思春期の子どもと父親
「おい、明里。ご飯できたぞ」
明里は布団に包まり、涙を流していた。
「お父さんがいるから嫌だ…」
「そんなことを言うなよ」
明里は嫌だろうが、親父の気持ちもわからない訳ではない。
「だって…汗臭いし、口臭いし。抱きつく力が強いし…」
言っている言葉はまともだ。だが、涙を流してまで嫌がるとは思いもよらなかった。
「何だ?」
「お兄ちゃん…だめ!」
明里の側に座るため布団を動かすとプラスチック容器の目薬があった。
「おい…明里…」
「だって怖いもん…」
目薬をして嘘泣きをする妹は言っていることだけが正しいのだろう。
「ツッコミ辛えことすんな!」
「ふむ。もう少しだったか…」
明里は涙を拭き、嫌そうな顔をしながらリビングへ向かった。
「まあ。ご飯くらいだったら一緒に食べれるし。話もできるけどね」
「お前!言っている内容も嘘かよ!」
俺は誓ったこいつの手助けをしないと…。
「じゃあ助けないからな」
「え…」
「当然だろ」
「ごめんね。お兄ちゃん!私の体に許して!」
本当にどうしようもないほどにこいつはふざけることを考えているのである。こいつ、外でボロが出ていねえのかよと思えてしまう。
「本当にお前は外で、清楚なお嬢さまをしているのか?」
「おうよ!兄者。私の封じられし、右腕に掛かれば、おちゃのこさいさいよぅ!」
厨二病の患者には事あるごとに痛々しい言葉が混ざっている。かっこいいのか自分で考えたイメージを持っている。
「恥ずかしくねえのかよ」
「恥ずかしい」
「だろうな…」
だが、妹は他の厨二病と異なり、毎回言った後は恥ずかしがる。自覚のある厨二病なのだ。
「晴翔。明里。ご飯を食べましょう」
母さんは連れてきたことに嬉しそうな顔をしており、親父はすでに椅子に座っていた。
「おい、明里!隣に座るか?」
「嫌に決まっているでしょ」
明里は先程の明るい雰囲気が急に暗くなり、冷たい視線で返事をした。
「そうか?」
親父は悲しそうな顔をして落ち込み。隣には母さんが座っていた。
「全く。年頃の女の子にそんなに積極的に言ったら嫌われますよ」
「そうなのか?」
母さんの言葉にはすぐに受け止める親父は本当に落ち込んでいた。
「じゃあ俺はこっちだな」
俺は親父の正面に座り、明里は俺の横に座らせた。
横に座った明里はいきなり俺の服を引っ張り見つめていた。
「何だよ…」
「別に…」
明里はそう言うと掴んだ服を離してご飯を食べ始めた。
毎回、親父と食べるのを嫌がる明里も一緒に始めてしばらくすると和みだし、仲良く話に混ざっている。