8話
「戦争をやめるよう説得するから、俺を魔王のもとへ連れて行ってくれないか? この通り敵意はないってことが証明されただろう?」
「ふざけるな!! お前みたいな危険人物を魔王様に合わせるわけがないだろう。……おい、ちょっと待て何をする気だ!?」
俺が両手を前に差し出しただけでこの怯えようだ。もうこいつは俺に逆らうことはできないだろうな。
もう説得は時間の問題か。
さっさと俺の言うことを聞けばいいものを無駄に粘りやがってめんどくさいやつだ。
「何もしないっての。本当にお前を殺すつもりだったら身動きを封じたときに殺してないとおかしいだろ。いい加減、俺のことを信用してくれ。俺はほかの人間とは違うんだ」
「そこはわかるが、これも俺に魔王様の元へ案内させるための作戦という可能性は捨てきれない。今すぐに信用するなんて言うのは到底無理な話だ」
そんな風に言われてしまったらいくら弁明したところで意味はないだろうな。
ちょっと長期的な作戦にはなってしまうが、ゆっくりとテリボンズクの信頼を得ていくムーブに移行するか。
「わかった。どうしても無理だというなら、お前が俺を信用できるまで一緒に行動してやろうじゃないか。これなら問題ないだろう
?」
「どうしてそうなるんだ。そもそもお前は人間じゃないか。俺と一緒に行動しているところをほかの魔族に見られでもしたらすぐに襲い掛かられるのがオチだぞ。俺の時の二の舞になるだけだ」
「変装でもして魔族の恰好をしていればいいじゃないか。それくらい頭を使えよな」
自分で考えることのできないやつが成功するはずがない。考えて行動することが成功への近道なんだ。
「それではまるで俺が裏切者だ。俺までほかの魔族にバレないようにびくびくしながら生活するなんて無理だぞ。それに俺は魔王軍の四天王だ、魔王様に会う機会だってある。その時はどうするつもりなんだ?」
「悪いな、そんな気を使ってもらって。もう俺を同行させる気満々だな。そこらへんは何とかするから心配しないでくれ。お前の家にでもこもってるよ」
「違う、無理だということを教えたかっただけだ。断じて違うぞ!!」
こうやって焦るあたりが怪しいんだよなぁ。実はさっき攻撃されなったことで心を開きかけているんじゃないのか?
「ふと思ったんだが、ここって魔族領のどのあたりなんだ? 町から外れたところだったらいいが、あんまりここでじっとしてたらほかの魔族がやって来ないか?」
「まずい!! その可能性を失念していた。くっ、お前をこのまま放置するよりは連れて行くほうがマシか。その前に変装とか言っていたが、お前は偽装魔法が使えるのか? それなら早くしてくれ。早々に移動するぞ」
偽装魔法ね……使えるかな? 今のところ敵を拘束する魔法だけしか使えてないってのを考えると……いやいや使おうとしたのがこれだけだったか。もしかしたら使える可能性もあるし、一度試してみるか。
「どういう感じにしとけばいいんだ? テリボンズクみたいな角を生やしておけば大丈夫か? 肌の色とかも少し黒めにしておいたほうがいいか?」
「細かいところまで調整できるのならばしておくに越したことはない。角は俺と一緒にする必要はない、二本にしておけ。それと、肌の色は……そうだな、黒めにして、牙も生やしておけ。そこまでしたら誰もお前を人間だとは思わないだろう」
注文の多いやつだな。でも言われたとおりに試してみるしかない。
頭の中で、ます色黒になった俺をイメージする。
すると、俺の体の周りをフヨフヨと光が舞った。その光が俺の体を多い、全身の肌が黒く染まった。
「なかなかの魔力コントロールだな。ここまでムラなくってのは相当難しいだろうに、これもお前の強さの秘密だな。覚えておこう」
ぶつぶつ言っているが、見当違いもいいところだ。魔力コントロール何て聞いたこともない。
続いて、頭に角を二本と、犬歯を鋭くさせるようなイメージを浮かべる。
同じように頭上と歯のところに光が舞い、俺の体を変化させた。
「完璧だ。もうどこからどう見てもお前は魔族だ。本当はこの姿って言われたほうがしっくりくる程の完成度だな」
「そうだろうよ。俺の力だったら、これくらいのことは造作もない。お前も人間に変身させてやろうか?」
「断る。人間の姿になる何て死んでもごめんだ。想像しただけでも虫唾が走る」
そこまで言わなくてもいいよな?
とりあえず、これで俺の変身は成功だ。
角がどうなっているのか気になり触ってみると、実体があり、石のように硬い角が再現されていた。
見かけだけかと思っていたが、まさか触っても大丈夫だとは。これほどのレベルだったら、触られてもバレる心配もなさそうだ。
「そう言えば俺はまだ名乗っていなかったな。俺はコンキチだ。もう、名乗ったんだからお前って言うのはやめろよ。これからは一緒に行動する仲間なんだからな」
「誰が仲間だ。俺はしょうがなく行動を共にするだけだ。お前のことなんてどうでもいい」
「コンキチだ。お前じゃない。三度目は言わないぞ」
ずっとお前呼びされるのも不快なので、凄んでおく。
「わ、わかった。コンキチ」
「ああ、それでいい。よろしくな、テリボンズク」
いい感じに仲間になれたな。これで、俺の使命達成へ一歩前進だ。