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モンストルム・デアデビル  作者: にっしー
峰京子という女
67/108

一夜明けて

2026年 7月29日 水曜日 07:32


 ピピピ、と室内に電子音が木霊した。

 未だにカーテンが閉まり、薄暗い部屋の中で男性二名はそれを聞いてベッドの中で体をもぞもぞと動かすと音の正体である時計を止める。


「ん……ふぁ~あ……もう起きる時間?」


「マジかよ……」


 誠の言葉に、三木は気落ちした声で一言呟くと再び毛布の中で丸くなった。


「おじさん、起きないと朝ごはん食べられないよ」


「俺はパス、若いお前と違っておっさんの俺は体力の回復にも時間使うの」


 毛布に包まれながら三木は小声でそう答えると、再び寝息を立て始める。

 誠はそんな三木にやれやれと頬を掻きながらゆっくりと体を起き上がらせ、そのまま風呂と一緒に備え付けられた洗面所に向かい顔を洗う。


「歳を取るとそんなに辛くなるものなのかな……アモンはどう思う?」


 流水で顔を洗い、タオルで水を拭き取りながら誠は自らの相棒へ声を掛ける。

 だが相棒からの返事はなく、誠は不思議そうに周囲を見回した。


「……あっ、そういえば昨日峰先生がアモンに話があるって連れていったんだった」


 昨日行われた話し合いにより、峰の過去を知った誠達は今ここに居ないメンバーには後日話をするという事に落ち着いた。

 その後は戦いでの疲れもあり全員が各々の部屋へと戻ったのだが、その際に峰がアモンに用事があるということで誠と三木は二人で部屋へと戻り泥の様に眠ったのである。


「何の話をしたんだろう」


 タオルを浴槽に掛けると、誠はパジャマから私服へ着替えながら首を傾げる。

 元日本最強の悪魔使いと悪魔の話し合い、その内容に興味をそそられながら着替えを終えた誠は三木へ声を掛ける。


「じゃ、おじさん行ってくるね」


「ぉ~……」


 気の抜けた返事を聞き、誠は苦笑をしながら部屋の扉を開け外へ出る。

 真っ赤な絨毯が引かれた通路の奥へ目を向けると、茶色い髪をした女性ががさつな歩き方をしながらこちらへ向かってくるのが見えた。


「おはよう、晶」


 徐々に近づいて来る晶に、誠は軽く手を振ると挨拶をする。

 そんな誠に彼女も昨日の疲れを全く見せない動作でてを振り返した。


「おーっす、よく眠れたかよ誠」


「あぁ、おかげさまでね」


「……あん、あのおっさんは?」


「三木おじさんは疲れてるから朝食を食べないでもう少し寝るってさ」


「だらしねぇなぁ、あんくらいで……歳取ると皆そうなっちまうのか?」


 三木が居ない事に不思議そうな顔をする晶に説明をすると、彼女は先ほど誠が言ったようなことを言う。

 それを聞いて、誠は苦笑した。


「ふふっ」


「……んだよ?」


「いや別に、それより先生や部長は?」


「峰も飯はパスだとよ、不用意に外出て昨日の連中に見られる可能性もあるってんでよ」


「そうか、もしかして三木おじさんもそういう理由で……」


 晶の答えを聞き、大人二人組の行動が一緒である事に思索する誠。

 だが晶はそんな彼の胸へ拳を軽く突いた。


「そういうのは後で直接聞きゃいいだろ、アタシはもう空腹で死んじまうぜ」


「はは、ごめんごめん」


 そして空いた手で自らの腹部に手を添える晶を見て誠は再び笑い、二人は一階にあるレストランまで足を運んだ。

 エレベーターから降り、食券を係の人間に渡すと誠は先に来ているであろう女性二人を探しそれを見つけた。


「あっ、二人ともあそこに居るよ晶」


 眼鏡を掛けた小柄な新聞部の部長岸田と、大柄な体躯を持つロングヘアーの花の二人を誠は見つけた。


「花ちゃんが居ると場所が分かりやすいなぁ」


「お前……相変わらずデリカシーがねぇな」


「え?」


「まっ、別にアタシはどーでもいいけど」


 ビュッフェ形式のレストランでは人がごった返していたが、身長が190センチを超える花はどんな場所に居ても目立つ。

 そんな彼女に誠は謝意をこぼすが、晶は呆れた顔をしながら誠を置いて一人で進んでいく。

 晶の言葉に不思議そうな顔をしながら、誠も遅れて彼女に合流した。


「閼伽井……じゃなかった、誠さん、玖珂さんおはようございます」


「おはようございます先輩!」


 晶と少し遅れてやってきた誠を見て、岸田は軽く会釈をしながら挨拶をし花も椅子から立ち上がり大声で二人へ挨拶した。


「おぉ、相変わらず山城は声でっけーな……」


「やぁ二人とも、おはようございます」


 晶は二人へ軽く手を上げ、誠もまた二人に軽く会釈をして挨拶を交わした。

 二人が座っていたテーブルには丁度空席が二つあり、晶と誠はそのまま座ると軽い雑談を始めた。


「昨日はご迷惑おかけしてすみませんでした部長」


「い、いいいいえ! 逆にお二人が無事で良かったです! てっきりターボ婆に捕まって足にジェットを付けられていたのかと……」


「ターボババア?」


「あっ、いえ! こここここっちの話です!」


 何事かを口にする岸田に晶がきょとんとした顔で問いかけるが、彼女は全力で髪が振れる程の勢いで首を横に振った。


「しかし山城、すげぇ量食うんだな」


「えへへ……でもきちんとカロリー計算はしてるから体重管理とかはばっちりなんですよ!」


「ほ~ん、カロリー計算ねぇ……アイドルってのは大変なんだな」


「そうなんですよ~、撮影とかもあるからあんまり食べ過ぎて太ったりとかできないですし」


「撮影……」


 撮影と言う言葉に、一瞬誠の脳内に水着を着てセクシーなポーズで写真を撮る花の姿が想起された。


「…………いいね」


「おい、テメェ今何かエロいこと考えてなかったか?」


「えっ、あっ!? いや、ち、違うよ! その……花ちゃんが食べてる料理が美味しそうでいいなぁって言ったんだよ!」


「うそくせ~」


 疑惑の眼差しを向ける晶に誠は少したじろぐが、二人の間に花が割って入る。


「あっ、この料理ですか? それじゃあ私この料理があった場所に案内しますよ先輩!」


「う、うん、それじゃあお願いしようかな」


 花は嬉しそうにそう言うと席を立ち、誠を案内し始める。

 その二人を晶は鼻を鳴らしながら冷ややかに見送った。


「く、玖珂さんは料理取りに行かないの?」


「あのアホが帰ってきたら行くことにするわ」


 岸田と晶の間には、誠が戻るまでの間不穏な空気が流れる事になった。


「えーっと、それでこっちがカニチャーハンでこっちがシューマイ、こっちが……」


 そんな晶の不機嫌を余所に花は嬉しそうに誠を案内する。

 と言ってもそんなに広い場所ではない為、直ぐに彼女の案内は終了した。


「で最後に飲み物がこっちです、先輩はお味噌汁飲みますか?」


「うん、それじゃあワカメのお味噌汁を飲もうかな」


「はーい、じゃあ私が装いますね!」


 誠の返事に嬉々として味噌汁を器に装おうと花は笑顔でそれを渡した。


「ありがとう花ちゃん」


「いえいえ、欲しいものがあったらどんどん言ってくださいね!」


 誠は器を盆の上に受け取ると、笑みを作りながら花に礼を言う。


「い、いや後は自分でやるよ……」


「そうですか? 遠慮しなくても大丈夫ですよ先輩!」


「いやいや、大丈夫だから……ところで昨日はごめんね、二人で勝手に調査に出かけて」


「いえ、私も行くと部長が一人だけになっちゃって怪しまれちゃいますから……それで昨日の調査はどうだったんですか?」


「あぁ、それに関してはあとで峰先生も含めて話そうと思ってる」


 先程の明るい雰囲気から一転し、二人は真面目な顔で話し始める。

 その会話の最中に出た峰の単語に、花は不思議そうな顔をし聞き返した。


「峰先生……ですか?」


「あぁ、まぁその……昨日色々あって先生も手伝ってくれることになったんだ」


「えっ、本当ですか!?」


 誠の言葉に、花は驚き大きな声を上げる。

 彼女の突然の大声に周囲の人達は一瞬こちらを見たが、直ぐに赤面し申し訳なさそうな表情をする彼女を見てまた無関心へと戻った。


「す、すみません先輩……でも先生が仲間になってくれるなんて頼りになりますね!」


「だと良いんだけど……」


 そう言う誠の表情は若干不安げだった。


「さ、そろそろ席に戻ろうか」


「はーい!」


 二人はそのまま席へと戻ると食事を始めた。

 二人と入れ違いに出て行った晶も少し後に大量の食事を運んでくると物凄い勢いで食べ始める。

 誠はそんな晶を不思議そうな目で見ながら、四人は食事を終えた。


「食った食った」


「ごちそうさまでした」


 二人は両手を合わせながら言うと、背もたれに同時に体を預けた。


「そんで今日はどうすんだ? またどっかの資料館とか見に行くのかよキッシー」


「あっ、い、いえ……地域についてに学習をするっていうのは昨日で終わりなので後は帰るまでは自由です」


「あ、そうなの?」


「最初に先生が説明してたでしょ晶……」


「覚えてねぇし、そもそも聞いてねぇ」


 今初めて聞いた、と言うような表情をする晶に誠はやれやれと言った表情をする。


「んじゃ適当に釣りにでも行くとするか、キッシーも行くか?」


「えっ、つ、釣り……ですか?」


「海もちけーしな、もしかしてやったことねぇのか?」


「は、はい、一度も……」


「なら良い機会じゃねえか、一緒に行こうぜ」


 岸田は晶に押され、ゆっくりと頷いた。


「わ、わわわわかりました! この岸田本子、命、賭けます!」


「いや命はいらねぇよ……山城はどうすんだ?」


「うーん、それじゃあ私も一緒に!」


「おっ、そうか、なら早速準備して──」


「あ、あれ? 晶、俺は……?」


 当然、自分も誘われると思っていた誠は困惑した表情で晶へ問いかける。


「へっ、ぜってー誘ってやんねーよバーカ」


 と、あっかんべーをすると席を立ち部屋へと戻っていく。


「あ、あ、あれ? 玖珂さん!?」


「先輩、何かしました?」


「…………分からない、と、とりあえず皆釣りに行くなら気を付けてね」


「わ、わかりました! 玖珂先輩、待ってくださ~い!」


 困惑した表情を浮かべる誠は、そのまま一人レストランに残され暫くそのまま佇むのだった。

 

「……何かしたかな?」


 食後のコーヒーを飲み干し、暫くの間考えていたが全く理由が思いつかない誠。

 そんな彼にホテルの職員が声を掛けた。


「お客様、そろそろビュッフェ終了のお時間ですがよろしかったでしょうか?」


「え、あっ! すみません、今出ます!」


 どうやらビュッフェの終わる時間まで考え込んでしまったようで、誠は頭を掻いた。


「……おじさんに聞いてみるか」


 女性との悩み事に関して誠が相談できるのはアモン、三木、そして自らの母の三人だけだった。

 だがアモンや母への相談は本当に緊急事態以外ではからかわれるだけだと理解していた誠の脳は、相談相手に三木を選び出す。


「でもその前に、まずは先生の所に顔を出そうかな」


 レストランから出た誠はエレベーターの呼び出しボタンを押すと、自らの部屋がある階ではなくその一つ上の階へ向かう。

 唸りを上げながらゆっくりと上昇していく箱の中で、誠は昨日の出来事を思い出していた。


「先生が悪魔使いか……」


 昨日は聞けなかった色々な事を考えている内に、エレベーターはアナウンスを流し目的の階に到着したことを告げた。

 誠はそのまま峰の部屋の前まで移動すると、扉をノックする。


「…………」


 室内からの返事は無かった。


「先生、俺です、閼伽井です」


「あぁお前か、待て、今開ける」


 返事の後、ガチャリと音がして扉がゆっくりと開いた。


「何かあったか?」


 峰はTシャツに短パンと言うラフな格好で誠を出迎えた。


「あ、いえ……その、先生が何をしてるのか気になって」


「……まぁ立ち話もなんだ、入ってこい」


 峰の際どい格好に一瞬ドキッとした誠だったが、直ぐに調子を整え話題を切り出す。

 すると峰は彼を部屋に招き入れ、誠は少しだけ胸の高鳴りを感じながら入って行った。


「当たり前ですけど、部屋の間取り同じなんですね」


「そりゃあそうだろう、ホテルなんだから」


 峰は近場にあった椅子を引くと、顎をしゃくった。

 誠がその椅子に座るのを確認すると、峰もまた壁に寄りかかる。


「あれ、アモンは……」


「奴なら外に出した、私との会話には飽きたようだったのでな」


「そうですか、何か言ってましたか?」


「私の使っている術についてだとか、まぁ魔術的な事を色々と聞かれたよ」


 先ほどアモンを出したのだろう、開いている窓から熱風が室内に侵入した。


「先生は何を聞いたんですか?」


「何、ソロモンの悪魔と話せる機会はそう無いからな、色々とさ」


 熱風と共に、峰が付けている香水の香りが誠の鼻孔をくすぐった。


「そ、そうですか」


「それよりさっき部屋に戻ってきた玖珂が不機嫌そうだったが何かあったか?」


「あぁいや、ははは……何があったんでしょうね」


「よくわからんが、仲間ならもっときっちり意思疎通は取っておけ」


「そうします」


 困惑した表情を浮かべる誠に、峰は苦笑すると本題を切り出した。


「それで、一体何の用事で来たんだ?」


「その……先生は妹さんと戦うのが辛くはないんですか?」


 一瞬呆気に取られた誠だったが、直ぐに真顔になると昨日から聞きたかったことを口に出した。


「辛いか辛くないかで言えば……少し辛いな、産まれた頃から一緒に居る姉妹だからな」


「……先生は、それでいいんですか?」


「良くはないが仕方がない、あれを放っておけばお前は父親の事件解決の為に行動をして啓に殺される、ならば姉としてそれを止めてやるのも役目というものだ」


 それに、と峰は付け加える。


「戦わなければ理解し合えない事もある、私はお前達からそういう機会を得させてもらったと思っている」


「先生……」


「だから気にするな、啓は私が止めるしお前達が啓に殺されない様にしっかり稽古はつけてやる」


 目を閉じながらそう言う峰に、誠は頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「全く、そんな下らんことを気に掛けに来たのか?」


「えぇ、一緒に戦ってもらう以上は知っておきたかったので」


「ふっ、数か月前に見た時はまだまだ頼りない子供だと思っていたが……これまでの経験がお前を変えたんだな」


 峰は目を開き、右手を誠に差し出した。


「改めて、よろしく頼むぞ閼伽井」


「はい、こちらこそ峰先生!」


 差し出された手を誠は強く握り返し、二人は見つめ合った。


「そういえば、昨日は妹さんはどうしたんですか?」


「あぁ、きっちり鎧は破壊しておいたので街中で突然襲われるという事は無いだろう」


「なら先生も外に出ても……」


「一応念の為だ、東京に戻るまでの四日間はホテルの中で缶詰になっておく……なのでだ」


 峰は握手を解くと、誠の肩を叩いた。


「数日分の食料の買い出し、頼んだぞ」


「え……」


「お前達を助けたせいでこうなってるんだから、金もお前持ちだからな」


「えぇ……!?」


「さっ、分かったらさっさと買い出しに行ってこい!」


 峰は誠の背中を軽く叩くと、彼を部屋から追い出そうとする。


「ちょ、ちょっと先生……!?」


「因みに私の好物はシュークリームだ、では行ってこい誠、一時間以内に戻ってこいよ」


 峰は器用に空いている手で部屋の扉を開けると、誠を追い出しそう告げながら扉を閉めた。


「えぇ~……」


 廊下には、部屋を追い出され困惑した表情の誠だけが一人残されるのだった。



今後はまた一週間ずつの投稿予定ですが筆が乗ったら早めに出すかも


─人間関係─

玖珂 晶 コープランク4  

山城 花 コープランク2 

古森 大洋 コープランク1 

峰 京子 コープランク1 ←New!! 

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