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違和感

2026年 9月19日 土曜日 00:30


 晶が工場内部で彷徨っている、その少し前。

 点いたり消えたりする、頼りない蛍光灯の明かりの中を人影が動いていた。


「おい、聞いたか?」


「あぁ、さっき原井所長から連絡があった件だろ?」


「そうそう、なんでも例の連中が潜入してきてるらしいぜ」


「よくやる連中だよな、罠だとも知らずによぉ」


「ま、どうせ直ぐにその連中もあれの素材にされんだろ」


 違いない、と男達は笑いあうと手に持っていた煙草を通路の端に投げ捨てるとそのまま工場の闇の中へ消えていく。

 男達が消えてから少し経った後、影の中から一本の腕が伸びるとその指先で煙草の火を消した。


「……やれやれ、ああいう奴が居るから喫煙者の肩身が狭くなる」


 影の中からゆっくりと女──峰が這い出る様に現れると彼女は溜息を吐いた。


「三木氏もそう思うだろう?」


 煙草を消した指先を見ながら、自らが這い出てきた影の中に対して峰は声を掛ける。


「あぁ!? な、なんだって……おわぁっ! くそっ、なんでこんなに滑るんだよこの中は!?」


「ちょ、ちょっと暴れないで欲しいんっスが!? いたっ! 足! 足が当たってるっス!」


「……やれやれ、ほら、捕まれ」


 峰が出てきた影の中から三木と古森の声が響く。

 二人はどうやら影の中でもがいているらしく、峰はくすりと笑うと影の中に手を伸ばし二人を引き上げた。


「はぁ……はぁ……! お、溺れて死ぬかと思った……」


「自分は蹴られて死ぬかと思ったっス……」


 地上に出た二人は息を切らしたり、項垂れた状態ではあったが峰はそれを見て頷いた。


「そういえば三人で影の中に入る練習はしていなかったな、すまない」


「す、すまないで……すむかよ……」


「し、仕方ないっス……練習しようにも自分達の時間が合わなかったんスから……」


「そりゃそうなんだけどよ……いや、もうこれ以上言ってもしょうがねえか」


 息を切らしていた三木は、徐々に呼吸を整えると立ち上がり首を横に振った。


「しかしあんたの悪魔ってのはすげぇな、影の中に潜めるなんて」


「一族相伝だからな、一定量の物も入れられるしいつも助けられている」


「科学的に色々解析したら悪魔って人類の技術ももっと進歩しそうっスよねぇ」


「……ってのを推し進めるための研究所なのかもしれないな、ここは」


 三木は懐から小型拳銃を取り出しながら周囲を見回し、近くにあるものを見て言った。

 

「見てみろよ、この部屋の名前」


 三木の言葉に、二人は顔をそちらへ向ける。

 そこには施設の地図が貼られており、各部屋の名称などが載っていた。

 三木はその地図の一点を指し示している。


「兵器開発室だとさ」


「思いっきり怪しいっスねぇ……」


 三人は地図を覗き込み、古森が頷く。


「しかしこれからどうするんスか? キング君達を探すっスか?」


「それがいいだろうな、その上で今後の障害となりそうな場所を焼き払っていく」


「そうだな、ここでやってることの確認もして証拠が持ち帰れるんならそいつも持ち帰りたい」


「異界から持ち帰った証拠って証拠として使えるんスか?」


「本来はまず裁判所に申請が必要だが……証拠隠滅の恐れがあったので先に確保したってことにすりゃいいだろ」


 さも当然かの様に言う三木に、古森は困惑した表情を浮かべる。


「えぇ……警察がそんなんでいいんスか?」


「法律や規律ってのは大事だがいつも守っていられる訳じゃない、だからいいんだよ」


「ならこれから我々がする破壊行為も警察の合法的行為の一環ということにしておくか」


 ニヤリと笑うと、峰は腰にぶら下げた刀を見る。


「……ま、俺は見なかったことにしておこう」


「警察も結構雑っスねぇ」


「ではもう一度影に潜って移動するか、行くぞ」


「え、ちょっ──」


「おいっ、まじか──」


 峰が右手の指を立てると、再び三人の足元を影が覆いつくし……三人は影に飲まれ消えた。


─────────────────────────────────────


「これで……くたばりやがれぇぇぇぇぇええええ!!」


 晶は渾身の一撃を篭め、愛用のバットを振るう。

 その横薙ぎの一撃は怪物の胴体を芯から捉え、壁に向かって吹き飛ばすとそのまま怪物を赤い染みに変えた。


「はぁ、はぁ……こいつで一体何匹目だ? アイツみてぇに一閃が使えりゃもっと楽できんのに……」


 怪物が動かなくなったことを確認し、晶はその場に膝を着く。

 地面に向けて顔を項垂れながら息を整えるその最中、彼女は端で身を縮こませる父を見る。

 父は、怯えた目で晶を見ていた。

 

「……へっ」


 晶は悲しそうに、そう吐き捨てるように言葉を発すると未だに震える膝を右手で何度か叩き立ち上がる。

 足の震えが収まると、彼女は自らの父にゆっくりと近づいていく。

 彼女が足を一歩進める度、父の瞳に恐怖の色が映るのを晶は感じた。


「オイ」


「ひっ……!」


「行くぞ」


「あ、あぁ……」


 晶は身を縮こまセル父へ手を伸ばすが、怪物の返り血を浴び悪鬼の様な様相となった彼女に父は怯えを見せる。

 それを見て、晶は父、そして自らの手の順番で見るとゆっくりと手を引き戻した。


「その、すまない……君に守ってもらっているのに……」


「別に気にしてねぇよ、テメェはいつもそんな感じだからな」


「いつも……? その、すまないが僕と君はどういう関係なんだい?」


「そこまで忘れたのかよ……テメェとアタシは親子だ、一応な」


 呆れた表情で言う晶に、父である安男は驚いた表情を返す。


「お、親子……? 私と、君がかい?」


「んだよ、何か文句あんのかよ」


 ドスの利いた声に、安男は首を横に振った。


「い、いや……驚いただけだよ」


「ったく、ぐったりしてたのが少し良くなったと思ったら今度はコレかよ」


 うんざりした顔をしながら、晶は横目で安男が立ち上がるのを見守る。


「いや、その、す、すまない……」


「まぁテメェがクソなのはいつもの事だ、そうやっていつもみたいに小さくなってろよ」


 申し訳なさそうに言う安男に、晶は吐き捨てるように言うと部屋を改めて見回しながら考えた。

 先程から同じような広さを持つ部屋の中に通され、そこに居る怪物を仕留めさせられている。


「この状況、やっぱりマズイか……? クソッ、キングやビショップが居りゃ何か思いつくんだろうがアタシじゃ……」


「あ、あの……」


 周囲を見ながら、一人呟く晶に安男が声を掛ける。


「な、なにか困った事でも?」


「あるぜ、テメェが役に立たないってことと今の状況を何とかできそうな手が思いつかねぇって二つがな」


 父への嫌味を言いながら、晶は笑う。


「い、今の状況か……私が役に立たないのはすまないが……ど、どうだろう、打開策を二人で考えるというのは」


「考えるったってな、どうすんだよ」


「例えば君は今言われるままに進んで怪物と戦うと言う、今の状況が不味いと思っているんだろう?」


「あぁ、このままじゃ無駄に消耗するだけだしな」


「だから別の道を模索するんだ」


 別の道と聞いて、晶は呆れた表情を浮かべる。


「別の道ったって、んなもんあったらアタシがぱっぱとやってるっつーの」


「あぁ、けどそれは一人で考えていた時だ。 今は私も居る、二人でやれば……その……上手くいくと思うんだ、が……」


 どうかな? と安男は苦笑いをしながら晶に提案する。

 いつも見せる、ばつの悪そうな顔ではない父の一面に晶は何かを感じ入ったのか顔を背けた。


「あ、あれ……やっぱり、だめだったかな?」


「べ、別にダメじゃねえよ、ちょっと目にゴミが入っただけだ……良いから続けろ」


「そ、そうか、それなら話すが私の提案としては──」


 安男が打開案について話し始めると、最初は不安がっていた晶もいつしかその話を真剣に聞き始めていた……。


─────────────────────────────────────


 同日、同時刻。

 

「奥義……一閃!!」


 誠は右腕に形作った炎の剣で部屋全体を薙ぎ払うように振るい、蜘蛛型のロボットを両断する。


「シン、シンコクなダメー、ジ……しキュう、シュウリ……を……」


 炎の刃に切り裂かれ、ロボット達は真横に真っ二つにずれながら崩れ落ち爆発する。


「よし、上手くいった……!」


「す……凄い! 先輩、凄いです特訓の成果ですね!」


「あぁ、特訓してくれたナイトに感謝しないといけないな」


「キング、我への感謝はどうした?」


「アモンもありがとう、助かったよ」


 峰への感謝の言葉を述べると、誠の口からアモンが不満の声を漏らした。

 それに苦笑しながら、誠はアモンにも礼を言う。


「さて、あまり休んでもいられない……はぐれた皆を探しに行こう」


「そうですね、クイーン先輩も心配ですし」


「確か奴は……」


「あぁ、あの人と一緒に落ちてるはずだ……急ごう!」


 誠はそう言って、脳裏に晶と彼女の父安男を思い浮かべる。


「って言ってもこの部屋は行き止まりみたいですし……何処に行けば……」


「その点なら問題は無い、キングいけるな?」


「あぁ、今未来が視えたよ」


 誠とアモンの会話に花は首を傾げる。


「ルークはちょっと離れてて、えっとこの位置に……」


 誠は部屋を見回すと、ある方向で止まり自らの右腕を突き出すとその手中に炎を集中させていく。


「え、キ、キング先輩?」


獄炎砲ブレイズカノン!」


 手中に集めた炎は次第に大きくなり、3メートルほどの大きさになると誠はそれを勢いよく壁に向かって発射する。

 その熱量に壁……もとい、壁に擬態している触手が逃げ出し始め炎が通った先に新たな道が切り開かれる。


「よし、上手くいったな! さぁ行こうルーク」


「…………」


「ルーク?」


 ぽかんと大きく口を開ける花に、誠は怪訝な顔で声を掛けた。

 だが直ぐに誠の呼びかけに気付くと、花は飛び上がる。


「あっ……は、はい! すみません! ちょっとびっくりして固まっちゃいました!」


「そ、そう、それは何かごめん、とりあえず行こう、この道もそんなに長くは持たないと思う」


 花の言葉に照れを混ぜながら誠は今焼き払った壁を指差した。

 まだ無事な壁の部分から、黒い触手が少しずつ伸びている。


「わっ、あれなんですか? キング先輩」


「分からないけど……前のアバドンのようにここも悪魔の体の中なのかもしれない、それの形を変えて研究所の様に見せてるんだと思う」


「あの触手はいわば細胞の一つだろう、時間が経てばまた修復されて今開けた穴も塞がるぞ」


「あぁ、だからその前に先に進もうルーク」


「りょ、了解です!」


 敬礼の様なポーズを取ると、花は一目散に穴に向かって駆け出していく。

 

「さー行きましょうキング先輩!」


「はは、了解、でもあんまり先に行き過ぎないでね」


 手を振る花に、誠は笑みを返しながら駆けだした。


「しかし先輩、さっきの戦いといい今回といい何か未来が見えてるみたいですね?」


「みたい、じゃなくて実際に見えてるんだ。 今のこの場所もあの方向へ打ち込めば何とかなるって見えただけなんだよ」


「えぇっ!? ほ、本当ですか!?」


「と言ってもごく近い未来だけどね、あんまり先を見すぎると凄い負荷が掛かるから多用出来ないんだけど」


「それでも今の様に何かへの回答が必要な時は有用だろう、我の偉大さが理解できるだろう?」


 自らを誇る様に言うアモンに、誠は真顔で頷いた。


「あぁ、正直かなり助かってる。 最近は力の漲り方も最初に契約した時とはかなり違っているし……頼もしさを実感するよ」


「ククク、この程度で満足してもらっては困る。 我の力はまだまだ……ムッ」


「どうかしたんですか?」


「どうやらこの先に部屋があるみたいだ、もしかしたら敵が居るかもしれないから気を付けて」


「了解です! 悪い人ならやっつけちゃいます!」


 そしてそのまま二人は穴の中を進み……別の部屋へとたどり着いた。

 暗い通路から電灯が点る室内に侵入したことで、二人は一瞬顔を手で覆う。


「くっ、眩しいな……」


 部屋の明るさに誠の目が慣れ、室内を見回すと視線の先に人影を見つけた。

 かなり遠くに居るそれを見て、誠は手を振りながら声を上げた。


「おーーーい! クイーン、安男さん!」


 誠の声を聞き、彼の視線の先に居た二人もまた誠に気付くと手を振り返す。


「おぉ、おめぇらか!」


「え、クイーン先輩? あっ、ほんとだ! せんぱーい!」 


 誠と花は二人へ向かって駆け出し、合流する。


「心配したよクイーン、大丈夫だった? それに安男さんも大丈夫?」


「あぁ、あたしも父さんは大丈夫だ、おめぇらは?」


「父さん……? あ、あぁ俺達は大丈夫、少し戦闘があったけど怪我は無いよ」


 晶が安男の事を父さんと呼ぶことに少し疑念を抱いたが、誠は晶の質問に答える。


「そっか、ならよかったぜ。 んじゃ行こうぜおめぇら、この先が終点みたいだからよ」


「終点?」


「父さんがここの地図を途中で拾ってよ、それで進んできたんだよ」


「いやいや、娘が優秀だからであって僕は何も……はははは!」


 笑いあう晶と安男を見て、花は誠に耳打ちをする。


「玖珂先輩、お父さんと仲直り出来たんですね」


「うーん……そう、なのかな?」


 顎に手を当て、誠は何となく違和感を感じていた。


「おう、内緒話してねぇでさっさと行くぞおめぇら」


「あ、あぁ……そうだね」


 部屋に唯一ある扉を指差し、晶と安男は進んでいく。

 花もまた二人の横に並びながら歩いていくのを、誠は少しだけ後ろから付いていくのだった。




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