序章
「幸穂〜!美穂〜!早く来なさい」
お母さんに呼ばれて、階段をかけおりる。美穂も後ろからついてきている。
今日は1年に1回あるかないかの家族旅行の日だ。
お父さんの車で四国の方のお寺巡りをするらしい。
私はこういうお寺や神社が好きで、べつに大丈夫だが、美穂はそういうことが嫌いなので心配だ。
私の視線に気づいたのだろう、美穂はニッコリこちらを見て微笑んだ。
「大丈夫だよ。幸穂と一緒ならどこまでも行くから」
そうだった。美穂は引くほどのシスコンだ。もちろん私に向けての。
もう慣れてしまえばスルーすることが出来るが、このシスコンが出始めた時は嫌で嫌で泣いていたことを思い出す。
玄関を出て、車に乗る。私は車に乗ってすぐに寝てしまった。
次に起きたのは、車が落ちていく瞬間だった。
みんなの叫び声がする。目の前の景色が回っていく。次の瞬間激痛で叫び声を上げた。
「痛い!!痛い!!」
車が体の上に乗って身動きが取れない。美穂もお母さんもお父さんも目の前にいるのに助けられない。きっと足が潰れている。
「美穂!!美穂!!」
お願い目を覚まして。
あぁ、ダメだ。意識が遠のいていく。
最後に見たのは少しだけ目を開けた美穂の顔だった。