ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか、それを踏まえての今後の展望
亡くなられた勇敢なウクライナ兵士、罪なき人々、ロシア軍兵士のご冥福をお祈りします。また、家を失い故郷を奪われたウクライナの人々の心中お察し申し上げます。一刻も早くこの悲劇が終結することを願っています。
①はじめに
2022年4月16日現在、ロシアはウクライナ全土の制圧から東部の占領へと方針を転換し、東部の要所マリウポリをはじめとして依然激戦が続いていると報じられている。ウクライナは勇敢に抵抗しているが、悲しいことに長引けば長引くほど彼らの国は破壊され、罪なき人々が死んでいく。私は一刻も早く、この悲劇が終結することを望む。
ロシアにとっては誤算だっただろう。
当初はロシアが短期間でウクライナ全土を制圧すると見られていた。しかし、西側諸国の全面バックアップ、士気が高いウクライナの兵士たち、ロシア兵の低い士気等で予想以上にウクライナが持ちこたえた。
その中でも特にゼレンスキー大統領の存在が大きい。彼は結果としてロシアの介入を招いたことに対する大統領としての責任はあるだろう。しかし侵攻後はアメリカからの亡命の誘いを断り、キーウ(キエフ)に残りながらSNS等を通じて活動している姿勢は指導者の鑑である。役者出身ということで政治的には素人だったが、いや素人だからこそ政治家としての覚悟は決まっていたのだろう。
もし彼が、タリバンの進軍を受けてさっさと国を捨てて逃げ出したアフガニスタンのガニ大統領と同様の動きをしていたら、ウクライナは持ちこたえていただろうか。
さて、今回のロシアの侵攻。一部のメディアでは「プーチンの気が狂った」との表現もあったが、ロシアにはロシアの事情があり、彼らにとってはウクライナに侵攻することへの意味がある。今回は「なぜウクライナ侵攻が発生したのか」について自分なりの考察をしていく。
②建前と本音
今回、ロシアは「ウクライナ東部でジェノサイドされている住民たちを救出する」ことを目的として侵攻をしているが、これはもちろん建前である。
今回に限らず、戦争には建前(いわゆる大義名分)と本音がある。
例えば、
戊辰戦争は「俺たち薩長が権力を握りてぇ~」という本音があったが、それを正直に言ったところで支持されるわけがないので「幕府は朝廷をないがしろにしている!」という建前で戦いを起こした。
太平洋戦争は「アジアを欧米から解放する(建前)」「東南アジアの地下資源を使って中国戦線を維持する(本音)」である。もちろん指導者の心が読めるわけないので、本音というのは当時の社会情勢やその後の行動などから”考察”する必要がある。
(補足であるが、建前は「ウソ」ではない。「最終目標ではない」ということだ。)
そしてこのような場合、最も多く使われる建前が「自国民の保護」である。今回のロシアもそうだが、ナチスから大英帝国に至るまで時代を問わずよく使われた。
繰り返すが、ロシアの言ってる「住民の保護」は建前である。では本音はなんだ?
本音は「緩衝国としてウクライナの確保。(出来れば勢力下におきたい)」だろう。
③緩衝国
では緩衝国とは何か。
緩衝とはクッションということである。つまりクッションになる国だ。
緩衝国の大きな役割は二つある。
(1)自国が戦場にならない
(2)大国同士の衝突を緩和する
(1)自国が戦場にならない について
現在のウクライナの映像を見れば嫌というほどわかるが、自国が戦場になればあっという間にボロボロになってしまう。農地は荒れ、町は破壊され、非戦闘員も巻き込まれる。
第1次世界大戦後、戦場になった西ヨーロッパは戦勝国にもかかわらず荒廃し、戦場にならなかった日本とアメリカが覇権を握ったことからも分かるように、同じ戦争に参加した国でも戦場になった国と戦場にならなかった国には天と地ほどの差が生まれるのだ。
そこで緩衝国の出番だ。緩衝国あれば自国が戦場になる危険も低下する。
日清戦争の戦場となったのはどこかご存じだろうか。戦いのほとんどは朝鮮半島で行われた。
日露戦争の戦場となったのはどこか。ロシアでも日本でもない。清だ。
このように緩衝国があれば戦争になった場合でも自国が戦場になる危険は低下する。言い方が悪いが損害は「兵士の命」だけに抑えられるのだ。(もっとも、戦場になる緩衝国にとってはたまったものではないが。)
(2)大国同士の衝突を緩和する について
私たち日本人は島国なのでいまいちピンとこないが、仮想敵国と国境を接しているというのは非常にストレスフルなことだ。戦う意思がなくてもひょんな事故や勘違いから武力衝突に至ることもある。夜間演習中の大日本帝国軍が中国側から一発の銃声が聞こえたことに端を発した盧溝橋事件から始まる日中戦争はその良い例だろう。
その様なことを防ぐため、大国同士はなるべく接しないように小国を挟むことが多い。
フランス領インドシナとイギリス領インドの緩衝国として、東南アジアで唯一独立が許されたタイ王国。現在中国とインドの間にあるネパールやブータンが挙げられる。
④緩衝国ウクライナ
話は戻るが、ロシアはウクライナを緩衝国として影響下に入れる、最低でも中立にさせることが本音である。
大国同士の間に挟まりクッションとしての役割が求められるウクライナ。はて、ロシアの他にあの付近に大国があったか?それがあるのだ。
(毎日新聞より)
上の図を見てほしい。NATOという大国が見えてきただろう。
NATOという大国、ロシアという大国。それに挟まるウクライナとベラルーシ。
冷戦時代、NATOとソ連の間にはたくさんの緩衝国があった。東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニアなどなど。しかし各国がNATOに「寝返り」、今やクッションとなってロシアを守る国はウクライナとベラルーシのみになってしまった。
そんな中でウクライナが「俺もNATOに加盟したい」と言い出したのだ。ロシアとしては恐怖でしかない。NATO=西側陣営=アメリカ陣営=アメリカだ。喉元に短剣が突き付けられているようなものだろう。何としても避けなければならない。
というわけで、ロシアはウクライナに侵攻したわけである。
確かに外交権は主権の一つであるから、どの国と仲良くしようとその国の自由だ。しかし、ロシアが目の前にいるのにアメリカ陣営に加わろうとしたウクライナの行動は地政学的にはミスであった。
⑤今後の展望
今後の展望はロシアエンド、ウクライナエンド、その間の3つが考えられる。ロシア、ウクライナ、世界にとっていいのか悪いのか、自分なりに考えてみた。
(1)前のようにウクライナはロシアの影響下に入る(プーチン大統領のゴール)
・ロシア〇
侵攻した目的は一応達成である。
・ウクライナ×
ウクライナはソ連時代からロシアによってホロドモール(大飢饉)などひどい目にあってきた。祖先は同じ東スラブ人系であるが、反ロシア感情は相当なものである。仮にロシアの影響下に入ったとしても、必死に抵抗を繰り返すだろうし、下手をするとシリア内戦のような凄惨な結果になるかもしれない。
・世界×
主権を侵害した「悪者」のロシアが勝利する形になった。世界はこの侵略者を止められなかった。この事実は非常に世界に悪影響を及ぼすだろう。「ロシアができたのなら我が国も、、、」なんて考える国が出てくる可能性は十分にある。特に中国の台湾侵攻、北朝鮮の韓国侵攻、ロシアの北海道侵攻の危険はさらに高まるだろう。
(2)ウクライナはロシアの影響下を脱してNATOに加盟する(ゼレンスキー大統領のゴール)
・ロシア×
④で述べたように緩衝国を失うロシアにとっては最悪である。
・ウクライナ△
ひとまずロシアの脅威は去る。もしロシアが侵攻してくれば集団的自衛権の行使により、アメリカなど他の加盟国が助けてくれるからだ。だが、もし戦いが始まれば最前線になってしまう。
・世界×
間違いなく核戦争の脅威が増すだろう。
ロシアの目の前にいるウクライナがアメリカ陣営に加わる。
以前、立場を逆にして非常に似たような事件があった。
アメリカの目の前にいるキューバがソ連陣営に加わる。”キューバ危機”である。
この時はアメリカ大統領ケネディの粘り強い交渉や、ソ連のフルシチョフが自らの権威を失墜させてでも手を引いたことにより核戦争は回避された。
だが、今回はどうだろうか。バイデンやプーチンはケネディやフルシチョフに匹敵するか。対応を間違えれば核戦争が起こることも考えられる。ウクライナの人々には申し訳ないが、私はウクライナのNATO加盟には反対である。
(3)ウクライナはどちらの陣営にも属さない中立国になる(中立ゴール)
・ロシア〇
自分の影響下から逃げられたのは痛いが、とりあえずウクライナがアメリカ陣営に入るという最悪の事態は回避される。それに、現在は国力的に侵攻に限界が近づく中、拳のいい落としどころだろう。
・ウクライナ△
ロシアの今回の侵攻は終結する期待ができる。しかし、再び取り戻そうとするロシアとの水面下の戦いはずっと続くだろう。今までのような親ロシア派と反ロシア派の対立は解消されることはない。
・世界〇
客観的に見ればウクライナの独立は守られたことになる。それにNATOとロシアの衝突のリスクも少なく、核戦争の恐れもひとまず収まるだろう。
以上です。
読んでいただきありがとうございました。
まだまだ予断の許さない情勢でどう変わるかわかりませんが、一つの参考程度にご覧ください。
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