#24
9月28日 朝
カリーナ・フォン・ヴィルヘルム
前哨基地『フロイライン』 臨時指揮所
黒煙が立ち昇り、未だ火の燻る基地の中で私は急設された指揮所で復旧作業の指揮に追われていた。
『負傷者の救出を急げ!手空きの者は消火作業に回れ!!弾薬庫への延焼だけは絶対に防ぐんだ』
「准将、負傷者が予想より多く・・・消火まで手が回るかどうか・・・」
『仕方がない、捕らえた捕虜に監視をつけて動員させろ、消火は兵士で当たれ!』
「了解」
ただでさえ狭いテントの中で慌ただしく人が動く、様々な音や話し声が徹夜明けの心身に響く。
偶然近くを通りかかった兵士を呼び止める。
『・・・大尉、今現在の状況はどうなっている?』
「准将の的確な指示のおかげで負傷者の救出と収容は区切りがつきそうですが、消火は少し手こずるかと・・・」
『そうか。それなら後は任せて私は少し退席させてもらう。お前達も交代で休憩を挟め』
「了解です、後ほど食事をー」
『いや・・・いい、一人にさせてくれ』
私はそのまま指揮所を後にした。
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カリーナ・フォン・ヴィルヘルム
将官用宿舎
昨夜の酒宴の跡が残る部屋。
揮発した酒と銃の硝煙が混ざった匂いは不思議と眠気を助長させた。
革張りのソファに体を預け、静かに目を閉じる。
あと数時間もすればクラウスが帰ってくる、事後の引継ぎは問題ない。
残りは彼に任せて、少しばかりの休息をとろう。
私の意識は深く沈んでいった・・・
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9月28日 午前
アドラー・クラウス
前哨基地『フロイライン』
数日振りに戻った基地の変わりように俺は目を疑った。
壊滅した正面ゲート、燃え焦げた車両、一部が崩落した建物。
だが俺にはそんな事よりも心配でたまらない事がある。
まず俺は復興の指揮を執る仮設テントに飛び込んだ。
『准将、カリーナ准将は居るか!』
突然声を上げたものだから士官が一斉にこちらを向く。
「中佐、お戻りになられましたか」
近くに居た士官がこちらへとやってくる。
『挨拶はいい!准将は無事なのか!?』
俺の気迫に士官は少したじろいだ。
「ヴィ・・・ヴィルヘルム准将は宿舎にお戻りにー」
『行き先を聞いてはいない!!『カリーナ』は無事かと聞いてるんだ!!』
「ぶ、無事です!先ほどまでこちらで指揮を・・・中佐!どちらへ!?」
『無事』という単語を聞いた俺は士官の言葉を振り切り、指揮所を後にした。
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アドラー・クラウス
将官用宿舎
『『カリーナ!!』』
准将の部屋のドアを開け、名前を呼ぶ。
部屋を見渡すと、ソファで横になる人の姿。
カリーナだった。
その綺麗な金髪はボサボサと乱れて煤汚れており、眠る目元には隈があった。
それなりに声を荒げて部屋に飛び込んだから叩き起こしたかと思ったがそれさえも気にしない程にカリーナは熟睡していた。
一体俺が戻ってくるまでにどれだけの時間、復旧作業の指揮をこなしていたのだろうか?
『・・・根を詰めると体に障りますよ准将。ともあれ、ご無事で安心しましたよ』
俺は准将を抱きかかえ、隣の部屋のベッドに寝かせる。
『・・・すぐに一仕事終えて戻ってきますからね』
俺は准将の頭を優しく撫でて、復旧作業の指揮を執る為に部屋を後にした。