必殺の霊的国防兵器
2026年 7月28日 火曜日 18:44
「後藤一等陸曹、搭乗を確認しました!」
「──との接続を確認!」
石動市。
陽が落ち、闇夜に包まれようとしている廃墟の街で自衛隊員達はトレーラーに据え付けられた機器を操作していく。
彼らの作業が進む度に、青い装甲を纏った人型の何かから駆動音が街中へ響いていく。
「全数値問題無し、起動いけます!」
「よし、黄泉軍起動開始!」
「了解、黄泉軍起動開始!」
指揮官と思われる人物が指示を下すと、自衛隊員達は命令を復唱する。
その光景を誠と晶は遠くのビルの上から監視していた。
「なぁ、ありゃなんだと思う?」
「分からないけど……ロボットかな? もしそうだとしたら格好いいね!」
「……たまに馬鹿になるよなお前」
「ククク、偶にではなく常にの間違いではないか?」
誠は自衛隊が動かそうとしている物を見て、目を輝かせる。
だが晶はそれに呆れた表情を返し、アモンは嘲笑した。
「い、良いじゃないか、男の子はああいうメカに弱いもんなんだよ」
「はいはい、それよりもあいつ動き出しそうだけど止めなくてもいいのかよ」
「止めるって言ってもさっきはおじさんを助けるために戦っただけで自衛隊とは敵対してる訳じゃないだろう?」
「そりゃそうだけどよ……あんなあからさまに怪しいの放っておけないだろ」
「怪しいって理由だけで何かを壊したりは出来ないよ、こっちに攻撃してくるとかなら話は別だけ──」
二人が互いの顔を見ながら会話を行い、再びロボットへ顔を向けようとした。
その時、体の芯を貫くような衝撃波が二人を襲った。。
「────ど?」
「な、なんだ!?」
二人は急いで物陰から顔を出し、先ほどのロボットを見た。
すると先ほどまで体育座りをするように座っていたロボットは、しっかりと立ち上がり全身から青色の光を薄く放っていた。
「今の体を貫くような衝撃波はあのロボットからか……?」
「結構強そうじゃねえか」
「……あれはヒヒイロカネか?」
起動したロボットを見て、アモンが訝しげな声を上げた。
「あん? そのヒヒなんたらってのは確か……資料館にあったとか言ってた金属か?」
「そうだ、それがあの機械に使われている」
「どういうこったよ、その金属って確か異界にしかねーんだろ? 何で自衛隊がそんなもんで出来たロボット持ってんだ?」
「好意的に考えるなら……三年前の事件の後にここでヒヒイロカネを見つけてそれを研究してたとか?」
「……理由はどうあれ、あれがヒヒイロカネで出来ていることは間違いない。 あれの硬さは厄介だぞ」
二人は真剣な眼差しをロボットへ向けながらその一挙手一投足を観察する。
観察されている間にロボットは顔や腕、足を動かし自らの体を確認するような動作を取る。
「凄い滑らかに動くな……」
「そうだな、何か動き方も人間みてぇだ」
「先ほど人間が乗っているように見えた、その動きをトレースしているのかもしれんな」
指先や足、体の動きに全く機械らしさを感じさせないそれに誠達は感嘆の声を漏らした。
「なるほど……ってそうだ、おじさんは!?」
「あっ、忘れてた、えーっと確かさっきはあの辺りに居たはずだが……いねぇな」
そしてアモンの言葉にうんうんと頷いている途中で、誠は三木の存在を思い出した。
慌てて先ほど三木が居た場所を見るが、既に彼の姿は無く誠の表情に少し焦りの気持ちが浮かんだ。
「落ち着け、何事も冷静にこなせキング。 見ていた時間は短時間だ、そう遠くまでは行っていまい」
「……そうだね、もう少し探してみよう」
晶に聞こえない様、小声で誠に言ったアモンに内心で礼を言うと彼は再び三木を探し始める。
その捜索中、晶が真上を見上げながら眉を顰めた。
「あーん……?」
「どうかした、クイーン?」
「何か聞こえた気がしたんだが……」
晶の言葉に誠も周囲に耳を澄ませる。
ビルの屋上には絶え間なく風が吹きつけていたが、その中で確かに誠も異音を聞くことが出来た。
「確かに、何か聞こえるね。 何かケケケケっていうか、ココココみたいな音」
「あぁ、アタシが聞いたのもそんな音だ。 ってまた聞こえてきたな、何なんだこの音?」
「あのロボットから……じゃなさそうだな、音がどんどん大きくなってきてるような」
「……ッ! キング、後ろからだ!」
「えっ──」
アモンの怒声に、思わず誠は後ろへ振り返った。
彼の視線の先には巨大な鳥が、奇怪な音を立てながらまっすぐ自身へ向かって突っ込んで来る姿が映る。
数瞬後、誠達が居たビルの屋上から地上へ向かって二人は瓦礫と共に落下していた。
「ちっ、何が起きた!?」
「鳥だ、巨大な鳥がこっちへ突っ込んできた!」
「追撃を掛けてくるぞ、迎撃態勢を取れ!」
「落っこちながらそんな器用な真似出来──おあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「クイーン! くそっ!」
二人が落下している最中、誠達の二倍はある鳥は空中をまるで滑る様に移動しながら晶へ追撃を行う。
仰向けに落下する晶へ鳥は上下さかさまの状態を取り、彼女へ頭突きを見舞い地面に叩きつけた。
誠も迎撃をしようと炎を放つが、直線的な動きしか取れない誠に対し鳥はそれを嘲る様に回避しその場を離れていく。
「速い……!」
「空中で奴は捉えられん、着地してクイーンと合流するぞ」
再び空へ消えた鳥を警戒しながら、誠は地面に着地すると先ほど晶が叩きつけられた辺りへ急ぐ。
「クイーン、大丈夫か!?」
「あぁ、アタシに打撃は効かねぇからな。 とはいえビビったぜ……なんなんだアイツ?」
「分からない、だが少なくとも味方じゃなさそうだ」
「そんくらいわーってる、それよりももっと厄介そうなのがこっちに気付いたみたいだぜ」
土煙が晴れ、右腕を回しながら晶は誠の前に現れる。
傷一つ付いていない胸を右手で叩き、自慢げな顔をした後に顎で前方を指し示す。
「あぁ……話し合いで解決できればいいんだけど」
「ククク、十中八九戦闘になるだろうな」
「もしそうなるなら人殺しをするつもりはない、必要な事を聞いたら逃げよう」
「こっちに目を惹きつけておきゃあのおっさんも無事に逃げれるかもしれねぇしな」
銃を構え、自衛隊員達が近づいて来る。
まだ足元がおぼつかない様子のロボットも一緒だ。
自衛隊員達は誠達を見つけると彼らを取り囲み、銃を構える。
「お前達、何者だ!」
「人に名前を尋ねるときはテメーから名乗るのが筋ってもんだぜ、オッサン」
「もう一度言う、何者だ」
晶の挑発に自衛官達は冷静に銃を構え、引き金に指を移す。
それを見て、誠は彼女の前に手を伸ばし制止する。
「余計な挑発は避けるんだクイーン」
「クイーン……? 隊長、もしかしてこいつら……」
「まさか、お前達デアデビルとかいう連中か?」
「あぁ、世間にはそう名乗っている」
自衛官の質問に誠が頷くと、周囲にざわめきが起こった。
「では先ほどの不法侵入者の男を助けたのもお前達だな?」
「一方的に銃撃されてる人間を見捨てられなくてね」
「ならばお前達も奴の仲間としてここで射殺する」
「おいおい! 善良な市民を殺すってのかよ!」
「もちろん、秘密を知った人間は生かして返すなとの命令なんでな」
取り囲まれ、銃を向けられている二人に上空から女の声が響いた。
その声は、かつて二人を襲った災厄の様な人物の声だ。
「その声は……!」
「クソ女!」
晶の叫び声と共に、先ほど二人を襲った鳥が蝙蝠の様な上下さかさまの状態で上空から落下してきた。
その鳥は地面すれすれで止まり、胸元に抱えていた西洋甲冑を着た人物を下ろす。
「峰顧問……!」
自衛隊員は銃を構えたまま、峰の姿を見て動揺するが彼女は左手でそれを制する。
「ご名答、ちょうど一か月ぶりかご両人?」
「テメェ……なんでここに居やがる!」
「何故と言われても仕事でな、それにむしろそれはこっちの台詞だ」
「仕事……? じゃあ、ここの自衛隊員達は運命会と……!」
「さて、そこに関してはご想像にお任せしよう。 どちらにせよお前たちにはここで死んでもらう」
峰はやれやれといった仕草をしながら剣を抜くと誠たちを見据えた。
「だがここで会ったが百年目、以前の雪辱はここで晴らさせてもらおう」
「ちっ……不味いな、一旦撤退を勧めるがキング」
「俺も同意見だが、逃がしてくれる様には思えないな」
「誠、あの技はマジでヤベーって時まで使うんじゃねーぞ」
剣を抜いた峰を見て、誠と晶の間に緊張が走る。
だがそんな二人を見た峰は逆に笑い始める。
「く、くく……はははははは!」
「……何が可笑しい」
「何、私を見て怯えるお前たちが面白くてな」
大仰な動作で笑う峰を見て、誠は神妙な顔で問いただす。
だが彼女から返ってきたのは余裕を感じさせる返答だった。
「その様子を見るに、以前私に使った術以上のものはなさそうだな。 ならば私の敵ではない」
「ん、んなこたぁねぇよ!」
「では試してみるか?」
峰が剣を構えた瞬間、二人の動きが一瞬硬直する。
「はははは、その体たらくではやはりダメそうだな」
「くっ……」
二人をあざ笑うと峰は剣を鞘へ納め、ある提案を行った。
「さて、ここでお前たちを殺すのは容易いが……今回はあのガラクタの試験に付き合いに来たのでな、お前たちにも手伝ってもらうとしよう」
「なに?」
「馬鹿かテメェ、なんでアタシ等がんなことに付き合わなきゃいけねぇんだよ!」
「通常ならそうだろうな、だが……私がある男の命を握っているとしたらどうだ?」
ある男、と言われ晶はぽかんとした表情を浮かべたが誠はすぐにそれが誰のことか理解した。
「まさか……!」
「恐らくお前が考えている男で間違いないだろう、先ほどこそこそと隠れているのを見つけて捕縛しておいたのだが……こんなにすぐに役立つとはな」
「こそこそ? あっ、もしかしてあのオッサンか!?」
「やはり知り合いだったか、尋問の手間が一つ省けたな」
峰はそう言って指を鳴らすと、彼女の後ろに居た鳥が姿を消した。
そして次の瞬間には鳥が三木を捕まえた状態で空中から現れる。
「ご苦労ガルーダ」
高速で運ばれてきたにも関わらず三木に一切の反応はなく、気絶しているようだった。
彼の顔には痣や血痕があり、峰によって暴力を振るわれていたことを伺わせた。
「貴様……! 人質なんて卑怯だぞ!」
「青いな、正道だけで勝てるのならば誰も苦労はしない」
峰はガルーダの頭を撫でながら、聞いたものがぞっとする様な声で言った。
「さて、これで断るという選択肢は無くなったわけだ」
「屑め……!」
「大人ってのはほんとクソだな!」
「負け犬の遠吠えどうもありがとう。 では早速対悪魔用霊的国防兵器、黄泉軍の性能試験を始めるとしようか」
三木の頭を掴み、誠たちへ顔を見せながら峰は試験開始を告げる。
それを聞き、自衛隊員達は銃を下しロボットまでの道を開けた。
「さ、派手にやってくれ」
「……キング、ここで戦っても後で結局は奴と戦う羽目になるぞ」
「分かってる、けど……今は戦いながらおじさんを助ける方法を俺は──」
「わーってる、要するにあいつを鉄くずにした後にあのオッサンを助けてあのクソ女もぶっ飛ばせばいいんだろ!」
両手の拳を握り、眼前で打ち付けると晶は背中から釘バットを取り出し黄泉軍へと歩き出す。
そんな彼女の背中を見て、誠は気持ちが少し安らぐのを感じた。
「各員距離を取れ! 黄泉軍が暴れるぞ!」
自衛隊員達が一斉に誠たちから距離を取ると、黄泉軍と呼ばれたロボットもまた巨大な二本の刀を抜き放った。
青い装甲に囲まれた顔の無い巨体が動き出し、誠たちに立ちふさがる。
「けっ、すぐに鉄くずにしてやらぁ!」
「あぁ、そのあとに必ずおじさんを助けてみせる」
「ククク、中々面白いことになった……さぁ見せてもらおうか、人間の玩具の性能を!」
「────オオオォォォ!!」
誠の手に炎が灯り、同時に黄泉軍も咆哮をあげた。
街を震わせる咆哮が終わると同時、二人と一体は激突した。




