急ぎ新しい服が必要なので」


 店主は両方の服を専門家のような目で品定めしている。


「確かに上等な品物だけど...」


 店主は言葉を濁す。


「でも、こういう高級品は、うちみたいな露店じゃ販売先がなかなか見つからないのよ」


(来た!)


 交渉術の授業で習った通りだ。相手は値を下げるために、まず商品の価値を認めた上で、次にマイナス点を持ち出してくる。


「そうですよね……」


 私は悲しそうな表情を作る。


「でも、このサマードレスは、ルミナリウム王国の王都にある一流の仕立て屋さん「マダムボヌール」であつらえたものなんです。世界的に人気のお店だし、もしかしたらお店の看板商品になるかも知れません」


 チラリと店主を伺うと、彼女の目が輝きを増す。


「マダムボヌール?一見さんお断りのあそこの商品なら……確かに。ウチの常連さんにも、上等な服をお求めの方が何人かいらっしゃるわ」


 チャンスが来たと確信した私は、「それに」と続ける。


「彼のこのジャケットは流行に左右されることのない、紳士のマストアイテムです。現に先程、他の衣料品のお店に立ち寄った時に「是非譲ってくれ」とお願いされましたのよ?」


 口からでまかせで、他の店とも交渉しているふうを匂わしつつ、店主に畳み掛ける。


「そうなのね。ふむ」


 店主は私たちの服を専門家のような目つきで吟味しながら、しばらく考え込んでいる。


 沈黙に耐えられず、チラリとアシェルの顔を伺うと、彼は小さく頷いた。


「お二人とも、こんな上等な服をなぜ……」


 店主の視線がアシェルの頬に向けられた。そしてスッと不自然に視線をそらす。


「まあいいわ。交換を受け付けましょう。お二人とも、どんな服をお探しなの?」


(やった。アシェルの痣って便利ね)


 私は内心でガッツポーズを作りながら、冷静を装い答える。


「動きやすくて、汚れが目立たない普段着を探しています」


 店主は意味ありげな表情を浮かべ、やっぱりアシェルの頬をチラ見する。


(彼女はいま、誰にでも標準装備された野次馬根性と戦っているのね)


 アシェルの痣について、その理由を知りたい。けれど知ったが最後、面倒なことに巻き込まれるかも知れない。でもやっぱりどうしても気になる……という状態だろう。


(ここは敢えて説明せずに、彼女の視線に気付かないフリをしておく方がいいわ)


 私は駆け引きを続行させ、軒先にぶらさがるワンピースに視線を向けて素知らぬフリをする。

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