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◎2

「…………」

「…………」

「……」

「……」

「お嬢ちゃん、お名前はなんていうのかな?」

「……葉月」


葉月は名を告げると、青年はこくりと頷いた。


「そっか、ハヅキ。変わったいい名前だね。俺はコトル。半人半蜘蛛の魔物だよ」


衝撃的な出会いからしばらくあと、葉月は半人半蜘蛛の青年のコトルと一緒に大きな木の根に座っていた。コトルは葉月にいくつか質問し、葉月がコトルに答え、しばらくしてコトルはへの字に笑って会話を終了した。そしてまた沈黙が続き、コトルが口を開いた。


「やっぱ、まだ乾かないね」


そう言って、コトルは上をみた。葉月は頷き、正面をみた。木の枝がいくつも集められぱちぱちと赤い火花と音をだしている。その上にはきら、と火があてられ光る糸が一本と葉月の服が干してある。先ほど葉月が、石につまずき転び、沼へと落ち、水を吸い濡れた服。


「あと何分したら乾くの?」

「う~ん。何分だろうね」


隣に座っているコトルの横顔を見上げる。コトルは困ったように頬をかきながら、木々に隠れて見えない空を見上げた。


「あ」

「どうしたの?」

「コトルの目がいっぱいあるね。何個あるの? 本物?」

「八つ。本物だよ」


葉月の知っている蜘蛛も八つの目を持っているのを思い出した。またの沈黙。コトルがぼんやりしているそのすきに、葉月はコトルのお腹をぺたぺた触る。


「あ、ちょっと……!」

「ママのお腹と違ってコトルのお腹は固いね」

「いや、まあ、それは性別がちがうし……」


上半身は自分と同じ人間。触っても普通だ。葉月は裸になっている自分のお腹も触ってみては、コトルのお腹を触り、コトルのお腹を見ては、自分のお腹を見ては…と…繰り返す。コトルは驚きはしたが、そのままにすることにした。


「私のお腹はぷにぷになのに、コトルのお腹はふっきんだね」

「ああ、うん、ハヅキが大きくなって鍛えればつくんじゃないかな」

「コトルはつるつるだね。お母さんが乾燥するとかさかさになって大変! っていってたの。コトル、どうやってつるつるなの?」

「森の植物のおかげかな。 ハヅキも食べればつるつるになると思うよ」

「お母さんに教えないと! 敏感乾燥肌ってね。大変なんだって」

「う~ん。大変そうだね」

「うん、紙で指が切れるときもあるの」


火の灯りでは代わり映えしないほど夜の森の中は暗く、葉月はコトルを変質者だと勘違いしたが、子供ならではの順応性が高いからか、沼から助けてもらったからか、いつのまにか一緒に座っている。


空白時間をおいて、葉月の手はコトルの下半身にのびた。葉月の近くにある脚を触る。脚には毛があり、犬や猫の毛とはべつの柔らかさがある。


「コトルの脚は蜘蛛だね」

「半蜘蛛半人の魔物だからね」

「あと毛布みたいだよ」

「俺らの糸のなら聞いたことあるけど、脚の毛は聞いたことないな」

「八本もあって走るとき間違えないの?」

「ないな~。人間は二本足だけど、二本じゃ疲れないの?」

「疲れるけど、八本は疲れないの?」

「疲れるけど、六本多いし、そのぶん疲れないと思うよ」


葉月はコトルの脚を両手で握ると、離さないように力をこめる。そしてじーーーーーーっと見つめてくるものだから、気のせいかコトルの額から汗がでていた。コトルは葉月の行動に疑問に見下ろす。


「どうしたの?」

「コトル、脚動かしちゃだめだよ!」

「わかったよ」


質問したが、答えはない。人間の子供の力では魔物の体を動かせないが、とりあえずコトルは葉月に言われたとおりに脚を動かさないよう力をこめた。下から、葉月がぶつぶつとなにかを呟いている。魔物は耳もいいので、葉月の言っている言葉がはっきりと聞こえている。


「おへそ、をくっつけるようにして……ひじを曲げて……」

「つまさきをまっすぐで!」


葉月が掛け声と同時に、両足で地面を蹴ったがしかし、失敗に終わった。葉月は口をへの字にさせコトルを見上げるも、すぐにぷいっと横をむいた。コトルはどうして葉月が不満そうな顔をしているのかわからず、頬をかく。


「もう一回! コトル脚動かしちゃだめだよ!」

「わかったよ」


葉月はもみじのような小さな手でコトルの脚を強く握ると、コトルはくすぐったさに頬がゆるんだ。結局、葉月がしたかったことが成功しなかった。口をへの字にさせ、裸足で地団駄を踏む葉月。人間の素足だと怪我をする、と心配したコトルは葉月を抱え脚に座らせた。


「……逆上がりっていってね。ぐるん、って一回転したかったの」


葉月は手で表現しながら逆上がりについてコトルに説明する。


「そっか。ハヅキはサカアガリがしたかったんだね」


うんうん、とコトルは深く頷きつつも、葉月の肩をゆっくりと触れるか触れないかのくらいに叩いた。


「けどね、コルトじゃ高すぎてだめだった。私の身長じゃ足りないの」

「そっかそっか。変わった遊びだね」

「ちがうよ、体育の授業でね、たくさんするの」

「勉強なんだ」

「うん、できないと通信簿が二重丸にならないの」

「二重丸って?」

「大変よくできましたのはんこもおしてもらえないの」

「成績の評価か。でもいいんじゃないかな?」

「どうして?」


コトルの異様な優しい声に、葉月は顔をあげた。コトルの八つの目はどれも優しく、夕焼けのように朱い。葉月はつんつん、と朱い目を指でつつきたくなったが、コトルが痛がるとおもってやめた。そんな葉月のおもいに気づかず、コトルは続けた。


「ハヅキは世界の堺をめくってきちゃったから」

「世界の堺?」

「うん、世界の堺」

「?」


葉月はコトルの言葉がわからなくて、声にだしてみる。世界の堺。それでもわからなくて葉月はコトルの言葉の続きをまつことにした。コトルは寂しそうにおしえてくれた。


「そうだな。お母さんとお父さんのとこにはもう帰れない、ってことだよ」



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