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邂逅

2026年 9月19日 土曜日 01:04


 誠と花、そして晶と安男は仄暗い明かりに照らされた通路を歩いていた。

 誠の前方には先ほど合流した二人と話す花。

 そして彼の後方には、今しがた抜けたばかりの扉がある。


「それで父さんと仲直りしてよ~、やっぱり家族は皆仲良くねぇとなぁ!」


「ははは、晶の言う通りだ! 僕たちはとっても仲良し!」


「そうなんですねぇ……ぐすっ、良かったです……二人が仲直りできて」


「オイオイ、泣くなよ~!」


「そうそう、えっと君の名前は……」


 二人のこれまでの話を聞き、涙ぐむ花。

 それを励まそうとする安男は咄嗟に彼女の名前を聞いた。


「あっ、そういえば自己紹介をしてなかったですね! 私の名前は山城花です、学校では先輩にいつもお世話になっていて……」


「そうか山城花さんか……そうかそうか、晶がいつもお世話になっているね」


「いえ、そんな! 先輩にはむしろ私の方がお世話になっていて……」


 そんな他愛のない会話の幾つかを聞きながら、誠は不審な顔で見ていた。


「あの3人の会話を止めなくてもいいのか?」


「……正直な所迷ってる、もしかしたら敵なのかもしれないとも思うけど単純に本当に何かあっただけなのかもしれないし」


「フン、貴様は変な所で甘さが出るな……疑わしい存在は焼き払ってこそだ」


「他人を信じる気持ちってのも持った方が良いと思うよアモンは」


「それで身を窮地に晒す事になろうともか? まぁクイーンの素性が割れている現状、我々の素性が割れるのも時間の問題ではあるがな」


 前方で話す三人を見ながら、誠は己の内に潜むアモンと会話を続ける。

 

「覚悟はしておくんだな、我と契約したあの日から貴様の行動の全てが貴様の未来を決めているのだ」


「分かってる、もしあの二人が敵に回るのならその時は……俺が何とかするよ」


「ククク、良い覚悟だ」


 悲壮な目をしながらそう語る誠に、アモンはクツクツと笑いを浮かべる。

 誠の心が冷えていくのを嬉しく思っていたアモンはその時、前方に扉がある事を認識した。


「扉か、さて鬼が出るか蛇が出るか」


「どっちにしても悪魔なのは間違いなさそうだ」


「ククク、正しく…………ん? いや、待て、この気配は……!」


 その扉を、誠の前を行く三人が開けた瞬間アモンはその先に居る存在に気付いた。


「やぁやぁ、待ちかねたぞ諸君」


 扉の先にある巨大なモニタールームに、その男は立っていた。


─────────────────────────────────────


「ぐえっ!」


「ぐわぁ!」


 ドタ、ドタと男が倒れる音が連続して続く。

 

「ま、こんなもんよ」


 男達が昏倒し、意識を失ったのを確認し三木は右手を拳銃の形にするとその銃口にフッと息を吹きかけた。


「おー」


「流石に公安の職員なだけはあるな」


 格好をつける三木に物陰から拍手をしながら二人が現れる。


「ま、こんなもんだ」


「こんなもんって相手は銃持ってたっスけど」


「不意を突けば銃を持った相手でも制圧は可能だ、それを実践できるかはまた別だがな」


 峰はそう言いながら、視線を三木へ向ける。

 だが当の本人は両手を顔の高さまで上げると、首を横に振った。


「ま、一応訓練してるんでね……さて、とりあえずこいつらを目立たない場所に隠さないとな」


「では影の中に放り込んでおくか」


「え、それ大丈夫なんスか?」


「死にはしない」


「と良いけどな……」


 峰は顔の前で指を立てると、今しがた三木が昏倒させた男達が彼女の影の中に沈んでいく。

 それを不安そうに古森と三木は見るが、直ぐに意識を目の前の扉に向ける。


「まぁとりあえず今はこっちに集中するか」


「そうっスね、ここが例の……」


「兵器開発室とやらか、二人とも準備はいいな?」


 扉に手を掛けながら、峰は二人の顔を見る。

 二人はそれに頷き、彼女は扉を開けた。 


「……見える範囲に敵影はないな、索敵する」


「俺は後ろを見てる、そっちは索敵が終わったら前進してくれ」


「了解した」


 峰は自らの顔の前に掌を皿の様に構え、室内に向かって口から息を吐いた。

 すると一陣の風が室内を駆け抜け、峰に元に戻ってくる。


「……そうか、よし前進する」


「んん? い、今のは何をしたんスか?」


「室内の空気の動きを悪魔を使って探った、行くぞ」


「え、ちょっと待って──」


 峰はそう言うと一人で、スッと室内に侵入する。

 彼女はまるで間取りを知っていたかのように、そのままスムーズに動いていき……それを発見した。


「きゃ……きゃあああああああ! いや、やめ、やめなさい! け、警察に言うわよ!」


「ケケケ、何がケイサツだ、異界にニンゲンが来るわけねぇだろう」


「そうそう、お前はこのままノウミソを抜かれてあのオモチャに入るんだよ」


 奥で手術台に拘束されている女性を、二体の蝙蝠のような悪魔が取り囲んでいた。

 その悪魔達は背後に立つ峰に気付かないまま会話を続ける。


「なるほど、その玩具の中に入れられるとどうなるんだ?」


「ドウナル? ドウナルってそりゃ……ゲッ!!」


「ん……? アッ!!」


「あ、あなたは……!?」


 後ろからの声に、悪魔は振り向くと一体の悪魔の首筋に冷ややかな刃先が当たった。


「さぁ遠慮するな、洗いざらい吐くといい」


「テ……テキ──」


 刃先を当てられていなかったもう一体が、叫ぼうとした瞬間その悪魔が弾け飛ぶ。

 その鮮血は悪魔や地面を真っ赤に染めた。


「エ、エェ!?」


「きゃあああ!?」


「質問に答えろ、次に余計な言葉を発したらお前も殺す」


「わ、ワカッタ! 話す! このオンナのノウミソをあそこにあるオモチャに入れて、ヘイキにするんだよ!」


 同胞が即死したことにもう一体の悪魔は怯え出すと、少しずつ話し始めた。

 悪魔は壁の奥に手術台の奥にある、青い蜘蛛のようなロボットを指し示す。


「兵器? 人間の脳を積んでいるのか? いや、そもそもあれはなんなんだ」


「シ、シラネェよ! オレタチはただハライってニンゲンからノウミソを抜き取れって言われただけだ!」


「ハライ? それは誰だ」


「こ、ココで一番エライオンナだ! 頼む、これ以上は何もシラネェよ!」


「ふむ、そうか……では死ね」


 命乞いをする悪魔に、峰は一言そう告げると刀を横に滑らせ頭と肉体を切り分けた。


「ア、アクマかよ……!?」


「本物に言われたくはないな」

 

 悪魔は鮮血を迸らせながら地面に落下し、動かなくなる。

 それが完全に死んだことを確認すると、峰は手術台に拘束されている女性へ近づいた。


「い、いや! 来ないで!」


「大丈夫だ、悪いようにはしない」


「化け物切り殺した人に言われても説得力がないんですけど!?」


「と言われてもな……」


 二人がそんなやり取りをしていると、遅れて三木と古森が現れた。


「あっ、やっと見つけたっス!」


「ったく、少年置いて一人で先に進むなよな……」


「すまんな、敵の数が少なく纏まっていたので一気に片付けようと思った」


「まぁ無事ならいいんだけどよ、ところでその奥の人は……ん?」


「あっ、あなたはこの間の屋上で出会った!」


 手術台の上に拘束されている女性……飯田を見て三木と彼女は同時に声を上げた。


「あんた、なんでこんなところに」


「それはこっちの台詞だけど……え、もしかしてあなたも攫われてきたの?」


「攫われた? どういうことっスか?」


「話すのは構わないけど、とりあえずまずはこれ外してもらえるとありがたいんだけど……」


「よし、では今外そう」


 峰が刀を振るうと、拘束具が真っ二つになり飯田は手術台から解放された。


「ふぅ……助かったわ、お礼は言わせてもらうけど! この女の人なんなの!? 超危ないんだけど!」


「あぁ悪い、ちょっと世俗に疎いというか……許してやってくれ」


「別に疎くはない、単純にこの場で合理的な行動を取っただけだ」


「つまり心の機微に疎いっスね、いやそれはともかく三木さんこの人知り合いっスか?」


 ムッとした顔をする峰を置いて、古森が三木へ話を振る。


「この間ちょっとな、この人は帝都放送のキャスターやってるんだが……逆に知らないのか?」


「あー自分テレビ見ない派っス」


「最近多いのよねぇ、テレビ見ない人……」


「まぁそれはいいとして、あんたはなんでここに? 攫われたってのはどういうことだ?」


「えぇ、実は政治家の偉い人たちが集まってここでパーティーをするって聞いたから調査してたのよ」


 三木の質問に、飯田は嬉々として話し始める。

 今日、このリープリヒ製薬の工場でパーティーが催されること。

 その参加者には日本の総理や大臣などの重要な役回りの人間が参加すること。

 そしてそのパーティーに参加するための車を尾行中、黒服を着た男たちに拉致をされたことを彼女は話した。


「なるほど、それで目が覚めたらここに拘束されてたと」


「そうなのよ、変な化け物には殺されそうになるし、そこの人にも殺されそうになるし最悪よ!」


「別に殺そうとしてはいないのだが……いや、誤解を与えたのならすまない」


「全く……気を付けてよね、それであなた達は一体何してるの? なんか変な恰好だけど」


「あー……俺たちはその、あれだ、調査というか……」


 今度は逆に飯田からの質問に、三木は答えに窮してしまう。

 三木は古森へ視線を向けるが彼もまた困った顔を浮かべる。


「別に話してもいいだろう、この女性も攫われたということは連中の標的になったわけだしな」


「ふーむ、まぁ確かにここから生きて帰れたとしても今後狙われ続けるかもしれねぇしなぁ……」


「しょうがないっスね、あんまりマスコミって好きじゃないんスけど」


 峰の言葉に三人は逡巡し、少しして全員が納得したのおか首を縦に振った。


「え? なになに? もしかして何かすごい活動してるの?」


「あー……俺たちは簡単に言うと世直しみたいなことをしててだな……」


 三木はゆっくりと言葉を選びながら、自分たちの素性を話した。

 自分たちがデアデビルの一員であること、ここが異界と呼ばれる場所であること。

 先ほどの悪魔のこと……そういったことをゆっくりと説明する。


「えぇ……それ本当!? 本当なら大スクープだわ! カメラカメラ……」


「おいおい、今言ったこと聞いてなかったのか? 黙っててくれって言っただろ」


「でもこんな美味しいネタ……それにほら、顔とか声とかモザイクでぼかすから……」


「だからマスコミは嫌いなんスよねぇ、約束守らないから……」


「やはりここで死んでもらうか」


 話を聞き、興奮する飯田に峰が刀を抜こうとすると彼女の顔から血の気が引いた。


「あ、あははは……う、ウソウソ! 嘘だから! ね!」


「ったく、あんま困らせるようなこと言うのは勘弁してくれ」


「うんうん、気を付けるわ! お詫びと言ってはなんだけど……まだ話してなかったことを教えるわ」


「話してないこと?」


 まだ隠し事があったのか……と内心思いながら、三木はその話題に食いついた。


「えぇ、実はさっき目が覚めた時に一瞬見えたんだけど……さっきとある大臣が化け物と一緒に歩いてるのが見えたの」


「とある大臣? 誰っスか、それ?」


「それは──」


─────────────────────────────────────


 誠たちが扉を開けた先にあった広大なモニタールーム。

 その部屋の中央に、それは居た。


「待ちかねたぞ、デアデビルの諸君」


 現職のIT大臣、大門司竜蔵と……。


「久しぶりだな、アモン」


 ソロモン72柱、序列第一位の悪魔。


「バアル!!」


 主の名を関する悪魔、バアルがそこに居た。



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