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10 畑を蘇らせましょう

「では一旦畑を整えましょう。スキア、風魔法で作物を一か所に集めて燃やせませんか? 村長殿は新しくこの畑に植えるための種か苗を持って来ていただけると助かります」


「できるぞ、空中に集めて燃やそう。そうすれば他に燃え移る心配もない」


「へ、へい! 急ぎ持ってまいります!」


 スキアと村長がそれぞれミスティアに返事をする。スキアは手をかざし、村長は急いでその場を走り去っていった。


風よ(エア)


 スキアの繊細な魔法操作により、腐った作物が次々と引っこ抜かれていく。それらは畑の中心で浮き、塊となって集まった。


フレイム


 すべて集まったところでスキアが火魔法を唱える。ゴウ、という音と共に作物は一瞬で燃え上がり、灰となってパラパラと風に散っていった。一仕事終えたスキアがかざしていた手を降ろす。その一部始終を眺めていたソルムは、スキアの風・火を使いこなす様に一人驚愕していた。


(さすが大精霊……! 自らの属性でない魔法をこうもやすやすと使いこなすとは。それにしても……。これだけの規模の魔法なら魔力消費量も相当なはずだが、涼しい顔をしているミスティア嬢も規格外だな。この二人に喧嘩を売ったギルバートもある意味凄いが)


 知らぬが仏というものだろう。

 ソルムがスキアの魔法に驚いているうち、その場を離れていた村長が駆け戻って来た。


「ミスティア様! じゃがいもの種芋を持ってまいりました。こちらでよろしいんで?」


「ご足労をかけました、大切に預からせていただきます。ではスキア、ソルム様。今からこの畑を蘇らせましょう。土を清めて栄養を与えます。こう唱えてください、スキアは浄化キュアを。ソルム様は大地の恵み(アース・グレイス)と」


浄化キュア


「……大地の恵み(アース・グレイス)


 ソルムが畑に向かい半信半疑で呪文を唱える。スキアも同時に魔法を放った。すると淡い金茶色の光が畑全体を覆い、やがて消えていく。見た目だけでは特に変化は感じられない。先ほどスキアが使った派手な魔法とは大違いだ。ソルムは眉を下げて拳を握りしめる。


「やはり私では……」


「お待ちください、今からが本番です。土壁の魔法は使われたことがありますよね? その土壁を、畑に等間隔に出来るよう唱えていただけませんか?」


「土壁は戦闘用とギルバートが言っていましたが」


「一旦、先入観は抜きにしましょう」


「……わかりました」


 ソルムは怪訝そうな表情を浮かべるが、再び畑に向かって呪文を唱えた。かつて全くの役立たずと罵られた魔法を。


「――土壁アース・ウォール


 その呪文が唱えられると、畑に十列ほどの土壁が出現した。等間隔に現れたそれは、ソルムが言っていたようにとても土壁とは言えないような高さだ。ソルムはがっかりして肩を降ろしてしまう。きっとミスティア達も期待外れだと呆れるに違いない。


(こんな子供だましの土壁がなんの役に立つって言うんだ)


 しかし、その土壁を見て目を輝かせる者が居た。


「おお! 畝がこんなにも簡単にできるとはっ! 重労働でいつも苦労しておったんです、これは助かった!」


「畝……?」


 フーラ村の村長である。彼は満面の笑みを浮かべ、小躍りを始めそうなくらい喜んでいる。思いがけない『畝』という単語にソルムはぱちりと目を瞬かせた。


 あまりの大声に、家に引きこもっていた村民たちがなんだなんだと扉から顔を出し始める。


 そう、ギルバートがかつて『無能』と蔑んだ土壁は、畝を作るのにうってつけの魔法なのであった。ギルバートは魔物を狩ることだけしか頭になかったため、土壁の用途を想像することができなかったのだ。確かに戦闘ではほぼ無力な魔法だが、人々の生活を助けると言う意味ではかなり『有能』な魔法である。


 村長の喜ぶ様子にミスティアもまた頬を緩める。だが、まだ終わりではない。


「ソルム様が見事な畝を作ってくださったので、そこに種芋を植えていきます。簡単な作業なのでここは私がさせていただきますね、風よ(エア)

 

 ミスティアがいつの間にか現れた杖を手に一振りする。すると村長が用意していた種芋がふわふわと浮き、畝へ等間隔に運ばれていった。


「ではこれを植えて、っと……」


 ミスティアが魔力を操作し、種芋を土へ沈めた。またもや村長が食いつく。


「おおお! こりゃまた種植えが一瞬で! なんと便利なんじゃー!」


 村長はガッツポーズをして大声で喜色を露にする。嬉しそうな叫び声につられて、顔を出していた村民たちが畑へとぞろぞろ寄ってきはじめた。突然集まりだしたギャラリーにミスティアはやや戸惑ってしまう。


(なんだか見世物みたいになってきたわ。でも畑が気になるのは当然よね)


「ソルム様、最後の仕上げをお願いいたします。豊穣ヒューグと、そう唱えてくださいませ」


 ミスティアがそう言えば、集まった村人たちが期待の眼差しでソルムを見つめた。

 ここまでくれば彼も止めることは出来ない。無言で彼女へ目配せし、魔法によって整えられた畑へと手をかざす。辺りはしんと静まり返り、誰もが固唾を飲んで見守った。


 そしてソルムは深呼吸して、ややためらいながらも、ミスティアが教えてくれた呪文を唱える。


豊穣ヒューグ


 ――それは、まさに驚きの光景だった。


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