諍い
2026年 6月19日 金曜日 19:28
「脅迫されただぁ!?」
品川、誠の自宅にある異界ワイン室に晶の怒号が木霊する。
晶の真横に居た花は彼女の怒りの形相に身を竦めた。
「テメェ、その脅しに乗ってすごすご引き下がってきたってのか!? それでも男か!」
「……なら男らしく力ずくで相手を捕まえればよかったって言うのか?」
「ったりめえじゃねえか、侮辱た真似をされたら即やり返すのは当たり前だ!」
「晶……俺達はヤクザでも何でもない、誰かを助けるために行動してるんだ。 君の言う様な事は出来ない」
「だったらどうすんだよ誠、このままそのヒキコモリだか何だかいう奴の言う事聞かされるってのかよ!」
誠は毅然とした態度で、机に両手を叩きつけながら怒る晶に対応する。
だが最後の言葉を聞き、誠は答えを言い淀む。
「それは……まだ考えてない」
「ちっ、ならやっぱり今からそいつをひっ掴まえて……」
「ま、待ってください玖珂先輩! まだ古森さんが悪い人って決まった訳じゃ……」
「アタシ等脅してくる段階でまともな奴じゃねえだろ! それにそいつの言う事聞いても野郎がデータを消さなかった場合はどうすんだよ」
「そ、それは……消してくれるようにお願いするとか?」
「はぁ……そんなんで消してくれるようならそもそもアタシ等脅さねえだろ」
どんどん怒りのボルテージが上がっていく晶は、一人で古森を捕まえようと席を立つ。
だが花は彼女の前に立ち宥める。
それを聞き、呆れた表情をする晶はため息を吐きながら再び席に着いた。
「分かった、ちょっと頭に血が昇り過ぎた。 悪かったよ」
「いや、そもそも俺がもっとしっかりしていれば……こっちこそごめん」
「ふ、二人とも悪くないですよ! 古森さんもきっと何か事情があってこういう頼り方しか出来ないだけで、ほんとは良い人ですよ!」
「お前のその自信は何処から出てくるのか……ともかく今回集まってもらったのはこの状況を把握し、打開するためだ」
机の上で、今まで黙っていたアモンが口を開くと三人の視線が真っ赤なフクロウに集中する。
「まずは改めての説明になるが、現在古森大洋という男に我々が渋谷代々木公園から姿を消し、そして色山ビル周辺から現れる瞬間のデータを握られている」
「確か……消える瞬間を公園で目撃して出てくるところは渋谷の防犯カメラからデータ盗んだとか言ってたんだよな?」
「あぁ、監視カメラのデータは警視庁が基本的には管理している筈だ、そこから盗んだんだと思う」
「という事は……古森さんはパソコンを扱うのが凄い上手ってことですか?」
頬に指を当て、視線を真上に向けて思案しながら花はそう呟いた。
「その可能性は高い、つまり今後街中の防犯カメラが奴の目となる可能性があるということだ」
「ま、その場合は異界を通ればいいから別に良いけどな」
「そうですね、それで次はえっと……データをネットにばら撒かれたくなかったら古森さんの指示に従え、でしたっけ?」
「うん、指示は追ってあの人から送られてくるらしい」
「ってことはもしかしたら、今実は連絡来てるけどガン無視してるってなってたりするのかもな」
ケケケ、と意地悪そうに晶は笑った。
「こちらの世界では機械類は動かんからな、当然そうなっている可能性もある」
「あれ、でもこの間閼伽井先輩の携帯は動いてましたよね?」
「う~ん……実は今もたまに動いたりするんだけど、よくわからないんだよね」
「ま、気にするだけ無駄だな、それこそ機械に強いヤロウに聞いてみてもいいんじゃねえの」
と、晶は古森を引き合いに出した。
誠はそれを聞き、少し考えると頷く。
「あぁ、余裕があれば聞いてみるよ」
「とりあえず状況としては奴からの指示待ちだな、そして今後我々がどうするかだが……」
「そのコモリってヤローを取っ掴まえてぶん殴る」
「晶……」
「じゃあ実際どうすんだよ、まさか黙って言う事聞くってのか?」
晶はムスっとした表情のまま、腕を組んだ。
どうやら古森に脅迫されたことが、心の底から不愉快らしい。
「正直、現状はそれしかないと俺は思ってる」
「本気か? 相手はこっちの力知ってんだろ、下手したら犯罪の片棒を担がせられるかもしれねえんだぞ?」
「確かにな、例えば貶めたい誰かの認知を変えてそいつを自殺するように仕向けろと言われた場合は世間が気づいていないだけで我々が殺したのと同じ事だ」
「私、犯罪をするのは嫌です閼伽井先輩……」
アモンの例え話に、晶と花の表情が暗くなる。
「もちろん犯罪の片棒を担ぐつもりは無いよ、そういう提案の場合は断る。 けどその時は……」
「アタシ等でそいつを捕まえるしかねえ」
「はい、悪いことをしようとしてるなら逆に捕まえて説得しましょう!」
「説得で済めばいいがな、最悪は奴の認知の改竄……つまり改心を行う事も視野に入れておけ」
アモンの言葉を聞き、三人は一斉に視線を向けた。
「アモン、それは……」
「やり過ぎだ等と言える状況ではあるまい、恐らく色山と繋がっていた警察は血眼になって我々を探しているだろう」
「で、でも古森さんは動画を警察じゃなくてネットに流すって……」
「愚か者め、ネットに流せば当然警察の目にも入る。 その後がどうなるかはお前達にもわかるだろう」
そう言われ、三人は自分たちの動画がネットで公開された後の事を想像する。
各々の家に警察が踏み込み、自分たちは逮捕され……最悪秘密裏に葬られる事になる未来を。
その未来を想像して、三人はごくりと喉を鳴らした。
「…………」
「我としてもお前達が捕まるのは本意ではない、生き残るためには止むを得ない行為だ」
「けどまだ何も犯罪をしていない相手に改心は……」
「甘ったれた事を抜かすな! それともお前の父の真相を追うという覚悟はその程度で揺らぐものだったのか?」
最悪の未来を想像して尚、躊躇を見せる誠にアモンの叱咤が飛んだ。
「それ、は……」
「よく考えておくことだ、その時にお前が躊躇すれば最悪此処に居る全員が死ぬことになるのだからな」
「ま、まぁまぁ! そんなことにはならないですよ! ……きっと」
険悪な雰囲気を感じ取り、花が無理やり二人の仲裁に入る。
だが彼女もまた不安を隠しきれず、言葉の節々からそれを感じさせた。
「ハナの言う通りだと良いがな、奴の狙いが今一予測できん」
「確かアタシ等に出来る事聞いてきたんだったか? 後は異界に物を運び込めるのかとか……」
「そうだ、そこから考えられることは……例えば何かを異界に隠すということか」
「何かってなんだよ」
「さあな、だがやろうと思えば盗んだ金品でも人間でも隠すことはできる、それこそ死体でもな」
アモンの言葉で、再び場の雰囲気が暗くなった。
古森のやろうとしている事の予測をしようとすればするほど、悪い方向に想像が加速していく。
「……とりあえず、今日はここまでにしておこうぜ。 まずはヤローの出方を伺って、こっちに犯罪をさせようとしてるんならとっちめる……それでいいんだな誠?」
「あぁ、それで大丈夫」
「だとよ、さぁ帰ろうぜ山城」
「うっ、あの……分かりました……」
花は晶の言葉を聞き、アモンと誠、そして晶の三人を交互に見る。
このまま帰っても大丈夫なのかどうかを彼女は考え、そして少しの間を置いて頷いた。
「さぁ、二人を送って行ってやれマコト」
「……分かった、行ってくるよ」
ほんの少しの気まずさを感じさせながら、二人は言葉を交わす。
そしてアモンを置いたまま、誠は花と晶の二人を見送りに部屋を出た。
「やれやれ……リーダーとしての自覚が出てきたと思ったが、まだまだ教えることがありそうだ」
来週は多分水曜か木曜にあげられると思います、予定は未定です
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