壁の向こう
2026年 6月22日 月曜日 21:20
「皆、お疲れ様」
服の汚れを手で払いながら、肩で息をする晶と花へ誠は声を掛けた。
「つ、疲れました~……でも無事に勝てて良かったです」
「ったく、あの野郎何度もアタシを何度も振り回しやがって……まだ眩暈がするぜ」
ヘルメットに頭を当てながら晶は頭を振り、花は疲れた表情を見せる。
「それでも生きているだけマシだな、正直お前達が生き残れるとは思っていなかった」
「あぁん? アモン、そりゃどういう意味だ」
「言葉通りだ、ヘカトンケイルは腕一本で山を一つ投げ飛ばす怪力と強靭さを持つ悪魔……並大抵の悪魔でも勝てぬ相手、ましてや悪魔に劣る魔人で勝てる相手ではないと思っていたが……」
誠の口から、アモンはそう答えた。
その声色は心底意外なようである。
「そりゃぁ、確かに最初は力負けしてたがよ」
「先輩がピンチだって思ったら何か、力が湧いてきて……気が付いたら体が動いてました」
「何だルークもか、アタシも何か予想以上に力が湧いてきてよ」
「ふむ、単なる底力か、それとも……」
「なるほどなるほど……モテモテっスねぇ、キング君」
腕組をして、思案するアモンの横から古森がゆっくりとしたり顔で近づいてきた。
「別にモテモテだなんて……単に皆が俺の事を助けようと思ってくれたってだけです、それより古森さんは怪我はありませんか?」
「自分は大丈夫っス、むしろ君たちの方が大丈夫っスか? あんな化け物と戦って……結構な攻撃を受けてたように見えたっスが」
「魔人になると怪我の治癒速度とかも早くなるんです、骨折とかも少しすれば治ります」
「頭が体と切り離されなきゃ割とそれ以外の怪我はどうとでもなる感じだな、そう考えると今更ながらにやべえ力だな……」
「でも普通は魔人よりも悪魔の方が強いんですよね、これからもっと強い悪魔が出てくるんでしょうか?」
少しだけ不安そうにする花に、誠は顔を向ける。
「悪魔としての強さの格であればお前達も負けていない、強くなるためには今少し時間が掛かるだろうがな」
「へっ、上等だ。 ばっちり強くなってやんよ!」
「何にせよさっき倒した奴は自分の事をここの牢番って言ってたし、あれ以上強い奴は居ないと思いたいっスね」
「ヘカトンケイルか……色々気になることを言ってたな、悪魔の中とかカイダとか……マスターミネって言葉も」
ミネ、と言う言葉に古森以外の三人は頭の中で同じ人物を連想した。
新聞部の部長であり、誠と晶の担任である女教師、峰を。
「ミネって……うちの担任の峰か?」
「いやいやいや、流石に同じ名前の別人だと思うけど」
「ですよね、峰先生は怖い人ですけど私も違うと思います。 私としては悪魔の中って言葉が気になります!」
「あの言い方的に今居るこの場所の事を指してるっぽいっスね、個人的には会田の名前が出た事も注目っス、やっぱり繋がってたっス」
「ヘカトンケイルが生きていれば色々な情報が聞けたんだが……もう少し情報を引き出してから殺すべきだったな」
アモンの言葉にそんな余裕は無かったよ、と誠は苦笑いをしながら答えると誠はヘカトンケイルが歩いてきた道の奥へ体を向けた。
「ここが本当に悪魔の中なのか、ミネと言うのが誰なのかは分からないが……この道の奥に答えがありそうだ」
「まずは進んでみるとするか、中に入れるほどの大きさを持つ悪魔に関しては我の方で思い出しておこう」
「んじゃ、もうひと頑張りすっか! この先何が出てもさっきみたいに腰抜かすんじゃねえぞ?」
「見てたんスか……」
「へへへっ、チラっとな」
意地の悪い笑顔を古森へ見せると、晶は奥へと振り向き歩き始めた。
対して古森はばつの悪そうな顔をして、彼女の後に続く。
そんな二人のやり取りを見て、互いに首を傾げる誠と花であった。
「しかし悪魔の中か、もし本当にここがそうだってんならアタシ等は今どのあたりに居るんだ?」
「胃の辺りっスかねぇ、あの穴が口だとすると食道を落下してきた感じっスし」
「えっ、それじゃあ私達このまま溶かされちゃうんですか!?」
「それは無いんじゃないかな、ヘカトンケイルは別に溶けてなかったし」
「そもそも現実とは違う世界っスからねぇ、色んな事が違うんだろうし悪魔の胃も人間の胃と同じとは限らないっスね」
確かに、と花は両手を打ち鳴らし頷いた。
「しかしこの中だと時計も動かないのは困ったもんっスね、今が何時なのかも分からないっス」
「そうですね、体感だともう四時間くらいは中に居る気がしますが……実際には三時間くらいなのかな?」
「動かないで思い出した、キング、テメェの携帯なら時間くらいは見れるんじゃねえのか?」
「あっ、そうか」
晶に言われ、誠は懐から自らの携帯電話を取り出した。
電源を入れると、それは不確かな光を放ち、時刻を表示する。
「今の時間は……もう22時前か」
「ほんとに動いたよ、どうなってんだテメェの携帯」
「何かこう、先輩の凄いパワーでこうぶわーって動いてるんですかね?」
「凄いパワーって何だよ……」
「おぉ、本当に動いてるっス……一体どういう原理で動いてるんスかね、ちょっと触ってもいいっスか?」
「えぇ、どうぞ」
異界でも唯一動く携帯に、その場に居る全員が驚いた。
不思議そうにする三人に対し、古森はそれが技術的に気になったのかそれを借り受けると操作を始める。
「う~ん、触ってる感じは普通っスが……あばばば!」
「古森さん!?」
携帯を操作していた古森は突然体をびくつかせ、携帯を手落とした。
地面に膝をつく古森に、誠は急いで駆け寄り抱き起す。
「だ、大丈夫ですか!?」
「へ、平気っス……いきなり携帯から電気が流れてきて痺れただけっス」
「携帯からぁ? あっ、キングの携帯が映らねぇ、壊れてやがる!」
「携帯から電気が流れたのか……すみませんでした古森さん、そんなに危険だと思わなくて」
「いやいや、いいんスよ。 むしろ携帯を壊して申し訳ないっス、向こうに戻ったら弁償するっス」
誠の謝罪に、古森は首を横に振り謝罪する。
二人で頭を下げあう誠と古森は、すこしだけそれが面白くなって互いに笑みを作った。
「弁償は大丈夫です、こういう場所に持ってきてる以上壊れるのも想定してますから」
「なら、今度何かで埋め合わせを約束するっス」
「うんうん、美しい友情ですねクイーン先輩……」
「そうかぁ? ま、怪我がねーんならさっさと進もうぜ、時間が22時前だってんならいい加減この中調べるのも終わりにしておきてぇ」
「そうだね、古森さん行けますか?」
気だるげな態度を取る晶の言葉に誠は頷くと、古森へ問いかける。
古森は自らの体を何回か動かすと、誠へイエスの意味を込めて頷いた。
そうして彼らは歩き出し、二十分ほど歩いた先に再び壁を発見する。
「あ~……まぁた行き止まりか?」
眼前に高く聳える肉の壁を目の前に、一行は再び足を止めた。
晶は先ほどの様に壁が動かないか、壁へ暴行を加えるがそれは微動だにしない。
「ちっ、ダメか」
「う~ん……でも途中に別の道なんて無かったですよね?」
「そうだね、特になかったと思う」
「さっきから聞こえてる鼓動の音が向こう側から聞こえてるから、多分この向こうに何かあると思うんスが……壊せないっスか?」
「んじゃいっちょ本気で殴ってみるか、離れてなテメェら」
晶は背中から愛用の得物である釘バットを抜くと、誠達が十分に距離を取ったのを確認し壁へフルスイングを放つ。
釘バットは壁に吸い込まれるようにめりこむが……そのすぐ後にゴムの様に反発し、逆に晶を吹き飛ばした。
「おわっ!」
「晶!」
自らの攻撃の反動で後方へ吹き飛ぶ晶だったが、直ぐに起き上がると苛立ちの表情を誠へ見せた。
「いててて……ったく、んだこの壁は!」
「今度は俺が──」
「いや、その必要は無さそうっスよ」
手に炎を浮かび上がらせた誠に、壁の近くを調べていた古森が制止する。
古森は目の前にある小さなパネルの様なものを見つめていた。
「古森さん、それは?」
「…………」
誠の問い掛けへの返答をしないまま、古森はそのパネルへ自らの手を押し当てる。
すると。
「生体認証開始します…………エラー、会田財様以外の生体を感知」
パネルは古森の掌を下から上へスキャンをすると、機械的な音声を発した。
「エラー? 生体認証? んだそりゃ?」
「えーっと、確かドラマとかで使われてたような……何かこう、掌を重ねるとその情報を読み取って鍵の代わりにするみたいな奴だったと思います」
「それで正解っス、問題は何でその生体認証がこんなとこにあるかなんスが……」
「おっ、ってことはもしかしてこの奥に会田ってヤローが何か隠してるんじゃねえか?」
「それだ、それっスよ! こんなあからさまなセキュリティをするなんて普通はそうとしか考えられないっス!」
右手で銃の構えをしながら、晶を指差す古森。
それを受け、若干引きながら頷く晶と壁を見る誠と花。
「ふむ……いや、この奥よもや──」
「認証失敗から二分経過。 生体認証が再度開始されませんでした、セキュリティモードを起動します」
「え?」
「ん?」
「は?」
壁を見ながら、アモンが次の言葉を紡ぐよりも先にパネルがそう音声を発した。
すると地鳴りと揺れが室内全体に発生し、誠達の左右にある肉の壁が小さく何個も開いていく。
小さな壁が開き切ると、中には以前誠達が畑で倒した巨大なバッタが無数に現れる。
「げっ……マジか!?」
「す、凄い数です! 囲まれちゃいます先輩!
「全員撤退、死ぬ気で入り口まで戻るんだ! 古森さんは俺の背中に、早く!!」
「りょ、りょっス!」
バッタ達を確認すると、誠は即座に撤退の判断を下し一行は全速力で駆け出した。
道中通ってきた道には道しるべとして誠が炎を撒いており、彼らは迷うことなく一目散に最初に着地した地点へ到着する。
「ぜぇ……ぜぇ……と、とりあえずここまでは無事に戻れたか……」
「で、でも……ここ、また登るんですよね……?」
「お、俺の炎の矢で全員を引っ張って登るしか……無いか……」
全員が肩で息をしながら、その高く聳える肉の壁を見上げていた。
落下時間から考えて、恐らくかなりの高さがあるであろう壁を見て花は不安そうな表情を見せる。
「いや待て、上から新手が来るぞ! 全員避けろ!」
「ちっ!」
「きゃーっ!」
「うわっ!」
壁際に居た誠達の頭上から、巨大なバッタが落下してきた。
全員がギリギリで回避をするが、その際古森は腕の力が耐え切れずバッタの近くに振り落とされてしまう。
「古森さん!」
「あわわわわ……や、ヤバイっス……」
バッタは触覚を動かし、近くに居る古森へ見つけると彼の方へ振り向いた。
「くそっ、間に合うか……!?」
誠達は急いでバッタへ攻撃を行おうとするが、それよりも早くバッタの足が古森を踏みつぶそうとする。
「うわぁぁぁぁ!」
古森は咄嗟に顔を両手で覆うが、彼の頭は直ぐに踏み潰された。
「古森さん!!」
「GIIII!!」
かに見えた。
だが、古森に触れた瞬間バッタは全身を痙攣させると急に大人しくなり古森に触れていた足を退かすとゆっくりと後方へ下がった。
「あ、あれ…………? 自分、い、生きてるっスか……?」
「大丈夫か古森!」
「古森先輩、生きてますか!? 怪我してませんか!?」
「だ、大丈夫……っス、多分……」
ゆっくりと後退したバッタと古森の間に誠、晶、花の三人が入る。
武器を構えながら、古森を気遣う三人に対してバッタはゆっくりと後ろを向くと足を折りたたむと地面に座り込んだ。
「あん、なんだ……?」
「きゅ、急に大人しくなりましたね……」
「古森さん、何かしたんですか?」
「わ、わからないっス、頭を踏みつぶされたと思ったら急に自分と相手の体が痺れて……」
「よくわからんが、脱出するなら今が好機だ! これ以上敵の援軍が来る前に脱出するぞ!」
アモンの言葉に全員が頷くと、誠は再び古森を背負い直すと誠は左手で炎の矢を壁に打ち込む。
そして右手に晶、晶の手に花の手を繋いだ状態で炎の矢をリールの要領で巻き上げ、壁を無理やり登っていく。
「お、重い……腕が千切れる……!」
「気合だ気合! 帰ったら飯奢ってやっから!」
「か、帰ったら私もダイエットします!」
「今は君だけが頼りっス、頼むっス!」
「う、うおおおおお!!」
そして、誠は今日一番の気合を見せながら地上へ脱出し一行は現実へと帰還するのだった。
待たせたな!アリーナオープンは初日5-3でした…おつらぁい
因みに今週は更新がかなり厳しいので恐らく来週更新になると思います、申し訳ない




