入学式
「座るぞ」
「好きにすれば良いじゃない」
俺の席の隣はやはり千佳だった。
「何よ。座りなさいよ」
千佳は怒っているのか強い口調で言ってきた。
「じゃあ…」
俺は隣の席に座るととても長い沈黙が続いた。
後ろの声が次第におとなしくなり、席の着く音が聞こえてくる。
ただ、俺の後ろ二番目くらいの所からはうるさい声が聞こえてきた。
「ねえ。あのさ、後で連絡先教えてくれねえ?何でだよ良いじゃん」
「晴翔、あいつうるさいから黙らせに行って」
俺は赤の他人のふりをしようとしたが、千佳の命令口調に加えていつ殴ってくるかわからない距離の中で否定ができなかった。
「なあなあ」
「おい、佐伯」
「何だよ」
俺は腕で佐伯の首を絞めて一言告げた。
「これ以上騒いだら、さっき襲ってきた女子の隣に座らせる」
「あ…。ガチ?」
「千佳が怒っているぞ」
佐伯は魂が抜けたように勢いがなくなり、席で伸びていた。
「ごめんね。こいつ、悪い奴じゃねえから。仲良くしてくれると助かるよ」
「は…はい…」
佐伯の隣で困っていた女子に謝罪と佐伯の助け舟を出してその場を落ち着かせた。
一仕事終えた俺は席に戻ってすぐに入学式が始まった。
最初の方は座るだけの楽な時間だったが、時間が経つに連れて長く感じて行った。
ほのかに暖かい体育館、聞こえてくる安眠ボイス。眠くなっていく。
「ちょっと…起きなさいよ」
俺が目を閉じていると、横にいた千佳が肘で俺の腕に当ててきた。
「起きているぞ」
「だったら目を開けて起きなさいよ」
千佳は怒っている表情をしながらも恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「恥ずかしいなら気にかけるなよ」
「うっさい」
千佳は誰にも悟られないように俺の足につま先蹴りをして呟いた。
それ以降は千佳に文句を言われないように俺も目を瞑ることを減らして聞くことにした。
「それでは担任の先生を発表します」
入学式の終盤、各クラスの先生が発表となり、眠たそうに聞いていた生徒たちも冴えてきていた。
「一組、小野美鳥」
「はい」
聞こえてきた女性の声の主を見ると、誰よりも眠たそうな目に口からはよだれを垂らした女性がいた。
「あれが担任か?」
「あれって失礼よ」
俺は思わず口から正直な感想を言うと、千佳は申し訳程度の注意をしてきた。
「だけど本当に大丈夫か?」
他のクラスの担任が紹介されるが、やはりその中でもかなり浮いており、大して俺たちと変わらないようにも見えた。
「新入生退場」
司会に従って体育館を出た俺たちはそのままクラスに向かい、最初のホームルームが始まった。