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第49話 味の違い、彼女さん


「さて、今夜私が頂くのは、『肉じゃが』と『ナスの煮浸し』です」


「茜そのキャッチフレーズ好きなんだね」


「ご飯はおかわりあるからな」


「むぅ。なんかみんなの反応が薄いくなってきた気がするな」


 俺立ちは水瀬の一言に対して程々の反応をして、夕食を食べることにした。夕食はただの作り置きしておいた肉じゃがとナスの煮浸し。特にこだわりもないただの男の一人暮らしのおかずである。


 無事解凍も終わったので、俺達は少し早い夕食を食べることにした。

 

「いただき-す。うん、三月料理上手いんだね」


「いただきます。うん、美味しいね!」


「ありがとうな。とはいっても、別に特別上手いわけでもないんだけどな」


 俺が作る料理は特別な調理法も、こだわりもない。ただの男の一人暮らし用のごはんである。


 それでも、やはり美味しいと言われれば嬉しいというもの。謙遜した言葉を返しながらも、俺の頬は微かに緩んでいた。


「あ、これは茜の家で食べたのと似てるね。うん、あれ? 結構味も同じ感じがする」


 七瀬はナスの煮浸しを口に放ると、そんな言葉を口にした。首を傾げながら、こちらに何か言いたげな視線を向けていた。そんな七瀬の視線をキャッチしたのか、水瀬が慌てたようにカットインしてきた。


「ま、まぁ、煮浸しって同じような味になるしね! うん! えへへっ、三月君の作る料理と私の味付けって似てるんだぁ」


 七瀬に怪しまれにように助け舟を出してきたはずだったが、水瀬はいつの間にか自分が褒められたと勘違いしかのように、俺以上に頬を緩めていた。


「似ているだと、」


「え? 三月?」


 確かに、俺が水瀬に教えた料理であるわけだから、味付けが似るのは仕方がないことだ。でも、こちとら料理の歴が違う。家事や炊事のスキルに置いて一人暮らしを始めたばかりのひよっこに負けるわけにはいかない。


 そんな謎の対抗心が燃え上がり、俺はいつもよりも速めの口調で言葉を続けていた。


「確かに味付けは似ているかもしれないが、下処理の違いが絶対に出ているはずだ。刻みしょうがの切り方とか、しっかりナスを油に染み込ませるとか。ナスの切り込みだって均一だし、しっかり箸で持てて、味が染み込むギリギリを狙っているしな。何より味の染み方が違うだろ? だいたいーー」


「ごめんごめん! 軽い気持ちで言っただけだから! だから、ほら、」


 俺の熱量がないのに早口な口調に負けたように、七瀬は早めに折れたようだった。ただ、その理由は俺の早口によるものだけではないようだった。


 七瀬の視線の先を追うと、そこには片頬を膨らませた水瀬がいた。不満そうでありながら、美味しそうにご飯をもぐもぐと食べている。


 水瀬からしたら、自分の料理をボロカスに言われたと思ったかもしれない。それも、感情的な口調ではなかったし、分析染みた口調だけに前々から思っていたと思われても仕方がない。


 どうやら、変な熱量が暴走してしまったようだった。


「あ、いや、もちろん水瀬さんが作る煮浸しだっておいしーーそうだな」


「美味しいとは言ってくれないんだ」


「だって、食べたことないし?」


 ここで俺が美味しいと言えない理由を水瀬だって知っているはずだ。俺が料理を教えているとは七瀬に言えないわけだしな。


 それでもむくれている水瀬の様子を見て、七瀬が思いついたように言葉を続けた。


「まぁ、茜の料理は茜が作ったてだけでプレミアム付くし、ね?」


「そうそう、クラスの男子で水瀬さんの料理を食べたくない人なんていないって!」


「三月君もそう思うの?」


「お、思う思う!」


 俺は七瀬が出してくれた助け舟に乗ることにした。ナイスプレイだ、七瀬。


 そうだ。味について言えなくても、水瀬が作ったことに対する付加価値についてなら、俺だって語れる。


 一般的なクラスメイトとして意見をするなら、何も問題はないはずである。


「ふーん。私の料理を食べてくない人っていないんだぁ。なんでかな、もっと分かりやすく教えて欲しいなぁ」


 水瀬はそんなことを惚けた口調で言ってきた。当然、そんなことは分かりきってるはずだ。だって、水瀬の口元が俺をからかうときと同じように緩んでいるのだから。


 そして、こうなった水瀬は俺がはっきりと言葉を言うまで、この辱めを続けてくる。それならば、少しでも短い時間で済ませてしまうのが吉である。


 俺はそう思うと、決意を決めて水瀬の瞳に視線を合わせた。


 意気込んで目を合わせたはいいが、ぱちりと合ってしまった水瀬の瞳を見続けることができず、俺はすぐに視線を外してしまった。


 改めて水瀬の可愛さに当てられて、少しだけ俺の体温が上昇したのが分かった。


 ちくしょうめ、無駄に可愛い顔しやがって。


「み、水瀬さんは可愛いから、可愛い女の子の作った女の子の手料理を食べれるってことが幸せなんだと思います」


「ふふっ、ありがとう。なんで可愛い女の子の手料理を食べるのが幸せなのかな?」


「……か、可愛い女の子が手で触れたものも、口に入れるということに一種の興奮があるのかと、」


「ふふっ、そうなんだぁ。なんだか三月君、すごい変態さんみたい」


 水瀬はそう言うと、妖艶な笑みを浮かべた。そんな表情を向けられて、俺はどこかゾクッとした何かを感じてしまった。


 何かに目覚めてしまいそうな、少し危険な香りがしたのは気のせいだろうか。


 それから満足げな笑みを浮かべた水瀬は、そう言い残すと再び食事に戻っていた。先程までの水瀬の料理対する感想などは忘れてしまったかのように、良い顔をしている。


「うわぁ、凄い発想だね。三月って案外どキツイ性癖とか持ってたりするの?」


「……そんなことはないよ」


「今の間はなに?」


 疑う七瀬の視線をかいくぐって、俺は食事に戻った。それからしばらく、七瀬がこちらに向ける表情がいつもと違っていた気がしたのは気のせいだろう。


 ……気のせいであってくれ。



 そうして、突撃我が家の晩御飯は終わり、水瀬と七瀬を玄関先まで見送った。


 七瀬が靴を履く際に屈んだりしている様子を見ていると、それに気づいた水瀬が俺の脚を軽く踏んでいた。


 水瀬はこちらにジトりとした視線を向けており、必要以上に言葉を発しようとはしなかった。


 そういえば、前にもこんなことがあったな。あのときも本人はマーキングがどうと言っていた気がする。


 つまり、今の水瀬の行動は七瀬ばかり見るなとでも言いたいのだろうか。


 いやいや、さすがにそれは変な勘違いだな。だって、訳分からんもんな。そんな考えの元、足を軽く踏むって。


 さきほどの水瀬の行動や、今の行動をみると、もしかしたら水瀬は人の前で何かをするということが好きなのかもしれないなんて思ったりもする。


 い、いや、さすがにそんことはないだろう。思春期が良くない方に働いているな、うん。


 水瀬の足の裏から感じるぬくもりと、少しの湿り気。肌触りの良い黒ソックスの感触に思春期が今にも暴れだそうとしていた。


 そんな俺の考えなど知る由もない七瀬は、靴を履きながら思いついたように言葉を口にした。


「今日は随分気温上がったよね。早く帰って、着替えたいな。靴下も結構汗かいた気がする」


 無意識とは怖いものだ。その言葉を聞いた瞬間、俺は鼻で大きく匂いを嗅いでしまったのだから。


 当然、すぐ近くにいた水瀬がそれに気づかないはずがなく、びっくりしたように俺から離れてこちらに振り返った。


 俺が水瀬の汗の香りを嗅いだと思ったのだろう。まぁ、間違ってはいないんだけどね


 首筋を抑えて振り返った水瀬は顔を赤くしており、大きく目を見開いていた。それでも、いつものあわわしてる様子はなかったので、ここから巻き返すことができると感じた。


 俺はしっかり現状を把握した後、落ち着けと水瀬の方に手のひらを見せるようにして制した。


「大丈夫。俺にはこっちがあるし」


 俺はそう言って、澄まし顔で自身の足を指さした。それは先程まで水瀬が踏んでいた方の足だった。


「あ、これじゃあ、余計にダメか、えっと」


「~~~~っ!」


 水瀬は俺の余計な一言で全てを察したように、顔を一気に赤くした。羞恥の感情に呑まれてあわあわとしている。耳の先まで真っ赤にして、こちらには涙目で睨むような視線が向けられた。


「えっと……なんかすんません」


 そりゃあ、そうなりますわ。だって、今の言い方だとか『俺は水瀬が踏んでくれた足があるから、その匂いを後で楽しませていただきます! ぐふっ!』って思われても仕方がない。


 いや、笑い方がぐふっ! てのはどうなのよ。


「み、三月君が、私の汗の匂いを嗅ぐだけじゃ足りなくて、私の足の匂いを嗅ぎながら、一人でするイメージを私に共有して、私を辱めてくるって、み、みんなーー」


「確かに汗の匂いを嗅いでしまったのは認めるけどあれは無意識と言うか思春期のせいだしイメージの共有に至ってはもはや水瀬さんが自主的にやってる気がするので誰にも言わないでくださいお願いします何卒!」


 俺はクラスメイトから『汗の呼吸』というあだ名で呼ばれないよう、水瀬に頭を下げたのだった。


 今回は俺が悪いのだろうか? いや、汗の匂いに過敏に反応をした思春期が悪いと思う。それと、思春期男子の前で汗をかいたなんて話題を出した七瀬も悪い。


「三月って滑舌良いんだね」


 俺は水瀬の汗の残り香をの香りを忘れないようにしながら、水瀬に深く深く頭を下げたのだった。


読んでいただきありがとうございます!


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