新たな力
2026年 6月13日 土曜日 17:30
陽が落ち始め、東京は夕焼けに包まれ始めていた。
そんな中で、誠達は先ほどまでアルバイトをしていた畑の人目につかない外れに立っていた。
「それじゃあ皆、準備は良い?」
昼の休憩中、アモンの言葉によりバイト先の畑を荒らしていたバッタが悪魔であることが判明する。
しかしそれを知ったところで、昼間のそれも人目のあるところで魔人となるわけにもいかず業務終了時間まで無限に増え続けるバッタ退治を行う事となった。
当然、誠達が必死に網を振るってバッタを粉砕機にくべたところで焼石に水でしかなく……結局畑はバッタの群れに蹂躙され、雇い主である農家は悲嘆にくれてしまう。
「農家さんは役に立てなかった俺達にきちんとアルバイト代をくれたけど……悪魔が絡んでいる事件ならここは俺達の出番だ」
「おっさん、大分悲しんでたからな……アタシ等でしっかり助けてやろうぜ」
「困っている人を助けるのは当然です、皆で頑張りましょう!」
「我も異論はない、元より本来の目的に立ち返るだけのこと」
誠の言葉に二人と一匹は頷くと、周囲を確認しアモンが午後の作業中に発見していた異界への穴を通り現実から消えた。
数秒後、現実の裏側である異界に魔人となって足を踏み入れた誠達は本日二度目のげんなりした表情を見せる。
「うわ……」
「あぁ、マジかよ……」
「よ、予想はしてましたけど……」
現実では無人の荒れ果てた畑が、異界では田畑を食い荒らしたバッタの群れで溢れかえっていた。
それは昼間に対峙した数よりも多く、それらのバッタ達は侵入してきた誠達へ一斉に顔を向ける。
「気づかれたな、バッタ型の雑魚悪魔共とはいえ油断はするなよお前達」
「へっ、誰に言ってやがるアモン! アタシは天下無敵のクイーン様だぜ!」
「その後輩、ルークもお供します!」
「やれやれ、キングしっかりフォローしてやれよ」
「ははは……それじゃ行こうか!」
張り切る二人を見て、アモンは誠へ忠告を行う。
誠はそれを聞いて苦笑いを浮かべながら、右手の指を鳴らした。
パァン、と小気味よい音を響かせると同時に密集していたバッタ達の足元から小さな火柱が幾つか上がった。
バッタ達は立ち昇る業火に焼かれながら、誠達へ向かって突進してくる。
「凄いな、前より確実に力が増している……」
「シキヤマの件で世間へのお前の認知度が増したせいだろう、我としてはこの程度の力では全く物足りんがな」
火柱を発生させた誠は、自身の力に少し驚いた。
この異界に入った時から力の漲りを感じてはいたが、実際にその力を行使して改めてその凄まじさに感心する。
だがそんな誠の驚きすら、アモンは至極当然のことであると受け流す。
「あいつ、いつの間にあんな芸当を……ちっ、負けてられっかよ!」
バッタと誠達の距離はおよそ100メートル程であり、今までの誠の射程距離は精々が20メートルと言う所だった。
ところが今回、いきなり誠がこれまでの五倍の距離に、しかも今までの比ではない威力の火柱を起こした事で晶の闘争心に火が付いた。
「だぁぁらぁぁ!」
両手で力いっぱい、目の前の地面を釘バットで叩くとその衝撃で地中の小石や割れた地面の一部が空中に浮きあがる。
晶はそれを視認すると左に一回転しながらバットで打ち付け、燃えながら迫るバッタへ向けて発射した。
小石や土塊はショットガンの弾丸の様に飛散し、バッタ達をミンチへと変えていく。
「わぁ……先輩達、流石です! よーし、私もやりますよー!」
奮起した晶やパワーアップした誠を見て、テンションを上げた花は四本の腕で構えた銃器を発射する。
銃器から発射される無数の弾丸や弾頭は異界に白煙の軌跡を残し、バッタ達を砕く。
「や、やりました!」
着弾を確認し、ぱらぱらと地面にバッタの残骸が落下していくのを見て花はガッツポーズを取る。
だが誠は警戒を緩めず、バッタの群れを注視していた。
「いや……まだだ」
「え? きゃっ!」
群れは誠達の眼前すれすれを通って真上へ上昇していく。
そしてそのままバッタ達は寄り集まり、巨大なバッタへと姿を変えた。
「やべぇ、落ちてくるぞ!」
「皆、離れるんだ!」
「あ、あわわ……」
「ルーク!」
群れは大型トラック並みの巨大なバッタへと変貌し、そのまま誠達を押しつぶそうと落下してくる。
それを確認した誠は全員に号令を出すが、花は体が強張り動けなくなる。
誠は直ぐに花を捕まえると、間一髪のところで彼女を助け出した。
「ルーク、大丈夫?」
「す、すみません……キング先輩」
「君が無事ならそれでいい、さぁ構えて!」
「は、はい!」
誠は彼女の無事を確認すると、直ぐに拳を構えバッタを見た。
巨大バッタは茶色の甲殻に鬼の様な顔を持ち、頭部部分には二本の触覚の他に殿様の様なちょんまげが結わえられている。
「GIIIIIIII!!」
「なるほど、こっちが本体って訳か」
「へっ、ぶっ壊し甲斐のありそうなデカさじゃねえか!」
「それに偉そうに髷を結っているのも不愉快だな、どちらの方が王として格が上か思い知らせてやるべきだな」
「あぁ……そうしよう! クイーンと俺で接近して攻撃する、ルークは後方から援護を!」
バッタを見て、不愉快そうに呟くアモンに誠は頷き再び全員に号令を出す。
「あいよ、昼間に無駄に働かせてもらった礼を返してやるぜ!」
「わ……分かりました!」
号令の返事を聞くや否や、誠と晶は同時に地面を蹴りバッタの顔面へ向けて拳と釘バットを叩きつける。
だが……。
「ぐっ、これは……」
「かってぇ!」
二人の攻撃は強固な甲殻に弾かれることとなる、衝撃を加えた瞬間逆に弾き返される。
「GIGII!!」
巨大バッタはそれを見て、好機と捉えると二人へ向かって体当たりを行おうとする。
「させません!」
だが横合いからの花の攻撃によって、巨大バッタは攻撃を妨害される。
その間に二人は体勢を崩しながら地面に着地した。
「愚か者め、あの量の悪魔が合体しているのだ硬さも並みではないぞ」
「へっ、だったら並みじゃねえ攻撃でぶち割ればいいんだろぉ!」
「クイーン!?」
攻撃を弾かれたことが気に障ったのか、晶はより一層の凶暴性を見せる。
犬歯をむき出しにし、両足に力を籠めると弾丸の様に地面を蹴り巨大バッタへ向け跳躍した。
「ずおおらぁ!」
今度は先ほどの様に片手ではなく、両手で釘バットを握って正面から叩きつける。
攻撃が直撃すると巨大バッタの頭部が前のめりに少し沈み込んだ。
だが巨大バッタはちょんまげを上下に動かすと攻撃を弾き返し、空中に居る晶へ体当たりを行い吹き飛ばす。
晶が攻撃している間も花の攻撃は続いていたが、こちらもやはり強固な甲殻に阻まれていた。
「ちぃっ、まだまだぁ!」
吹き飛ばされ、晶は地面に叩きつけられるが直ぐに起き上がると再び巨大バッタへ走りかかる。
巨大バッタは彼女の行動を察知すると触覚を動かし、そちらを向いた。
「効果的な連携も何もあったものではないな、だがそれは後回しだ。 今はあの甲殻をどう切り崩すかだが」
「……なぁアモン、気づいたか? 攻撃が当たる度にあのちょんまげが動いているの」
晶と花、そしてバッタとの戦いを距離を取って観察していた誠は彼女たちの攻撃が当たる度にバッタの頭部についた三本目の触覚ともいうべきちょんまげが動いているのを発見する。
「そうか……恐らくあの髷は先ほど合体した無数のウィンプ共を統括するためのアンテナなのだ、攻撃が当たる度にその部位のウィンプ共に硬化しろと指示を出しているのだろう」
「つまり、あれを破壊すれば……」
「奴は統率を保てなくなり、自ずと瓦解するだろう」
「そうと分かれば……!」
観察とアモンとの相談により、バッタの頭頂部にあるちょんまげが弱点であることを見抜いた誠は駆け出すと晶と花へ向かって叫んだ。
「奴の弱点が分かった、二人とも援護してくれ!」
「へっ、見つけるのがおせぇんだよ!」
「よ、よくわからないですけど打ちまくります!」
「GIIGII?」
誠の掛け声に二人は戦いながら返事をし、同時に巨大バッタも近寄ってくる彼に気づく。
触覚を動かし、誠の方へ振り向こうとするが……其の挙動は直ぐに晶と花の真横からの攻撃で妨害されることとなる。
強烈な一撃を横合いから叩きつけ弾き飛ばされるが、晶が復帰するまでの間を花が射撃で補う。
「よし、これなら……炎の矢!」
誠は二人に気を取られている巨大バッタのちょんまげへ炎の矢を放つとそれを巻き付け、頭頂部目掛けて跳躍した。
その跳躍は高く、誠にはバッタの全体が良く見えた。
誠はちょんまげに向かい、拳を握ったまま右手を突き出した。
「火炎銃……!」
拳の前に、握りこぶし二つ分程の火球が現れた。
誠はその拳を思いっきり後ろに引くと、勢いよく突き出した。
火球は拳に突かれ、火炎の奔流となり怒涛の勢いでバッタのちょんまげへ到達する。
「GI……? GI、GIGYAAAAAA!!」
真上に飛び上がった誠に気づいた巨大バッタは数瞬遅れて、彼を見た。
その瞬間、頭頂部は炎に包まれ絶叫を上げる。
炎によってちょんまげは即座に焼失し、バッタ同士の結合が解けた部分から炎が侵食していく。
結果、誠の放った炎は光線の様に一直線に巨大バッタを貫く形となった。
「どうやら、王としては俺の方が一枚上手だったみたいだな」
炎に包まれ、黒い煙を出しながら消えていくバッタを見て誠はそう呟きながら着地した。
「戦闘終了だ、皆お疲れ様」
そして、左腕で右腕を払いながら晶と花の二人へ向かって笑顔で言う。
「お、おぉ……キング、お前かなり強くなってねえか……?」
「そうです、凄いですよ先輩! それに比べて私……」
「あぁ、この間の事件で世間からの認知度が増したせいだと思う。 正直自分でも驚いてるよ、こんなに強くなるなんて」
駆け寄ってきた二人は、誠に対して称賛の言葉を向ける。
花の言葉は途中最後まで聞き取れなかったが、誠は二人に向かって照れながら笑顔で返した。
「アタシも負けてらんねーな、また今度特訓付き合えよキング」
「あぁ、その時はよろしくクイーン」
「歓談はそこまでにしておけ、ウィンプ共の死骸の中に何か落ちているぞキング」
誠の胸に軽く拳を当てると、晶は朗らかに言った。
二人は花が少し気落ちした表情を見せていることに気づかないまま、アモンが言った方へ目を向けた。
火炎によって燃え尽きたバッタ達の死骸、その中心部には小さな金色の冠が落ちていた。
誠はそれを拾い上げ、まじまじと見つめる。
「……何だろう、これ」
「んだそりゃ、玩具じゃねえのか?」
「う~ん、アクセサリーですかね?」
「さてな、議論をしたいのは山々だがこの異界も直ぐに消滅するようだ、調査は後日でいいだろう」
「そうしようか、さぁ皆、人目の付かない場所まで走ろう!」
その小さな冠には蠍と羽が描かれており、三人は不思議そうな顔をする。
だが王冠を拾い上げると異界は直ぐに揺らぎ始め、三人は急いで入り口まで走り……そのまま帰宅することになった。
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そして、その日の夕方。
誠と晶の二人と別れた花は、暗い顔で帰宅した。
「はぁ……ただいま、おばあちゃん」
自宅であるマンションの扉を開け、真っ暗な部屋に帰宅を告げる。
今までであれば、花の祖母が家で日常の疲れを癒している所だが……色山事件が起きてから彼女の祖母は世間を奔走する事となっていた。
「って、おばあちゃん居ないんだった……はぁ……」
そんな、今までとは違う自宅に戻ってくると花は再び溜息を吐いた。
「私、先輩たちのお役に立ててるのかな……この間も今回も助けてもらっちゃって……」
彼女が思い返すのは今日の事。
頑張ると意気込んではみたものの、巨大バッタから襲われた際に思わず足が竦み誠に助けてもらっていた。
花はそんな自分が二人の先輩の役に立てるのか、足を引っ張らないかと今日の帰りの間ずっと悩んでいた。
「ううん、悩んでちゃダメよ山城花! 私は先輩たちのお役に立つって決めたんだから!」
顔を横に数回振ると、花は玄関で電気もつけず大声を出して自らの両頬を両手で叩いた。
彼女の頬は真っ赤に腫れ上がり、痛みでじんわりと涙が滲んだのと同じ頃に彼女の携帯電話が鳴った。
「あ、おばあちゃんかな……って閼伽井先輩? あの、もしもし山城です!」
着信通知の相手を見て、花は首を傾げながら電話に出た。
「はい、いえ今日はその……ご迷惑おかけしてすみませんでした! って……明日ですか? はい、予定は空いてますけど……」
「なら明日──」
「そ、そんな先輩にご迷惑じゃ……いえ、そんな! 私は全然迷惑じゃないです! はい、わかりました、それじゃあ明日……!」
そう言って携帯電話を切ると、花は満面の笑みを見せた。
「ま、まさかいきなり先輩からデートに誘われるなんて……あ、あわわ……ちゃんとサイズの合う服あったかな!?」
花は手を震わせながら、携帯電話をポケットにしまうと急いで靴を脱いで部屋の奥へ駆けていくのであった。
年末はどうして忙しいんだろうね……遅れてすまない……
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