スキアの居眠り?(コミカライズ第1巻発売記念番外編)
(スキアが、寝ている)
学園の中庭で、ミスティアは思わず目の前の光景に釘付けになり立ち止まった。
魔法学園での午前の授業が終わり、お昼をスキアと中庭でと待ち合わせ場所に足を運んでいたのだが――。
そこで彼女は衝撃的な光景を目の当たりにすることになる。なんと契約精霊であるスキアが、木に背中を預け目を瞑って居眠りしているのだ。
(精霊も寝ることってあるのかしら? 文献では読んだことなかったけれど)
ミスティアはスキアを起こさないよう、サンドイッチの入ったバスケットを抱えながらそうっと彼へ近づいていく。近づくにつれ、スキアの美貌がより鮮明に彼女の目に映えた。
(ほんとうにスキアって綺麗な精霊。睫毛なんて、瞬きすれば風を起こせそうなくらい長いし)
眠っている彼をまじまじと観察する。いけないことだとはわかっていても、目が離せない。
白磁のように滑らかでいて傷一つない肌。一つ一つのパーツが完璧な位置に配置された端正な顔立ち。月色の髪がサラサラとそよ風によって揺れている。
そんな完璧な男性が聖騎士のごとき銀鎧を纏っているものだから、彼はおとぎ話の登場人物で、現実ではないのではとさえ思えてくる。
(ちゃんと存在してる? スキアは私が作り出した都合のいい幻覚、とかじゃないわよね……?)
スキアを見つめていたミスティアは急に不安になって、彼へにじり寄った。
すると頭上から木の葉が降ってきて、スキアの髪に絡まった。それを取ってあげようと、ミスティアが彼の髪へ手を伸ばした瞬間――。
パチリ、とスキアの瞼が開かれた。
彼の、宝石のようなコバルトブルーの瞳が真っ直ぐに彼女を射抜く。
「あっ……!」
ミスティアの心臓がドキリと跳ねる。頬を真っ赤に染めながら彼女は手を引っ込めようとした。だがその手首をスキアの大きな掌が、逃がさぬように素早く捕らえる。
「どうして逃げるんだ? 我が主」
「ええと」
(や、やっぱり寝てなかったんだわ……!)
あわあわと視線を彷徨わせる彼女を見て、スキアは喉の奥で低くクツリと笑った。
「こちらへ。最近、勉強ばかりで眠れていないだろう?」
抗う隙など与えない、有無を言わさぬ力強い腕がミスティアの体が引き寄せる。短い悲鳴を上げる間もなく、ミスティアの視界がぐるりと回った。そして気がついた時には、スキアの逞しい太ももの上に、彼女の頭はすとんと収まっていたのだった。
見上げれば間近に美しい顔が見え、ミスティアの顔色はリンゴのように真っ赤になる。
「な。ななななな……っ」
「いつもよく頑張っているな。素敵だとは思うが、無理は禁物だ。少しここで眠るといい」
いつもよく頑張っている。素敵。
そんな温かい言葉がミスティアの耳に静かに入ってゆき、やがて胸に染み入った。今までずっと誰からもそんな優しい言葉を掛けられてこなかった彼女は、彼の言葉に息が止まり指一本動かせなくなる。
やがて抵抗する気持ちが完全に無くなり、彼女は彼女の契約精霊の姿をまじまじと見つめることにした。スキアもまた、ミスティアを見つめ返す。
「目の下に……少し隈ができている」
細長い指先がミスティアの目の下をするりとなぞる。胸が早鐘を打って、頭がくらくらした。けれど勘違いしてはいけない。スキアは、主人であるミスティアの体を心配しているだけなのだ。以前契約していた精霊たちに比べると、少し距離感が近い気もするが。
けれどそれが不思議と心地いい。
「おやすみ、ミスティア」
いつまでも聞いていたくなるような甘やかで低い声に従い、ミスティアは瞼を閉じた。
しばらく経つと健やかな寝息が聞こえてきて、スキアはまたクスリと微笑む。なんて無防備で、素直で可愛らしい主なのかと。異性として意識されていないと悲しむべきか――。
「それとも、俺のことを信頼してくれていると喜ぶべきか?」
スキアはすっかり寝入っているミスティアに顔を近づけ、小さく呟いた。
「あなたのことが、大好きだ」
誰の耳にも聞こえない呟き。すると寝ているはずのミスティアがふいに幸せそうに微笑んだ。それを愛おしくてたまらない、という様子でスキアが目を細める。
スキアはミスティアが風邪を引かないよう保温魔法をかけると、彼女が目を覚ますまでその寝顔をずっと眺め続けていたのだった。
本日2月16日(月)、コミカライズ第1巻が発売となりました!
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