放課後のひととき
放課後。長い授業が終わり、生徒が部活や帰宅するため一日で最も騒がしくなるその時間帯は、俺の嫌いな時間でもある。
「おい。晴翔は部活を見に行かないのかよ?」
他の生徒の声を後ろに一人だけ学校の正門から離れる。そんな気まずい空気に嫌な視線も集まる。
「あんたも帰るの?」
「安堂か…」
視線を諸共しない強靭なメンタルで千佳は堂々と校門を出ていく。
「それで?あんたはどこか寄るの?」
「は?」
千佳が急に話し出したので何を言っているのか分からず、それもありだと思い考えた。
「そうだな…」
考える俺の横でじっと見つめてくる千佳は、何か言いたそうにしていた。
「あ!」
千佳が言いたい事がなんとなく分かったが、敢えてそこを避けることにした。
「家に帰るわ」
「ふんっ!」
その瞬間に俺の尻に強烈な痛みと同時に視界が傾いた。
「痛!」
勢いよく体が地面に向かい、頭をぶつけないように両手で守ると尖ったコンクリートが俺の手に突き刺さった。
「痛てえじゃねえか」
「知らないわよ」
俺が千佳を睨むと外方を向き、こちらを見ようとしない。
「ゲーセンに行くか?」
「行く…」
千佳はこっちを向かないが、俺の提案に一言だけ呟いた。
「じゃあ」
学校までの距離にして六〇〇メートルほど。駅の近くにあり、娯楽施設の一角に俺が向かっているゲームセンターが置かれている。
「二人で遊びに行くとか久しぶりだな」
「そうね」
遊びたそうにしていた割には千佳の反応が薄く、居心地も悪い。
「…ねえ。聞いているの?」
「何が?」
一人で考えていると横にいた千佳が突然、話しかけてきた。
「そうして部活に入らないのよ。あんたは運動して活躍していたのに…」
「何だ。そんなことか」
「そんなことって」
千佳は俺に合わせて言い返してくるくらい驚いているようだが、そんなに騒ぐ話でもない。
「大袈裟なことねえよ。俺が部活に飽きただけだ」
「飽きたって。あんた…」
千佳は俺の顔を見つめて不安な表情を浮かべていた。
「何も変わらねえし。それを言うならお前も…だろ」
「それは…そうだけど」
千佳は自分の左脚をさすりながら俺の話に答える。
「別に良いのよ。このくらい」
「そうなのか」
俺は千佳の強気な口ぶりにそれ以上のことを言わず、歩き進めた。
「ここで良いの?」
「ああ」
俺たちはゲームセンターに着き、遊ぶことにした。
「晴翔は何からするの?」
「そうだな…」
俺が優柔不断に何をするか考えていると、千佳はクマのぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーに顔をガラスに摺り寄せて見ていた。
「これをやるわよ」
「お…おう」
千佳が目標の景品を定めたようでお金を入れて矢印ボタンを押し、アームを動かした。
「取れない…」
「千佳。見過ぎだろ」
千佳は何度か挑戦しているが、うまく景品が取れないようでじっと固まって見つめていた。
「俺がやって良いか?」
「うん」
上手くいかない千佳は珍しく潮らしくなり、俺の話も小さく頷いて呟いた。
「じゃあ」
俺は千佳の頼まれごとに軽い返事をしてお金を機械に入れた。
「取れなくても怒るなよ」
「ええ」
ゲームの開始にボタンを押してアームを動かす。慎重に動く機械に千佳がじっと見つめていた。
「掴んだ!」
アームが伸び、狙っていたぬいぐるみを掴み上げた。
「よし」
景品はそのまま脱出口に入った。
「取れたぞ」
景品を手にした俺は千佳に見せた。
「本当に最低。見せつけるなんて」
「いらねえからやる」
俺は取れたものの全く要らなかったぬいぐるみを投げて渡した。
「べ…別に私、欲しいって言っていないわよ」
そう言いながら千佳はぬいぐるみを大事そうに握りしめていた。
「素直に喜べよ」
「うっさい」
千佳の顔は耳まで赤くなっており、いつ怒り出すか分からない状況だった。




