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とある戦場 時刻不明
遠くから轟く大砲の砲声、全方位から断続的に響く無数の銃声。
鈍色の雲に覆われた空の向こうから鋼鉄の鳥の咆哮と断末魔が轟き、力尽きた鳥が炎を纏って落ちていくのがみえる。
敵か味方か分からない砲撃が破壊への音色を上げながら飛び交い、やがて地面にどす黒い殺戮の花を咲かせる。
その死の花を縫うように避けながら、敵陣へと殺到する兵士の怒号と戦車の唸り声。
あらゆる暴力が横行するこの地の果ての一角で、2人の兵士が言葉を交わしていた。
1人は乱暴に言葉を繋ぎ、激情のままにそれを相手へと投げつける。もう1人はその様子を小さく笑いながら、砕けた調子で受け応えていた。
双方ともそれなりの大声で言葉を交わしている筈だが、戦場の音にかき消され、当人達にしか聞こえていない。
その場に第3者が居たならば誰であろうと目を疑ったに違いない。
言葉を交わす兵士は、つい先程まで砲火を交えていた敵同士なのだから。
2人は一体どういう関係なのか?
何故、敵同士である筈の2人が共通の言葉で会話をしているのか。
それを解き明かすには今から2ヶ月程の時を遡らなくてはならない。