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強い子

2026年 9月19日 土曜日 01:55


「さぁ行こうぜ、オヤジィ!!」


 巨大な血の球体から晶が現れる。

 これまでと姿は殆ど変わっていなかったが、彼女の右腕はこれまでと違い男性の腕になっていた。


「あ、あれは……」


 その腕が誰の物なのか、誠には一目で理解できた。

 晶の父、安男のものだ。


「ガハハハ、出来損ないとは言え悪魔になった父と合一をしたか……! これは面白い!」


 誠の頭を掴んでいる大門司の力が、驚きからか少しだけ緩んだのを彼は見逃さなかった。

 体を無理やり捻ると、大門司の腹部へ強烈な蹴りを叩き込む。

 

「ぬぅっ!」


 するとその衝撃で大門司は誠の頭を手放し、彼は脱出に成功し距離を取った。


「はぁ……はぁ……さっきから合一とかなんとかって、一体何の話をしているんだ!?」


 息を切らしながら叫ぶ誠を、大門司は腹部を手で埃を払うような動作をしながらゆっくりと見た。


「ほう、まだ戦う意思が折れていなかったか少年」


「クイーンがまだ戦っているのに俺だけが折れる訳にはいかない……それよりも質問に答えろ、合一とは一体なんだ!?」


「良いだろう、少年のその心意気に免じて教えてしんぜよう」


 大門司は両腕を体の前で組むと、ガラスの向こう側に居る晶を見る。


「合一とは読んで字のごとく、悪魔と人間が混ざり合い一つの存在となることだ」


「一つの存在になる……? それなら魔人と同じじゃないのか?」


「少年、君は何も理解していないのだな……魔人になることと合一することはまるで違う」


 心底がっかりした様な表情で大門司は誠を見ると、説明を始める。


「魔人と言うのは悪魔が人間に力を貸しているだけ、それゆえにその器である人間の限界を超えて力を与えることは出来ん」


「それに悪魔は自らの名を超える以上の力を得ることは出来ない……だが合一化ならば」


「アモン?」


 それまでだんまりを決め込んでいたアモンが、唐突に口を開き誠は驚いた。


「その通り、合一をしたならばただ力を貸しているだけの魔人とも……名に縛られる悪魔とも違う存在となる!」


「悪魔と人間、そのどちらもが意思を一つにしたとき……無限の成長を行うことが可能となる」


「そう、正にその通り! そしてそれをワシは成し遂げたのだ!」


 だが……と大門司は再び晶を見た。


「彼女もまたそれを成し遂げたらしい、いやはや恐れ入った」


「晶が……合一神?」


 大門司はニヤリと口角を上げると、顎で晶を指し示す。

 誠もそれにつられてガラスの向こうを見る。


「ぶっ殺してやる!」


 誠が視線を向けた瞬間、晶が消える。

 そして次の瞬間、轟音が響きガタノゾーアの巨体が浮かび上がっていた。


「きゃっ……ああああっ!」


 突然後方に向かって浮かび上がったガタノゾーア。

 その体の頂点に乗っていた原井は体勢を崩し、落下しそうになり叫び声を上げた。


「だぁらぁぁぁぁ!!」


 先ほど消えた晶は、ガタノゾーアの眼前で叫びながら釘バットを野球でフライを打つ要領で振るう。

 すると再び、邪神の巨体が宙を舞った。


「くっ調子に乗って……ガタノゾーア!」


 地面に着地をしないまま、再び打ち上げられた邪神の上で原井は叫ぶ。

 主の声を受け、邪神はアンモナイトの様な体から生えた触手をのたくらせながら晶へ向かってそれを伸ばす。


「しゃらくせぇっ!」


 晶はそう叫ぶと、向かってくる触手に向かって左腕を振るう。

 するとその風圧で触手の向きが変わり、晶の真横に突き刺さった。


「なっ……!」


「さっきアタシを潰したのは……コイツかぁ!」


 触手が地面に刺さると、間髪入れずに晶は釘バットをそれに振り下ろす。

 すると物理的な攻撃を反射するはずの触手は、まるで紙の様に引き裂き邪神は冒涜的な叫び声を上げた。


「ば、馬鹿な……ガタノゾーアの耐性が貫かれるなんてことが……!」


「覚悟しやがれクソ野郎、テメェだけは許さねぇ!」


 晶はそう言うと、地面に落下したガタノゾーアと原井を睨みつける。

 その瞳は血走っており、まるで獣の様相を相手に感じさせた。


「原井君」


「だ、大門司様……! ご助力を──」


「私に続いて合一神になった彼女の力が見てみたい、この意味が分かるね?」


「か、かしこまり……ました……!」


 大門司は突然スピーカーを通じて原井にそう告げる。

 当初、助けてもらえると思っていた彼女は顔面の血色が失せていくが……直ぐに覚悟を決めたのか大門司の言葉に頷いた。


「ガタノゾーア!!!」


「見捨てられたのかよ、そら可哀そうなこった……けどよ」


「そいつを石にしなさい!!」


「手加減はしねぇ!!」


 逆さについたガタノゾーアの顔、その両目が怪しく光った。

 晶はそれを事前に察知し、先ほど自らが切り裂いた触手を自らへの盾とする。


「自分の攻撃で自分が石になるわきゃねぇ……賢いアンタならそれ位分かんだろ?」


「こ……小娘如きが……!」


「あぁ、確かにアタシは馬鹿な小娘だ! けどな……アタシの中には自慢の親父が入ってんだよ!」


 晶はそう言うと、盾にした触手をガタノゾーアへ投げつけ走り出した。

 ガタノゾーアは飛んできた触手を、他の触手で弾き飛ばすと晶へ向かって再び目を光らせようとする。


「あぁ分かってるぜオヤジ、真っ向勝負だ!!」


「石に、石になれぇぇ!!」


「効かねぇんだよ!」


 晶は目が光ると同時に、自らが付けているヘルメット部分のバイザーを降ろす。

 するとそれはガタノゾーアの邪眼の効果を弾き飛ばし、邪神を部分的に石に変えた。


「が、ガタノゾーアの邪眼が……」


「ほう、あれを跳ね返すのか!」


「くたばりやがれ、化石野郎!」


 晶は走る速度を更に上げ、自らよりも二倍以上はあるガタノゾーアの顔面に向かって飛び上がり釘バットを叩きつける。

 一瞬、空間を静寂が支配した。

 その数瞬後、圧縮された空気が解放され強烈な突風と打撃音が室内に響く。


「古い神だか何だか知らねぇが……そのキモイ面、二度とアタシに見せんじゃねえ」


 釘バットを叩きつけ、そのまま顔面に両足で蹴りを見舞って距離をとりながら晶は地面に着地する。

 そして邪神に背中を見せたまま、得物を納めた。

 すると同時に……古の古き邪神は再び冒涜的な叫び声を上げながら顔面から塵の様に消滅していく。


「あ、あぁぁぁ……そんな、私のガタノゾーアが……!」


「確かに厄介だったが……アタシとオヤジの敵じゃねえ」


 ガタノゾーアが消滅し、その頭頂部に居た原井は地面に落下すると受け身も取れずに横たわりながら絶望した表情を見せる。

 自らの邪神が敗北したこと、そして目の前に居るのがそれよりも強い力を持つ少女であることに恐怖していた。


「さぁ、覚悟は出来てんだろうなぁ!!」


「ひっ、ひぃ……!」


 距離にしておよそ百メートル程度、二人は離れている。

 だが晶の声はよく通り、原井の耳に死の宣告として届いた。


「あ、あんな低脳の子供に……この私が……! また、また奪われるの……!?」


「あ? 奪う?」


「そうよ、そうよ……! 私は一生懸命勉強して……一生の全部を勉強に費やしてきたのに、お前達みたいな低脳が私から全部奪っていく!」


 原井は懐から小さな自動小銃を取り出すと、晶へ向ける。


「あのときだって、お前達さえ居なければ!!」


 そう叫びながら、原井は震える手で銃の引き金を引いた。

 何発かの弾が歩く晶の横をすり抜けていく。


「私はもう失わない……お前達のような低脳を踏み台にして、私はもっと上に! 上に行くのよ!!」


「意味がわからねぇな、テメェの過去に何があったのかアタシは知らねぇし知る気もねぇ……そう言う言い訳はよ──」


 原井は引き金を引き続け、しかし最後の弾が空しく晶の横を通り過ぎていく。

 その間にも晶は歩き続け、遂に原井の前に立った。


「弁護士の前でするんだな」


 強く、晶は拳を握った。

 

「だ、大門司さ──」


 そして、顔面に向かって拳が振り下ろされる。

 原井の顔に深く拳はめり込み、彼女の後頭部が床とキスをしたのを確認すると晶は拳を戻した。


「おや、原井君の事は殺さないのかね?」


「コイツは殺してやりてぇが……そいつが正しくねぇってのは理解できる、アタシはテメェ等とは違う……正しい道を行くって決めてんだ」


「ガハハハ、立派な正義感だ! いや、君達は実に良い人柄をしている」


「屑に褒められたって嬉しくもなんともねぇな」


 グッ、と両足に力を籠めると晶は大門司へ向かって跳躍した。

 ミサイルの様な勢いでガラスへ突っ込むと、そのままそれを突き破り室内に突入する。


「次はテメェの番だ」


「おっと、ワシと戦う前にあちらのお嬢さんを気にした方が良いのではないかな?」


「あん……? ちっ、そういうことか」


 大門司に言われ、晶は壁際に視線を向ける。

 そこには晶、そして父である安男の姿をした悪魔に捕まっている花が居た。


「君の刃が私に届く前に、彼女の心臓が止まる方が先だと思うが試してみるかね」


「先輩、私に構わず……きゃっ!」


「へへへ、大人の話し合いに子供が口を挟むもんじゃねえよ……」


「そうそう、我が娘もそう思うだろう?」


「……死にてえらしいな」


 自らを煽る父の姿をした悪魔に、晶は背中の得物に手を掛けた。


「まだやれんだろ、キング」


「クイーン……」


「リーダーのテメェが折れてんじゃねえよ、何時もの調子で頼むぜ」


「……あぁ! ルークを助けて、大門司も倒す!」


 晶は後ろで花を見ながら迷っている誠に気付くと、彼を元気づける様に言う。

 それを聞き、誠は両頬を強く叩くと再び構えを取った。


「へへへ、強がったってこの状況は変わらねぇぇぇっぇ!?」


「なんだ!?」


 晶がドッペルゲンガーに飛び掛かろうと構えていた矢先、二体の悪魔が突然影の中に消えた。


「待たせたなお前達、ここまでタイミングを見計らった甲斐があった」


 二体の悪魔が消えると同時に、花の足元に広がる影から浮かび上がる様に三人の人間が現れた。


「先生!」


「大門司竜蔵だな? 総理大臣誘拐並びに殺害……その他諸々の容疑でお前を現行犯逮捕する」


「オッサン!?」


「自分も居るっスよ」


「ビ、ビショップ先輩!」


 影の名から現れたのは峰、三木、そして古森の三人だった。

 

「おぉ、君達は……もしやデアデビルの者かね」


「答える必要は無い」


「そういうこった……大人しく投降するなら危害は加えないが、抵抗するなら相応の覚悟はしてもらうぜ」


「そ、そうです、覚悟してください!」 


「投降か……さて、どうしたものかな」


 六人に囲まれ、しかし大門司は尚も楽しそうに笑った。


「当然投稿はしない、しかしこのまま戦うと最低でも四人は死ぬことになるが……それでもやるのかね?」


「この人数で囲んでてこっちが負けると思ってんのか?」


「無論だとも、まず君からは全く魔力を感じないから論外として……ワシとまともに戦えるのは其処のバットの少女と先代峰の二人くらいだろう」


「貴様、私の事を……」


「無論知っているとも、現職IT大臣は情報に疎いとでも思ったかね?」


 大門司は顎を触りながら、値踏みをするように全員を見回す。


「うむ、やはりワシと戦えるのは今の二人だけだな。 それもワシに攻撃を通せるかどうかはまた別の話」


「…………大した洞察力だ」


「ガハハハ、お褒めに与り恐悦至極! いや、しかし諸君を殺すのは惜しくなってきた」


 大門司はそう言って頷くと、ある提案をした。


「どうだね、ワシの仲間にならんか? 諸君の様な優秀な人材ならワシは何時でも歓迎だ」


「論外だな……お断りします」


「馬鹿にしてんのかよテメェ……!」


「馬鹿になどしていない、ワシは本気だ。 ワシが創世神として地球を作り直せば君の失った父親も蘇ることも可能だ」


「地球を作り直す……? ど、どういうことですか?」


 大門司の言葉に首を傾げる花。

 

「ガハハハ、本当に何も知らんのだな諸君! だがそれも一興、ワシの仲間になれば全てを教えようではないか」


「断る、他人を殺すことに躊躇の無い連中と同類になるつもりは無い」


「同感っス、ここの中を見せてもらったっスがあんなことを正気でやるような連中の仲間になんてなりたくないっス」


「残念だ……では死ぬしかないな諸君」


 大門司は、心底残念そうな顔をすると左手に持つ盃を頭上に掲げた。

 すると少しして、地鳴りと共に振動が室内を襲う。


「な、なんだぁ!? 地震か!?」


「いや、異界で地震は起きん……あるとするならば……」


「上だ! この建物の上の方からなんかヤベェのが来る!」


「や、ヤバイのってなんですかぁ!?」


「ちょっとした魔力による砲撃だよ、建物ごと君達を吹き飛ばそうと思ってね」


 時間と共に、揺れがどんどん強まり全員が立っていられなくなる。

 そんな揺れの中でも大門司はまるで意に介さず、真上を見上げていた。


「直撃まで残り三十秒だ、諸君の健闘を期待するよ」


「くっ、テメェ!」


 余裕な姿を見せる大門司に、晶が飛び掛かるが近寄った瞬間に彼女は弾き飛ばされる。


「残念ながら君の攻撃はワシには届かん、君はワシに殺される四人のうちの一人に過ぎん」


「んだとぉ!?」


「では諸君、生きていればまた会おう」


 大門司はそう言って、恭しく頭を下げる。

 すると室内に強風が吹き荒れ……風が止むと大門司の姿は影も形も残っていなかった。


「き、消えちゃいました……」


「それより残り何秒ある!? 逃げれるのか!?」


「全員私の近くに集まれ、影の中に退避する!」


「あぁ……ってちょっと待て!」


 部屋の中央に峰が駆け寄ると、自らを中心として影を広げた。

 影の中に全員が飛び込んでいく中、晶だけが部屋を飛び出す。


「クイーン、何をしている!」


「何って……こいつを見捨てる訳にはいかねぇだろうが」


 晶は隣の部屋で倒れている、原井を担ぎ上げると再び峰の前に戻りそう言った。


「……お前は強い子だな、さぁさっさと中に入れ」


「あぁ、分かってる」


 峰は晶を温和な笑みで見ると、頷いた。

 晶はその笑みに照れる様に横を向き、鼻を指で擦ると影の中に消えていく。

 全員が影の中に消えたのを確認し、峰もまた中に入り……全員が施設から消えるのだった。 


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