ヘカトンケイル
2026年 6月22日 月曜日 20:48
「ぐぉっ!」
異界。
地面に散らばった硬貨の上に、晶の体が勢いよく叩きつけられる。
物理的な衝撃に対して強い彼女だが、右足を掴まれたまま何度も何度も地面に叩きつけられるのは不愉快でたまらなかった。
「クイーン先輩!」
赤子が人形を地面に叩きつけるように無造作に扱われる晶を見て、花は即座に巨人の側面から攻撃を行う。
四本の腕に持った兵器を用い、鉛玉と爆発物の嵐がヘカトンケイルを襲う。
だが……。
「がはははは! 効かねえなぁ!」
攻撃を受けても尚、5メートルを超える巨躯は揺るがない。
ゆっくりと巨人は花の方へ向き直ると、勢いよく彼女へ晶を放り投げた。
「せ、せんぱ……きゃぁっ!」
高速で飛んでくる晶を、花は受け止めようとするが堪え切れずに壁へと吹き飛び激突した。
頭を強く打ったのか、花は壁にもたれ掛る様に力無く座り込み、晶も振り回され過ぎたせいで平衡感覚を失っていた。
「クイーン、ルーク!」
「オレ様を前にしてよそ見とは良い度胸だなぁ!」
「ちっ!」
二人に気を取られていた隙に、その巨躯には見合わないスピードでヘカトンケイルが突撃していた。
誠はそれをすんでの所で回避しながら、すれ違いざまに脇腹へ炎を叩き込む。
炎は巨人の体を焼き、それでもその体力を多少削るだけの役割しか果たせない。
「何てタフさだ、今まで戦ってきたどの悪魔よりも強い……!」
「このオレ様をそんじょそこらの雑魚どもと一緒にされちゃあ困る、オレ様は超絶つえーのよ!」
「なら、何故そんなに強い悪魔がこんな場所に居る?」
誠は、肩で息をしながら時間稼ぎと情報収集の為の会話を始めた。
「あぁん? そんなことはオレ様はしらねーなぁ、マスターにここを守れと言われたから契約上仕方なく付き従っているだけよ」
「マスター?」
「そうよ、オレ様を組み伏せた化け物の様な女よ。 タイマンで負けたんなら舎弟になるのが漢ってもんだろう」
「タイマンで……? 女性が、勝った?」
ヘカトンケイルから出た言葉に、誠はとても信じられないと言った顔をした。
魔人となり、一定の強さを手に入れたと思っていた誠だが目の前の巨人は自らよりも強く、そしてその更に上の強さを持つ人間の存在を示唆されては驚く他は無かった。
「がはは、信じられねぇって顔だな。 オレ様も信じられないが負けて使役されてる以上はこいつが真実よ」
「……その女は会田の仲間なのか?」
「さぁな、そういう事はマスターに直接会って聞いてくれや。 そろそろてめぇも休憩は済んだだろう、第二ラウンドと行こうぜ!」
ヘカトンケイルはゆっくりと誠へ振り向くと、両足に力を籠め大きく跳躍する。
天井付近まで飛び上がると、今度は物凄い勢いで誠へ向かって落下していく。
「避けろキング、まともにやりあっていては勝ち目はない!」
「くっ、ならどうすれば……」
誠は後方へ向かって炎の矢を飛ばすと、それを壁に突き刺しリールの要領で巻き、自らを矢の突き刺さった場所まで高速で移動させる。
それによってヘカトンケイルの踏みつけを回避したが、即座に誠へ向かって突進を開始する巨人への対抗策を誠は決めあぐねていた。
誠の視界には高速で迫ってくる巨人と、その奥の物陰から見ている古森が見える。
「キング、何をしている! 回避に徹しろ!」
「アモンに言われなくても……!」
「がはははは、逃げてるだけでオレ様に勝てるのかぁ!?」
ヘカトンケイルの両腕が地面に叩きつけられ、硬貨が高速で飛び散る。
それは誠の皮膚へ散弾の様に当たり、回避をしていてもなお彼にダメージを与える。
「火炎銃!」
だが、散弾の様な硬貨で傷を負いながらも誠は右手に怒りを込め、炎に変えてそれを放つ。
直線的にレーザーの様に炎が飛ぶと、ヘカトンケイルの顔面の途中までにある物質を全て蒸発させながら巨人に直撃した。
「うぉぉぉ、あ、熱いぃぃ!!」
「物理的な攻撃は効かなくても、炎は効くようだな……!」
無数にある顔の一つに熱線が直撃すると、他の顔から苦悶の声が響き渡った。
ヘカトンケイルは熱線を腕で防御し、その場から避けようとするが……。
「な、なんだ、足が動かねぇ!?」
「へへへっ……逃がすかよ!」
「はい、逃がしません!」
いつの間にか復活していた晶と花が、ヘカトンケイルの両足を力ずくで抑えていた。
「なにぃ!? て、てめぇらぁ!」
「やっちまえキング! お、抑えるのも結構つれぇ!」
「は、速めに倒してください~!」
「……あぁ!」
二人を無理やり力ずくで振りほどこうとするヘカトンケイルに、誠は真っすぐに伸ばした右腕へ更に強い怒りを込めた。
熱線が、ホースから強い水が吐き出されるように勢いよく右腕から放たれる。
それは防御していたヘカトンケイルの腕を一瞬にして溶かしつくし、無防備な顔面を露出させた。
「さよならだ!」
「マ、マスターミネ……契約を果たせずに逝くオレをお許しください!」
熱線が、巨人の顔面を貫いた。
人間で言う所の頭部があった場所を完全に蒸発され、5メートルを超える巨人はそのまま前のめりになって倒れると塵となって消滅した。
「はぁ……はぁ……手強い、敵だった………」
誠は地面に右手を着くと、大きく息を吐いた。
そして先ほどまでヘカトンケイルの足を抑えていた二人の無事な姿を見て、笑った。
「へっ……最初からあれで決めておけよ」
「つ、疲れましたぁ~……」
花と晶も、肩で息をしながら誠の笑顔を見て安堵の表情を返す。
「す、凄い戦いだったっス……」
そんな三人の戦いを物陰から見ていた古森は、腰を抜かして尻もちをついていた。
常人であれば100回以上は命を散らされているであろう戦いに恐れなく挑む誠達を見て、改めて彼等に対する考えが少し変わるのを古森は感じ始めていた。
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「いやぁ会田頭取、今日もお疲れ様でした」
誠達がヘカトンケイルを倒したのと同じ頃。
料亭の豪華な個室で、年相応に頭皮が薄くなったスーツ姿の男が向かいの男へ酌をする。
真向かいに座り、たった今会田と呼ばれた男こそ現在誠達が追っている男……会田財その人だった。
「最近は貧乏人どもからの土地の回収作業も順調ですし、我々帝国銀行の未来も明るいですな!」
「それもこれも運命会のお蔭です。 大門司様には頭が上がりませんね」
「いやいや全くですな! では運命会と今後の我々の将来に乾杯と行きましょうか!」
「えぇ、乾杯」
二人は日本酒の入った盃で乾杯をすると、一気にそれを飲み干した。
「しかし本当に最近は何もかもが上手くいきますなぁ、高騰予定地の買い占めに競合他社の陥れ……それに株価の操作もですかな?」
「邪魔者の排除も忘れてますよ専務」
「おっと、これは失礼しました、はははは!」
二人は邪悪な笑みを浮かべて笑いあうと、目の前の机に置かれた豪勢な料理に手を付け始める。
「それにしても頭取、運命会も事業も順調ですが……あの女の件は災難でしたな」
「女……? あぁ、色山の事ですか」
豪勢な懐石料理に箸を付けながら、会田は専務の言葉を聞き暫し逡巡した。
そして、それが誰かを思い出すと料理を口に運ぶ。
「馬鹿な女でしたね彼女も、教祖様に折角拾っていただいたのにそれを自ら捨てるとは」
「全くです、しかし気になることもあります。 あんなに教祖である大門司様を慕っていたのに突然自ら罪の告白を行うなんて……」
「確かにそれは気になります、渋谷にあったカテドラルも消滅していましたし……」
「や、やはり何者かが侵入して……?」
ふむ、と声を漏らしながら会田は食事の手を止めた。
「その可能性は高いでしょうね、何となくの検討は付いていますが」
「デアデビルとか言う連中ですか? あの女に対して予告状を出していたとは聞いていますが本当なのでしょうか」
「その連中に関しては未だに情報が掴めていませんから何とも言えませんが、専務は何か別のお考えがおありで?」
「えぇ、私としてはやはりあの峰とか言う女が怪しいのではないかと」
「峰がですか? 確かに彼女は優秀な悪魔使いですが我々に恨みを持つような素振りは無いように思えますが?」
会田の問い掛けに専務は首を横に振る。
「いやいや、あの女は突然我々の前に金さえ払えば何でもやると言って現れたどこの馬の骨とも知れぬ女……今回の件もどこかから金を受け取ってやったと考えれば辻褄が合います」
「辻褄は合うでしょうが、そんな大それたことをした上で我々にまだ雇われたままでいるでしょうか」
「それは……そうだ、次は会田頭取を狙っているとかで……!」
「確かに彼女にはカテドラルの警護を依頼していますが、私以外にも彼女の悪魔をカテドラルの警護に使っている人物は居ますよ」
「では、やはり我々に上手く取り入って内部から崩す作戦なのでは……?」
不安そうに言う専務を、会田は笑い飛ばす。
「ははは、心配性ですね専務。 ですが心配には及びません、彼女には我々を裏切れない理由があるのですよ」
「理由、ですか?」
「えぇ、彼女が我々の前に姿を現した理由も含めてね……何も心配する事はありません、仮に件の連中が私のカテドラルに侵入していたとしても直ぐに死ぬことになるでしょう」
「なるほど……やはり会田頭取には深謀遠慮がおありのようで、いやはや感服いたしました」
「さ、そうと分かれば呑み直しましょう。 夜はまだまだ始まったばかりです」
会田はそう言うと、徳利を持ち上げ専務の盃へ日本酒を注いだ。
「そう……私のカテドラルは絶対に攻略不可能なのです……」
ニヤリと、黒い笑みを漏らしながら。
次の更新は日曜を予定していますがもしかしたらMTGの大会に出てて書けないかも…負けたら書きます
【閼伽井 誠 ステータス】
Lv21 HP214 SP108
物理 銃撃 火炎 冷気 電撃 疾風 神聖 呪殺
─ ─ 無 弱 ─ ─ 耐 ─




