プロローグ────英雄になり損ねた男
どこまでも澄み渡る雲一つ無い青空。
その青空に向けて一人の青年が力無く腕を伸ばして何かを掴もうとする。
それと同時に審判が無情にも勝敗を告げる声が競技場に響きわたる。
そして青年の夢はついに叶える事も無く潰え、そして青年は英雄になり損ねた。
◆
「澄み切った…空だぜ」
「何が『澄み切った空だぜ』よ』
「あぁ……?何すんだよ。痛いじゃねぇーか」
窓から見える雲一つ無い青空を見つめて傷心に浸っていると「ボスンッ」という音と共に頭を何かで叩かれる。
その衝撃たるや脳天からつま先まで駆け抜けるかの如く。
一体何で叩いたんだと思い頭の痛みを口にしながら俺は振り向く。
「こんな所でサボっているアンタがいけないんでしょうが、アンタがっ!」
そこには想像していた通り見知った女性、サーシャが分厚い資料であろう束を脇に抱えながら腰に手を当て立っていた。
その目線は釣り上がり睨みつけている。
そもそも今現段階で俺にこんな事を出来る奴何て限られている為自ずと答えは出るのだが。
「そうは言っても現在俺にはなーんも仕事が無くてな、唯一の仕事と言えばこの部屋でのんべんだらりと時間をやり過ごすのが俺の仕事なわけだ」
「アンタは自ら仕事を探すって考えはないのかしら。全く、どこでどう間違えれば【万色】と呼ばれた男がこうも落ちぶれるのかしら」
「その二つ名は恥ずかしくなるからやめてくれ。結局俺には重すぎた二つ名だ。凡人は凡人らしく十人十色でも名乗ってるべきだったんだよ」
思い返すは十八の夏。
雲一つない青空が広がるあの時である。
俺はそこで初めて本当の天才という奴に出会い、そして無残にも負けた。
そもそも俺はこの世界に生まれて来る時、所謂前世の記憶を持った状態で産まれ落ちた。
前世の言葉で言うと異世界転生と言う奴である。
前世ではうだつの上がらないサラリーマンでありいわゆる凡人であった。
30歳を目前とした雨の日に交通事故に遭い死亡。
そしてこの世界に転生し、前世の知識を活かして魔術を極める事に努力する。
しかし考えても見てほしい。
前世の世界を基準にするならば、寿命が30年伸びましたと言われた所でその当時天才と呼ばれる者達に肩を並べる事が出来るのかと。
答えは「NO」である。
医学、化学、数学は勿論スポーツ、芸術、その全てにおいて無理だと言い切れる自身がある。
だからこそ自分は前世で凡人だったのだ。
しかし俺はその事に気付かず何を浮かれたのか魔術師のトップになろうと馬鹿げた夢を叶うと信じて疑わなかった。
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