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混血のフランカ  作者: 葉月 悠人
1章 翡翠の瞳の少女
7/51

#6


 9月19日 朝

 フランカ・ルチアーニ『1等兵』 北部前線地域 市街地跡地



 着任した翌日、日が昇る前の早朝に駐屯地を出発した。


 私は廃墟と化した市街地で朝を迎えた。

 出発前に聞いた話ではこの市街地の防衛が今回の任務らしい。

 私達は後続の部隊到着までの1週間の防衛を任される事となる。


 2-2部隊は市街の3ヶ所に散らばり、防衛線を築いた。

 私はオスカー軍曹とのペアで別動隊として街の中心に立つ時計塔に陣取っていた。


 時計塔の屋上で交代で監視を行う、それが私と軍曹の任務だ。


 ------

 ー---

 --


 まだ夏の気配が残る9月とは言え、北部前線は中々に冷える。毛布を被っていても体が震える程だ。 


 「フランカ」


 隣の部屋からオスカー軍曹が私を呼ぶ。


 『どうしました軍曹?』

 「コーヒーを淹れたんだが、お前も飲むか?」

 『いただきます』


 大通りを監視しながら軍曹の淹れたコーヒーを口にする。淹れたてのコーヒーが、寒さと緊張で凝り固まった私の気持ちをほぐしてくれた。


 

 「ついでに少し早いが交代だ・・・ゆっくり休め」


 軍曹は手にしていた小銃を構えて配置についた。私は入れ替わりで隣の部屋に入り、煤汚れたソファに体を預けて仮眠用の毛布をかぶる。

 こちらの部屋の窓は小さく風が入らない、それに焚火も焚いているので温かい。仮眠用の毛布も質が良く、緊張が解けた事も相まって私はすぐに眠った。

  

 ---ー---

 --ー-

 --


 オスカー・ローランド軍曹

 

 「・・・フランカ・ルチアーニ」


 オスカーは後ろで静か眠る新しい部下の名前を呟く。

 彼女の事は昨日の夜に調べた。


 共和国人と帝国人のハーフ。それ故の謂れの無い迫害を受けたであろう事は想像に難しくない。

 恐らく学業はおろか日銭を稼ぐ事すら出来ずに軍の門戸を叩いたに違いない。


 「こんな可愛い子にこの道を選ばせるなんて、同じ共和国民として情けない話だ」


 オスカーにも家族が居た。今となっては夢の中でしか会えない存在だ。

 父親だったからこそ、フランカの境遇に同情を禁じ得なかった。 


 「・・・・・・」


 オスカーはフランカの顔を思い浮かべる。

 緩いウェーブのかかる金髪、スッとした鼻先、二重瞼に薄い桜色の唇。


 女性として非常に整ったそれらは、帝国人の面影が残る輪郭により中性的に見えた。

 そして彼女の最大の特徴であり、戦場ここに居る理由。


 帝国人と同じ翡翠色の瞳。

  

 オスカーにとっても翡翠色の瞳には良い印象は無い。

 むしろある意味では憎悪の象徴だ。


 神様はそれを知ってか知らずか彼女を彼の元に導いた。

 

 「・・・ーーー」

  

 小さく呟いた亡き愛娘の名前は、風と共に消えて行った。


 ーーーーー

 ーーーーー

 ーーーーー


 9月19日 夕方


 フランカ・ルチアーニ『1等兵』 北部前線地域 市街地域


 帝国軍北部方面軍がフランカ達の元へとやって来たのは日が傾いた夕方だった。

  

 「各員戦闘準備だ。フランカ、準備しろ」


 監視についていた軍曹は無線で全員に呼びかけ、何度目とも分からない交代の休憩が終わろうとしていた私は小銃に弾薬を込める。


 「敵部隊は歩兵2個分隊とガルマンが1機、なかなか骨が折れそうだ」


 『ガルマン・・・』


 名前だけは聞いた事がある。帝国軍が配備する新式の兵器だ。軍曹の双眼鏡を借りて敵方を見る。

 遠目からでも分かる程に分厚い装甲、中央に鎮座する戦車砲と副砲、それらを囲む4基の銃座、そして巨体を支える巨大な履帯キャタピラ


 それを例えるならば陸上を征く為に小型化された戦艦と言えるだろう。


 『あれが、ガルマン・・・あんなのに勝てるの?』 


 「臆するなフランカ、俺達にはプランがある・・・・」

   

 そう口にする軍曹の表情はどこか余裕を含んだように見えた。

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