#8
9月19日 深夜
フランカ・ルチアーニ1等兵
時計塔 地下
戦闘後、私たち2-2部隊は時計塔を拠点に野営地を作っていた。
あの後、私と軍曹が合流を果たす頃には戦闘は終わっており、私には捕らえた捕虜達を回収が来るまでの面倒を交代で見る仕事が与えられた。
あれだけの爆発と崩落の中で1人だけが五体満足で生き延びていた。なんと悪運の強い奴なのだろう。
夜になり、顔と名前がまだ一致しない仲間と交代して捕虜の監視を始める。
時計塔の地下の一室、部屋の真ん中に置かれた椅子に両手足をこれでもかという程に縛り付けられていた。
一瞬だけ捕虜と目が合った時、捕虜は大きく目を見開いた。
「なぁ、君!」
そして2人きりになると私に話しかけてきた。
『・・・・・・・』
「君だよ、私達と同じ目をした君だ!」
正直関わりたくないがこれ以上喚かれても面倒なので話を聞くことにした
『・・・・用があるなら手短に言いなさい』
「私はエリッヒ・ジェレミー大尉だ、君の上官に『私への免責と生命の安全を条件に貴軍らに対し協力を申し出る』と伝えて欲しい」
『この期になって命乞いとはね・・・『敵への降伏行為は大総帥閣下、ひいては帝国臣民に対する裏切り』じゃかったの?帝国のプロパガンダが聞いて呆れるわ』
「これは降伏じゃない、屈辱に耐えて生き残るのもまた戦いだ」
『物は言いようね?それでも詭弁に変わりなないけど』
「『命あっての物種』というものだ、命さえあれば全てを失おうと何度でもやり直せる。君達と手を取り合う事も出来るはずだ! 遥か東の果ての東洋という地域では刃を交えた敵にさえも礼節を尽くす習慣があると聞く。私達もそれに倣い、お互いが手を取り合える道を模索しようじゃないか」
『中々面白い話ね、だけど生憎ここはトーヨーとか言う場所じゃないからそれは時間の無駄よ』
『最後まで立派に屈辱に耐えて戦うと良いなさい、私はそれを見ててあげるから」
強引に話を終わらせようとすると背後から必死な怒号が飛んできた。
「後で取引に乗らなかった事を後悔するぞ!!私は帝国の英雄アドラー・クラウス中佐の指揮下で動いている!お前達との度重なる戦闘の数々を制した百戦錬磨の優秀な指揮官だ!!今に私を奪還する為に精鋭部隊が投入されるだろう。その時に私を無下に扱った代償を支払わせてやる!!」
捕虜の言葉で私は足を止める。そのまま捕虜は更に続ける。
「だが私は寛大な男だ!考えを改めて取引に応じるか、私の安全を約束するならば君だけは助かるようにしてやる!我々、帝国人は如何なるものに対しても公平を貫く優秀な民族、我々の血を引き継ぐ同胞が相手ならば尚更だ」
男の荒立った声も徐々に落ち着きを取り戻す。
『・・・私が同胞?』
「そうだ、その瞳が何よりの証拠だ・・・我々の血を引く同胞を手にかけるのは私達とて忍びない。今からでも遅くはない、ここを脱出して共に戦おう・・・帝国は君を歓迎する」
『・・・・・そう』
捕虜の言葉に、私は笑みを堪えられなかった。
そのまま私は捕虜の傍へと歩き出した・・・・