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兄の悩み

俺は母さんと明里(あかり)が並んで立っている姿を見て、昨夜の朧げながら聞こえてきた話を思い出した。

「あのさ…」

「兄者〜どうしたの?心配そうな顔して学校に行きたくないとか?」

俺が話をしようとするとそれを阻むように明里は割り込み揶揄う。

「違うわ!」

「どうせ。入学したばかりなのに勉強が嫌でしょうがないんだ!」

明里は俺の学力を知っている風にバカにしており、言い返して欲しそうな顔を見せていた。

晴翔(はると)ったら。高校は始まったばかりなのにしっかりしてよ」

「分かっているよ」

母さんには変に勉強のことで見られたくないこともあり、言いたいことを諦めて誤魔化そうと必死になってしまった。

「ムフフッ」

明里は俺と母さんの話が面白いようで満面の笑みでこちらを見ている。

「性格が悪いやつだな」

「言い返せないでしょう〜」

俺の言い返せない姿に勝ち誇ったように悪い顔を見せた。

「二人とも遅刻するよ」

「は〜い」

明里は母さんの急かしてくる声にも焦ることなくのんびりと準備を始めた。

「おい。俺はもう行くぞ」

「いってらっしゃい」

俺はご飯を食い、皿をシンクに置いて駆け足で家を出た。

「あ…母さんに昨日の話を聞きたかったんだった」

明里が話に割り込んできたせいで聞きたかったことも聞けずにモヤモヤした状況で学校に向かった。


「お!晴翔じゃねえか。今日は早いな」

「今日は雹でも降るのか?」

学校に着いた俺は靴箱にいた佐伯(さえき)国吉(くによし)から挨拶替わりの揶揄(からか)いにあった。

「どうしてお前らも俺を揶揄う」

「何の話だ?」

国吉は急の話に理解できなかったようで不思議そうにしていた。

「はあ〜。お前、また明里ちゃんに揶揄われたってことか。それは通常通りだろ」

「は?また妹の自慢話かよ」

「違うわ!」

俺は明里の被害者だが、どうしてこんなことになったのか。始めたきっかけすら分からず、昔のことを思い出そうとした。

「俺、あいつに何かしたのか?」

「そう言うところだろうが…」

「出たよ。最近では使い古された鈍感系(どんかんけい)主人公(しゅじんこう)ムーブ」

佐伯は明里のことを理解できたのか俺の話に珍しく真面目な口調でボヤき、国吉は俺をずっと僻んでいた。

「おはよう。バカトリオ」

「誰がバカだ!」

俺が聞き馴染みのある声にツッコミを入れながら振り向くと、千佳(ちか)木下(きのした)さんが見つけていた。

安堂(あんどう)だったらわかるだろうが、明里の揶揄いに巻き込まれる俺の姿を」

「知らないわよ。あんたの自業自得(じごうじとく)でしょ」

千佳は俺を擁護(ようご)することもなく、佐伯と同様に(あき)れた顔を見せて叱った。

「あんたたち、邪魔だから早く教室に行ったら?」

「ひでえな」

俺の味方の存在がいないことに悲しそうにしていると横にいた木下さんが優しい眼差しを向けて急れていた。

飯塚(いいづか)くん、元気出して。千佳はこんなこと言っているけど心の底では心配しているから」

「ちょっと変な期待を持たせたらダメよ」

木下さんは千佳の強めな罵倒(ばとう)にも優しい気持ちで俺の方を庇ってくれる。まるで女神のようにも見えた。

「でも明里ちゃんが心配でしょ!」

『あ〜そっちが心配なのね…』と木下さんが付け加えた発言で納得しており、結局の所。俺に優しくしてくれる人はいなかったのである。

「ぶっ、ハハハ。それは確かにな。こんなに心配なことはない」

佐伯は木下さんの話に腹を抱えて笑い出し、俺に床に崩れて落ち込んでいた。

「お前、本当に失礼だな…」

「ごめんなさい。飯塚くんも心配なんだけど…」

木下さんの俺への(はげ)ましがとても痛く、落ち込むことしかできなかった。

「木下さんが悪いわけじゃないから」

「え?」

話題を出した俺自身が悪いと思うしかなく、諦めがついてしまった。

「くだらない話に時間をかけすぎたな。教室に行こうぜ」

「そうだな」

「おい」

佐伯と国吉は俺への(なぐさ)めもなく酷い扱いが手慣れてきているようにも見えていた。

「別にあんたがシスコンなことには変わりないのでしょ」

「は?」

「だな」

千佳の俺にとって最も嫌う発言に耳を疑ったが、佐伯と国吉はすぐに賛同した。

「誰がシスコンだ」

「妹のことで悩む兄なんてシスコンのあんたくらいよ」

「姉が見たことがあるがな」

千佳に聞こえるくらいの大きさの声でボソッと呟くと一瞬で片足の膝が崩れ、そのまま床に肘がついた。

「何をしているんだよ。晴翔」

「お前…」

俺が床で痛がっていると、前に立っていた佐伯が気付き、変な奴を見つけたような目で見ており、隣の千佳は悪びれることなく知らないふりをしてきた。

「そんなやつ置いて教室に向かうよ」

千佳が走ると木下さんも着いていき、国吉と佐伯がそれを追いかけた。

「見捨てやがって…」

騒がしい下駄箱前で一人だけ孤独に倒れ込んだ俺が動き出そうと軸足に手を伸ばした。

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