#7
9月19日 夕方
アドラー・クラウス
帝国軍名称『作戦区域ベルタ』郊外
帝国軍が『セクション・ベルタ』と呼ぶ地域の郊外に築かれた帝国軍の観測所、そこにクラウスは居た。緊急の事態に対応する部隊、その指揮を行う為だ。
クラウスの元に緊急連絡が届いたのは今日の早朝だった。
内容は前哨基地『フロイライン』から十数キロ地点の市街地に共和国軍が潜伏中というものだった。
自分の指揮する部隊の戦力や規模を考えれば監視体制に抜かりは無い、となると小規模の部隊で監視の目を盗んでここまで来たのだろう。
「中佐、ジェレミー大尉より連絡。『市街地に進入、これより作戦を開始する』との事」
『小規模な部隊にガルマンぶつけるのは可愛そうだが・・・これが戦争だ、悪く思わんでくれよ?』
クラウスは今回の作戦は一方的な掃討戦に終わると踏んでいた。
しかし敵部隊がどれ程の脅威であるかは判らなかった、だからこそ新式の重装戦車『ガルマン』を投入した。
共和国軍の兵士にとって『ガルマン』は大きな脅威であり、急場で揃えた新兵ならばその姿を見るだけで士気は瓦解する。
我先にと逃げ惑う所を随伴する歩兵隊に任せれば大した損害も無く終わるだろう。
やがて遠くから爆発音、銃声、砲声が轟いてきた。
『始まったか・・・・』
その轟音を聞きながら作戦地域の地図に目を落とし、時折聞こえる無線に耳を澄ませていた。
「ちゅ、中佐!」
『どうした?』
その中で声を上げる士官の声にもう勝負がついたのかと内心、嘆息するクラウス。
彼は優秀な指揮官で、周囲もそれを認めていた。
故に勝利を確信していた。だからこそ、士官が次に口にした言葉は耳を疑った。
「共和国軍の攻撃でガルマンが大破、走行不能!!歩兵部隊も熾烈な攻撃で進撃も撤退も出来ません」
その報告を聞いたクラウスがどんな顔をしていたか、それはその場に居合わせた兵士だけが知る事だろう。
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数分前・・・
フランカ・ルチアーニ『1等兵』 北部前線地域 市街地域
「予想通りだ」
オスカー軍曹は時計塔の前を横切る大通りをゆっくりと進む巨大戦車を見下ろしていた。
ガルマンの移動する時の振動で時計塔が揺れ、天井から降る埃を鬱陶しく感じながら双眼鏡で敵部隊を監視する。
「全部隊、歓迎会の準備は出来てるな?『クラッカー』で出迎えてやれ」
軍曹が通信を終える。
ドドドンッ!!
その数秒後に双眼鏡の景色が爆炎で埋め尽くされた。
慌てて双眼鏡から目を離すと、敵部隊の居た場所で爆発と周辺の建物の崩落が起きていた。
次の瞬間には爆風がここまで届き、砂埃の混じる風が頬を掠る。
「全部隊、発砲許可・・・動く奴が居れば撃ち殺せ」
軍曹の指示と共に砂埃の晴れない瓦礫の中から敵味方入り混じった銃声が響く。
『ぐ、軍曹・・・あれは一体?』
「あれは帝国軍を出迎える為の仕掛け、言うなれば『アルガス・クラッカー』だな。爆発と崩落で一気に混乱に陥れ、その間に兵士を各個に撃破していく戦術だ。流石にガルマン相手には難しいと思ったが効果は絶大だな。」
『あれだけの規模の爆発と崩落・・・一体どれだけの爆薬を仕掛けたんです?』
「知らんな。しかしあれだけの爆発だ、連中もただでは済まんだろう。後は一気に攻め込めば勝てる」
軍曹は立ち上がった。
「いくぞフランカ、俺達も戦闘に参加するぞ」
私は小銃を手に軍曹の後に続いた。
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9月19日 宵の口
初めての実戦は弾丸を1発も撃つ事無く終わった。
だけど私が銃を撃たずとも他の誰かは銃を撃ったし、当然、そこには人『だった』ものがたくさんあった。
私はあの瓦礫の山で見た物を忘れはしない。
1等兵 フランカ・ルチアーニ 記