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モンストルム・デアデビル  作者: にっしー
福徳の華編
20/108

アイドル失踪事件

2026年 5月1日 金曜日 16;05


「え、えぇっと……それじゃあ新聞部の月初会議を始めますけ、ど……」


 品川、都立麗園学園。

 授業棟とは真逆に位置する部室棟、新聞部の部室で部長の岸田が小さく声を発し部員の二人を交互に見た。


「はい、お願いします部長」


「ちっ」


「ひぃぃぃぃ……!」


 椅子に座りながら部長へ軽く頭を下げる誠と机の上で丸まっているアモン。

 そして誠の真向かいで頬杖を突きながら出口の方を向きながら軽く舌打ちをする晶を見て、小柄な岸田がより小さく委縮した。


「晶、昨日も言ったけどこれは──」


「全部言わなくても分かってる……ったく、付き合えばいんだろ!」


 文句たらたらといった表情の晶へ、誠が顔を向ける。

 誠に見つめられ、晶は観念したかのように両手を上げて降参のポーズを取った。


「ありがとう晶、そしてすみませんでした部長、進めてもらって大丈夫です」


「う、うん……分かりました、本当は一人足りてませんけど始めますね……ご、ごほん」


 部室の一番奥に座っている岸田は、誠の言葉を受けて咳ばらいをした。


「まずは改めてわたしの自己紹介から……新聞部部長、麗園学年3年生の岸田本子です。 二人とも新聞部へ……よ、よーこそー!」


 岸田は足元に置いてあった鞄から小さなクラッカーを取り出すと、それと思いっきり引っ張った。

 パァン、と小気味の良い音が部室に響き渡る。


「………………はぁ?」


「よよよよよーこそー……」


 晶の本気の呆れた顔を見て、岸田の顔にどんどん汗が流れ始める。

 そして額に大量の汗を浮かべながら、鞄からもう一つのクラッカーを取り出す。


「わ、わーい、歓迎してくれてうれしいなー」


「わっ、ほんと? だったらわたしも嬉しいかも!」


「やべぇ、これから先が滅茶苦茶不安になってきた……」


「Zzz……」


 歓迎のクラッカー二発目を防ぐために、誠は棒読み気味で諸手を挙げて喜んだふりをする。

 そんな誠の反応を見て、岸田は喜びの表情を見せる。

 そして、二人を見て溜息を吐く晶と眠り続けるアモンであった。


「えっと、それじゃあ私の自己紹介も終わった所で新聞部会議なんだけれど……今月も先月と同じくオカルトを追っていこうと思っているの」


「オカルトねぇ……どっかの不良の記事はもう書かないのかよ?」


「あ、あれはその……すみませんでした、部長になって一発目の新聞だったので飛ばした記事にしたくて……」


「まぁ、いいけどよ……にしてもオカルトか、トイレの花子さん位しかアタシはしらねえな」


「随分ネタが古いですね玖珂さん……でも当たってます、そのオカルトです」


 岸田は机にズイと身を乗り出し、彼女達が囲んでいる長机の中心にある一枚の写真を置いた。


「ほ~ん、結構上手く撮れてんじゃねえの? よくわかんねえけど」


「綺麗に撮れてますね、これは部長が?」


 誠と晶はその写真まで身を乗り出し、眺めた。

 写真はどこかのビル群を真下から真上へ眺めるように被写体として収めたもので、都会の街並みが美しく写っていた。


「えへへ、あ、ありがとう。 うん、実はこれわたしが撮ったんだ……」


「で、自慢するためにこの写真出したのか?」


「あ、いや、ち、違う、違うの! 見て欲しいのは写真の全体じゃなくて、ここなの」


 岸田は写真の下側を指で示した。

 ビル群の下には街を歩いている人たちが写っており、彼女の指はとある親子を示していた。


「ここって、別に普通の親子だろ? ちょっと服がエロいけど」


 岸田が示す親子は際どい服を来た高校生くらいの女子と、その女性と腕を組む彼女とは二回り以上も歳が離れていそうな男性だった。


「親子かなぁ、何か……男女のそれっぽく見えない?」


「けっ、これだから男はよ……誠もこういう女とヤりたい盛りかぁ?」


「ばっ! べ、別に俺はそういう意味で言ったわけじゃ……!」


「へっ、どーだか……前もグラビアに見惚れてたじゃねえか」


「あれはその、あれだよ……お、俺も男だし……いやでも今のは本当にそういう意味で言ったんじゃないんだって!」


 誠の言い訳に、晶は片目を瞑りながら右手をひらひらと誠へ動かした。


「はいはい言い訳ご苦労さん、んでキッシー、この親子がどうかしたのかよ」


「キッシー……ってわたし?」


「岸田だからキッシー、良いだろ別に? エロ誠なんて放っておいて、写真の話しようぜ」 


「うぅ……ちょっと反応しただけなのに……」


 いきなりあだ名で呼ばれた岸田は自らを指さし、晶はそれに頷いた。


「わ、わたしあだ名付けられたの初めてかも……あ、そ、それでこの写真なんだけど!」


「実はこの写真が援交の証拠写真とかってか? へっ、んなわけねえか」


「いえ、その……当たりです」


「え、ほんとにそういう関係の写真なんですか?」


 晶に罵られ、顔を俯けていた誠が再び顔を上げて写真を見る。

 よく見ると、男の腕に抱き着いている女性は体のラインが見えるような際どい服であり顔には化粧がしてあった。

 少なくとも親子での外出に、こんな服や化粧はしないであろうという姿である。


「はい……実はそうみたいで」


「ふ~ん、でこの写真とその今月はオカルトを追ってくって話がどう繋がんだ?」


「確かに、まさか援助交際にオカルトが使われてるとかそういう話ですか?」


「あの、うん……一から説明するね」


 岸田はそう言って、滾々と語り始めた。

 事の起こりは二か月前、彼女が新聞の記事作りの為に夜の渋谷の写真を撮っていたことから始まった。

 二時間ほど掛けて写真を撮り終え、帰宅の準備をしていたところ……。


「これだけ撮れれば大丈夫かな……? とりあえずもう遅いし、帰ろ──」


「いや、離して!」


「大人しくしろ!」


 先ほど写真に写っていた二人がもみ合っているのを岸田は発見した。

 写真では女性は仲が良さそうにしていたのに、彼女はまるで催眠術でも解けたかのように男を毛嫌いし始め逃げ出そうとする。


「ちっ、高い金出したのに雑な仕事しやがって……」


 スーツを着てはいたが、男の顔には傷が入っておりどう見てもヤクザや裏社会の筋の人間に見える。

 その男は女性ともみ合いながら、何事かを呟いた。

 すると女性は逃げ出そうとしていたのがまるで人形の様に虚脱し、虚ろな眼差しを虚空へ向けた。

 そして再び男が何かを呟くと、女性は最初と同じように男の腕に抱きつくと二人は渋谷の街へと消えて行った。


「──ということがありまして」


「そりゃ確かに怪しいな」


「でも単に痴情のもつれってことも有り得るんじゃないかな」


「私も誠さんの言う様に思って色々調べてたんですよ、そうしたら……」


 岸田は誠の言葉に頷きながら、部室の奥から一つの雑誌を取り出した。

 雑誌には付箋が幾つか取り付けられており、その最初のページを彼女はめくった。

 ページには大きな文字でこう書かれていた。

 【アイドル候補生、次々と失踪!? 深夜の街でヤクザの情婦に!?】

 

「こりゃすげぇ煽り文だな」


「内容も中々凄いね、色山プロダクションに所属するアイドルは候補生も入れると全国に……十万人?」

 

「はい、しかも記事によるとその内五千人以上が失踪しているそうなんです」


「……言っちゃなんだがよ、この記事は信憑性あんのか? 単純に雑誌が適当こいてるだけって可能性も──」


「信憑性ならあります!!」


 晶の疑いの言葉に対する返答は、部室の外から伝えられた。

 ゆっくりと部室の扉が開き……制服を着たとても大きな学生がそこに立っていた。

 声の主は入り口からでは頭が見えない程大きく、ゆっくりと扉の上部を潜って現れた。


「すみません、遅れました岸田部長!」


 現れたのは背のとても大きな女性だった。

 身長はおよそ190センチはあるであろう女性は礼儀正しく頭を奥に座る岸田へ下げる。


「ん? キッシー、こいつは?」


「そういえば昨日は突然の入部発言で説明出来てませんでした……彼女はこの新聞部の最後の一人で──」


山城花やまぎはなと申します! よろしくお願いします、閼伽井先輩、玖珂先輩!」


 山城と名乗った大きな少女は再び礼儀正しく二人へ頭を下げた。


「あれ、俺達名乗ったっけ? っていうかどこかで見た事あるような──」


「いえ、されてません! ですが昨日岸田部長から夜に連絡を受けていたので!」


「なるほど、しかし声でっけえなお前……」


「すみません、いつもの癖で!」


「癖ぇ?」


 部室に響く大声を出す花に晶は片耳に指を突っ込みながら聞き返した。


「山城さんはその、アイドル候補生なの……さっき話題に出た色山プロダクションの」


「アイドル!?」


「マジか、すげえな」


「えへへ……と言っても、ほんとに見習いで……」


「あっ、思い出した! 君、晶が持ってきた週刊ギャンギャンでグラビア載せてなかった?」


 山城を見た時から首を捻っていた誠は彼女の姿を思い出し、大声を上げた。

 それは誠がドッペルゲンガー祝勝会を行った時に見た週刊誌だった。


「あれ見てくれてたんですか!? ありがとうございます!」


「お前よく覚えてんな……やっぱエロか?」


「いや表紙に載ってるんなら少しは記憶に残るよ……」


 晶の訝しげな瞳に見つめられながら、誠は至って普通に返す。


「えへへ、覚えてもらえるなんて嬉しいです、あの時はちょっと緊張してて表情硬かったんですけど……」


「そうなんだ、全然普通に見えたけど……色々難しいんだね写真のモデルって」


「はい、そうなんですよ! この間も──」


「あーわかったわかった、誠の好きそうな話は後でやってくれ。 今はこの写真の話だろ?」


 晶は呆れた顔で写真を指で何度か叩き、岸田もそれに同意した。


「う、うん、そうだね……それでこの雑誌の信憑性の話なんだけど」


「それは私が保証します、この写真に写っているのは私と同じ訓練所に通ってた子なんです」


「その、聞きにくいんだけど彼女はこんなことをするような子ではないんだよね?」


「はい、彼女はアイドルになる為に毎日一生懸命歌や踊りの練習をして……あんなことする子じゃないんです!」


 花は立ったまま、胸に右手を当て答えた。


「ミクちゃん、プロダクションの人に呼び出されてから突然連絡が取れなくなって……家族の人とかに掛け合っても何処に行ったか分からないって……」


「警察には?」


「行きました、でも……全然まともに取り合ってくれなくて──」


 誠の質問に、目に涙を浮かべながら花は答えた。


「という山城さんの言葉を聞いて、わたしはこの件について追ってみようかなと思ったの、です、が……」


「ですが?」


「いや、その、改めてなんですけどこれ実は結構危ない事件だったりするのかなって……学生のわたし達がやるよりも警察とかに任せた方が……」


「そんな……警察に掛け合っても駄目だったのに……!」


「ドッペルゲンガーの時と同じだな」


 両手を後ろに当てながら、晶は椅子を後ろへ傾け呟いた。


「キッシーが及び腰なら、アタシらの出番だ。 そうだろ誠」


「あぁ、俺もこの事件が気になってきた」


「え、え? も、もしかして二人ともこの事件を調べるつもりなんですか?」


 及び腰になっていた岸田は、自らと対照的な二人の姿を見て驚きながら質問をする。

 すると晶と誠は同時に頷き、答えた。


「ったりめえよ、アタシらは困ってる奴は見捨てねえ」


「それに新聞部ですから、ネタを追うのは当たり前のことです」


「玖珂先輩、閼伽井先輩……! ありがとうございます!」


「う、うー……わ、わかりました! それならわたしも新聞部部長としてきちんと調べます!」


 誠と晶の言葉、そしてそれを聞いた花の態度に岸田も覚悟を決めたのか勢いよく右手を上げそう宣誓した。


「へへっ、それなら改めて……」


「アイドル失踪事件」


「調査開始です!」


「「「「おー!!!!」」」」


 四人の声が、部室に響いた。


「あ、でもその前に今月の中間試験は皆赤点は回避してね。 赤点取ると顧問の峰先生、部活させてくれないんだ……」


「げっ、この部活の顧問峰かよ!?」


「勉強か……晶、大丈夫?」


「おう! 今回の調査はアタシ抜きでやれ!」


「いや、だめでしょ! 一緒に勉強しようね……」


 嫌だー! という晶の叫びを聞きながら新聞部には笑いが木霊するのだった。

 




すまない……仕事が忙しくて更新がおくれもした……また三日更新を目途にやっていきまする


─人間関係─

玖珂 晶 コープランク2  

山城 花 コープランク1 ←New!!

???

???

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