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北部方面軍。
帝国との戦線の大部分を抱える方面軍だ。
砲兵隊と戦車隊の稼働数は他に劣るが、歩兵部隊の数だけは全軍で一番の数を誇る。
私が配属されたのは基幹部隊となる第11歩兵連隊の1つ、『第15中隊』という部隊だ。
私の配属先、第15中隊の担当地域は地方都市リューンから北東に数十キロ地点の戦域だ。
その場所は理由は不明ながらも帝国の新式兵器により劣勢だった共和国軍にとって、敵の進撃を食い止めている数少ない戦場らしい。
本来ならば劣勢な場所へと送られなかった事を喜ぶべきなのだろうが、色々と思う所がある故郷に戻ってきた事に私は嘆息を禁じ得なかった。
9月18日 未明
フランカ・ルチアーニ1等兵 北部前線『アマルトルム駐屯地』
「フランカ・ルチアーニ・・・女か」
第15中隊の指揮官らしき男は数枚の書類を睥睨する。
少しの沈黙の後に帰ってきたのはあからさまなため息だった。
「俺は増援を頼んだのであって娼婦を寄こせと言った覚えは無いんだがな。しかも帝国人共と同じ目をしてやがる」
指揮官のあからさまな嫌悪の態度に自分でも分かる程に顔が険しくなるのを感じた。
「まぁ、来ちまったモンは仕方ねぇ・・・精々弾除けくらいにはなって貰おう」
指揮官は傍の電話を手に取り、どこかと連絡をつけた。しばらくすると部屋のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します」という声と共に1人の兵士が入室し、敬礼を行う。
「オスカー・ローランド参りました」
オスカーと名乗る男が敬礼を終えると指揮官は私を指さした。
「今日からそこの女の面倒をお前に任せる、好きに使っていいぞ。それだけだ」
「承知いたしました。それじゃあ1等兵、付いてきてくれ」
オスカーと名乗る軍曹の後に続き私は指揮官の部屋を後にした。
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『アマルトルム駐屯地』敷地内
「すまないね1等兵」
駐屯地内を移動する間、オスカーと名乗る軍曹は申し訳なさそうに謝ってきた。
「コッチ大尉は悪い人じゃないんだ、確かに口は悪いけど君をウチに配属したのは君を案じての事だと思う」
『出会ってすぐに人を娼婦呼ばわりする奴が私を心配?ここのジョークは面白くないわ』
「まぁ、余程の事が無い限りもうあの人と関わる事はないから・・・と、あそこが俺達の寝床だ」
軍曹の歩く先に立つ簡素な造りの建物、それは短き2等兵時代を過ごした6号兵舎をそのまま小さくしたような建物だった。
兵舎に入ると中には兵士達が談笑していた
「おーいみんな、集まれ」
軍曹の声にみんなが部屋の真ん中に集まる。分隊と言うには人数が多く感じられる。
「今日から我が第2小隊第2分隊に配属となる・・・え~と。すまない、そういえば名前を聞いていなかったな」
『フランカ・ルチアーニ1等兵です』
私は簡単な挨拶を行う。
「我々2-2部隊念願の増援だ!盛大に歓迎しよう」
オスカー軍曹の声に皆は拍手を送ってくれた。
9月18日 夜
私の配属先は第2小隊第2分隊、通称『2-2部隊』という小規模な所だ。
隊長のオスカー軍曹を始めとする人達は私を温かく迎えてくれた。
その光景に泣きそうになったのは秘密だ。
明日から作戦が始まる。
いつもより早いが眠りにつこう。
2-2部隊所属 1等兵 フランカ・ルチアーニ 記
PS 共和国よ、永遠に。