3話
このおじいさんから説明を受けなくちゃいけないのか……めんどくさいな。授業がめんどくさくて逃げ出した俺にまた似たようなことをするなんてさては鬼だな。説明とかどうでもいいから転生させてくれっていったらまず怒られるよな。そうなると話が変わってくるのでここは聞いておくしかなさそうだ。
「わかったよ。俺も死んで生まれ変わったんだ。これからは真面目に生きていく。たぶん、世界もそれを信じてくれてるから俺を転生させてくれたんだ。さあ、始めてくれ」
「人間がそう簡単に変わるもんでもないじゃろうが……おぬしの言葉を信じて説明に入ろうかのぉ。おぬしには、別世界で生きてもらうことになる。その世界の名はリョンボルンじゃ」
「リョ、リョンボルンだと……まさかそこって……」
「うん、おぬし知っておるのか? どこでリョンボルンのことを知ったのじゃ。別の世界のことなんぞ、知る由もないことじゃろう。もしや、おぬしが今回選ばれたのと関係があるかもしれんぞ」
やばい、雰囲気を出すために知ったかしてしまったが、俺の演技があんまりにも迫真に迫っていたのか。おじいさんが信じてしまっている。別に知ってるとかは言ってないからおじいさんの早とちりってことで早々に誤解を解いておこう。
「いや、そんな世界のことなんて知らないって。初めて聞いたからどういうところなんだろうって思っただけだよ」
「おぬしまだふざけてるわけではあるまいの? 誰がどう見ても知ってる風の反応じゃったが?」
「ほっといてくれって、俺はいつもこんな感じなんだよ。いちいち気にしてたら話が進まなくなるからさ。大体、おじいさんが俺が知ってるわけないってわかってるだろ?」
ちょいちょいふざけたくなる気持ちは今は抑えようか。これ以上やったらガチ説教を喰らいそうな気配がする。
まだ、疑惑の目を俺に向けているおじいさんだったが、俺のきょとんとした表情に諦めたのか話を進めだした。
「リョンボルンじゃが、おぬしの世界とは根本的なところから違っておっての。魔法やスキル、モンスターなんかが存在しておる。おぬしからすれば謎なことばかりじゃろうが、いずれ慣れていくじゃろう」
「人間はいないってことか?」
「いいや、人間はおるぞ。それに加えて亜人と呼ばれるものもおる。実際に見てみればすぐに違いはわかるじゃろう。人間と動物をたして、限りなく人間に寄せたような感じじゃの。とはいえ、そうでないものもあるがの」
根本的に違うというだけのことはあるな。亜人なんて漫画やアニメの世界にしかいない架空の存在だ。それがリョンボルンでは普通に生活してしているという話なのか。学校に通うよりも楽しそうだ。
「それで、わざわざ世界が俺を選んだからには、当然ただ生きていくだけじゃダメなんだよな?」
「察しが良くて助かるわい。おぬしのいう通り、世界からおぬしに与えられる使命がある。これを成し遂げることが次の人生での目標になるわけじゃな。逆に言えばそれさえ終えてしまえば、どう生きようがおぬしの勝手というわけじゃ。肝心の使命じゃが、それは……モンスターと人間の戦争に終止符を打つことじゃ」
あまりに荒唐無稽な話に呆然としてしまう。
絶対無理で草。ただの高校生に頼む範疇をエベレスト5個分くらい超えてきてるんだが……。舐めてたわ、無理難題を押し付けて俺の行いを反省させるスタイルで来るってことかよ。やってくれるな世界よぉ。
「それは無理だ。諦めてくれ。一介の高校生に頼むことじゃないって。せめて、俺の部下に世界中のありとあらえる軍隊をくれ。それならいけるだろ」
「話は最後まで聞くのじゃ。わしとて、今のおぬしにそんなことが可能だと考えておるわけではないぞ。おぬしに不可能なことくらいチンパンジーでも理解できるわい。そんな状態でほっぽり出すほど無責任なつもりはない。安心するのじゃ、おぬしにはわしら神からと、世界から力が授けられる。その力をもって成し遂げればいいというわけじゃ」
軍隊よりも凄そうなのが来たぞ。いや、それを先に言えって話だよ。もしかして俺を少しでも焦らせるためにわざとこうやって話してる可能性はあるな。
「太っ腹だな。それで? その力で絶対に使命とやらを遂行できるんだよな? そこは確認させてくれよ」
「うむ、わしら神から授けられる力はおぬしの努力次第で使命を完遂するのにたる力じゃ。じゃがの、世界からおぬしに直接わたる力についてはわしらにも未知数じゃ。実際に使ってみてからのお楽しみとしておまけ程度に考えておくんじゃな。わしらからの力だけでも事足りるのじゃから不安に思う必要はないぞ」
よかった、これで騙されて全く使えない力を持って戦争を止めに行くピエロにならずにすみそうだ。俺のセカンドライフをかけて笑いを取りに行くのはあまりに重すぎる。いざ、その場面に遭遇したときに、暗算が世界チャンピオンみたいな力ですさまじい勢いで九九を言ったところで戦争は止まらないからな。
「わかった。それなら何とかなりそうだ。細かいところはもちろん融通を利かせてくれてるんだよな?」
「言語なんかのことを言っておるんじゃったら心配いらんぞ。対応済みじゃ。もうほかに何もなければ早速転生に移るがいいかの?」
「ああ、頼む」
「それでは、行くぞ。ふんが!!」
俺の視界は光に包まれた。