表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混血のフランカ  作者: 葉月 悠人
1章 翡翠の瞳の少女
6/51

#5

 『帝国軍広報部公認 ニールマン報道紙』


 『現世に降り立った軍神、アドラー・クラウス中佐』


 帝国の中でアドラー・クラウスの名前を知らない者は恐らく居ないだろう。


 前線部隊の指揮官でありながらも歩兵として常に最前線に立つその姿は、まさに軍神と呼ぶに相応しい。

 

 ニールマン報道紙は先日クラウス氏に突撃取材を敢行、突然の取材にもクラウス氏は紳士に対応してくれた。


 『孤児だった私にとって軍は家族同然だ、そして家族と共に大事な物を守る事が出来て光栄だ』と述べた。


 クラウス氏の人気は強大で彼の背中を追って入隊を志願する者が後を絶たない。


 我らが大総帥閣下は「我が帝国の兵士の規範たる存在だ」とクラウス氏を高く評価した。

 

 9月18日 深夜

 アドラー・クラウス

 共和国北部 帝国支配地域 前哨基地『フロイライン』


 『いつから戦争ってのは家族とも戦わなきゃいけなくなったのかねぇ?』


 アドラー・クラウスは新聞を投げ捨て、お気に入りの煙草を片手に1人ぼやいた。 


 机の上に並ぶ数枚の報告書。


 それに書かれた2つの内容、それは俗にいう『良い知らせと悪い知らせ』と言うものだ。


 『良い知らせ』は数か月振りに大規模な補給が訪れた事だ。


 補給部隊が共和国軍の攻撃を受け始め、補給が不安定になったのが約2ヶ月程前の事。

 クラウス指揮下の部隊は新型の機甲兵器『ガルマン』を基幹戦力きかんせんりょくとした機甲部隊。

 その圧倒的な火力と部隊の強さがイコールだった事が災いし、肝心の歩兵部隊は大した練度を持たない新兵からなる集団だ。


 『ガルマン』が動かないとなると歩兵部隊の出番なのだが、どこまで使い物になるか分からない。

 それゆえ今回の大規模な補給は大いに助かるものだった。



 次に『悪い知らせ』。


 帝国は西方軍と北方軍の一部部隊の2個戦力で共和国の攻略を行っている。

 クラウスの所属は北方軍であり、戦果も補給の妨害が入るまでは『ガルマン』の運用で安定して得られていた。


 しかし最近、クラウスにとって望まぬライバルが現れた。


 西方軍で新兵からなる歩兵部隊を率いて敵陣地を強襲、軽微けいびな損害で最大の戦果をあげる『英雄』が現れたのだ。


 血と泥にまみれ、硝煙しょうえん芳香ほうこうまとうその容姿からその兵士は『戦女神ヴァルキュリー』と呼ばれているそうだ。


その異名から察するにその兵士は女なのだろう。

彼女の存在は男尊女卑の空気が色濃く残る帝国軍の上層部からすれば面白くない筈だ。


 西方軍でそれ程の存在が現れたとなれば北方軍司令部は負けじと戦果を急ぐのは想像に容易たやすい。

 そうなると真っ先に戦果を期待されるのは他ならないクラウスの部隊だ。

 奇しくも新兵だけで構成された部隊同士、というのもあるのだろう。

 そうなると前述の大規模な補給も『これからの戦果』を期待しての先行投資という事なのだろう。


 「・・・あれ?これって2つとも悪い知らせじゃね?」  


 クラウスの呟きに答える者はおらず、ただ壁の時計が静かに時を刻むだけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ