新聞部
2026年 4月30日 木曜日 15;45
「えー、というわけで来月の11日は中間試験だ。 今月までの内容が全部テストに出るからしっかり勉強しておくように」
ホームルーム中、誠の担任の峰が教室全体に聞こえるように言うと生徒達は様々な声を上げた。
「え~、勉強とかだるい~」
「先生、テストの内容教えてー」
「一問五十万キャッシュで払うなら教えてやる、払えないならしっかり勉強してこい。 赤点取るなんて無様な真似はしないように」
峰は右手を広げ、五本指を生徒へ見せつけると日直の方へ向ける。
「んじゃ今日は終わりだ、日直」
「はい、起立、礼」
「さようならー」
日直の掛け声に合わせ、誠も立ち上がると一礼をし再び着席をする。
そのまま鞄の中で眠り続けるアモンの上にノートや教科書を乗せ帰りの準備を始めた所に、隣の席から声が掛かった。
「おい、誠」
「ん?」
「今日も上でヤんぞ」
「ヤるってまさか……」
「やっぱりあの二人……新聞で見た通り……」
玖珂晶。
誠が転校してきてから出来た初めての友人であり、誠と同様に悪魔と契約した不良少女。
晶は鞄の整理をしている誠へ声を掛ける。
彼女の言葉に、教室に居る噂好きの女子が多少ざわつくが彼女はそんなことは全く意に介さない。
そんな晶の提案に、誠は首を縦に振った。
「分かった、なら一緒に行こうか」
「おう、今日も色々ヤんねえとな」
二人は同時に鞄を持つと、教室から揃って出て行った。
その二人を見ていた女子達は、やはりひそひそと噂話を続けるのだった。
「しっかし二週間近く経ったけどよぉ、次の獲物が見つからねえよなぁ」
廊下を歩きながら、晶は気怠そうな表情で言った。
「獲物って言い方は兎も角、確かに次の相手は見つからないね」
「何かわりー奴とかって沢山居そうだと思ってたけどよぉ、よく考えたら悪魔が憑りついてるなんて奴が新聞やネットに載ってる訳ねえもんなぁ」
「晶、ちょっと声が大きい」
学生達が帰宅しようと玄関へ移動していく中、二人はその流れに逆らいながら屋上への道を進んでいく。
そんな中で晶が思わず何時もの声量で悪魔と言う単語を出してしまい、二人は一瞬他の生徒達の視線を集める事になった。
だが直ぐに彼等も視線を戻すと歩き去っていき、誠はホッと胸を撫で下ろした。
「あっ、わり……いや、でもよぉ」
「言ってることは分かるよ、実際目星も付いてない訳だしね」
「だよなぁ、あれから二週間近く経ってるけどマジで何も見つからねぇ……どっかに手掛かりとかでも転がってねえかなー」
「ははは、そんな簡単に見つかったら苦労しな──」
ドッペルゲンガー事件を解決し、悪魔に関する事件の調査隊を結成してから12日目。
誠達は次なる悪魔絡みの事件を捜索を行ったが、それは直ぐに難局にぶちあたった。
世間では詐欺や殺人、不正に横領、不倫など様々な事件がテレビやインターネットで話題になっていた。
だがそれらのどれもが調べてみると、単なる人間関係のいざこざや欲望に根差したものであった。
結局、ネットやテレビ、新聞などからしか情報を得ることが出来ない誠達は早くも行き詰っていた。
そんな中、屋上へ向かう通路を歩いていた誠はふと掲示板に張られていたものを見て足が止まる。
「…………」
「どうした誠?」
両腕を頭の後ろで組みながら歩いていた晶は、自らの隣に誠が居ない事に気が付き振り返った。
すると彼は真面目な表情で、ジッと掲示板を見つめている。
「ったく、何してんだ誠……ってあぁ……」
晶は、誠が見ているそれを見て呆れた顔をした。
誠の視線の先には、校内新聞と書かれた手作りの紙が掲示板の端に張り付けられていた。
「こんなくだらねえもん見てる暇あったら獲物探し──」
誠が読んでいる校内新聞を一目見て、晶は大声を上げる。
新聞の見出しにはこう書かれていた。
【閼伽井転入生、学園1の問題児である玖珂氏と深夜の新宿を徘徊し恐喝の獲物探しか!?】
「なんだこりゃぁ!?」
「ククク、中々よく撮れているな」
記事を見て、晶が驚きの声を上げた。
それに誘われたのか、誠が背負っている鞄からアモンが顔を出すと記事を見て笑う。
新聞には見出しの下に確かに晶と誠が深夜の新宿を歩いている姿が映っており、そこはかとなく危ない雰囲気を醸し出していた。
「うるっせぇ、今は撮れ方がどうとかはどーでもいんだよ」
「ぐわっ!」
鞄の中にアモンを押し込めると、晶は再び誠に声を掛けた。
「おい、どうする誠? 一回記事作った奴にヤキ入れに行くか?」
「会う、か……それはいいかもしれない」
誠の返事に、晶は呆けた顔をする。
「あれ、晶、どうかした?」
「あ、あぁ……いや、何でもねぇ! だったら部活棟に向かうか、新聞部の場所はアタシも知ってるしよ」
「うん、案内頼むよ晶」
いつもならそんな暴力的な事は……と晶を咎める誠だが……。
そのいつもの言葉が出てこなかったことに、晶は拍子抜けをしつつ彼女は誠を新聞部のある学校の反対側、部活棟へ案内する。
誠達の通う都立麗園学園は、形で言うとロの形をしていた。
左側半分が授業を行う棟であり、右側半分が実験や部活等に使う棟になっていた。
「しっかしひっでぇ記事だったな、アタシ等が恐喝なんてするわけねえだろ」
「ははは、まぁ晶は見た目と性格がちょっと誤解を招きやすいから」
「自業自得だ」
誠の鞄の中から聞こえてきた声に、晶は一旦立ち止まると鞄に向かって拳を振るう。
その衝撃で思わず鞄を背負っていた誠にまで衝撃が貫通し、二人は同時に悲鳴を上げた。
「ぐえっ!」
「いった!」
「へっ、これこそ自業自得って奴だな」
「アモンは兎も角俺は何もしてない……」
「ペットの責任は飼い主の責任だろ?」
晶の言葉に誠は首を捻る。
「……今の絶対力加減間違えただけだよな?」
「我もそう思う」
「ボケっと突っ立ってねえで、さっさと行くぞテメエ等」
殴り終わった後、先に歩き出していた晶に誠は小走りで追いついた。
二人はそのまま数分歩くと部活棟の中に入り、目的の場所を発見した。
麗園学園新聞部、それは部活棟の右上、最奥にあった。
部室の入口は通常の教室と一緒だが、入り口の真横には新聞部がこれまで発行したであろう新聞が何部か張り付けられていた。
「お、あったあった……そんじゃ一発ヤキ入れてやるか」
両手の指を鳴らしながら、晶は教室の引き戸を思いっきり開いた。
何かが破裂するような音に近い音を立てながら、引き戸は壁に衝突すると続いて晶の怒声が響いた。
「オイゴラァ! 今月の校内新聞書いたの誰だオラァ!」
晶が怒鳴りながら部屋に侵入し、誠もそれに続く。
部室の中は、大きな長机が縦に設置されており机の上には幾つかの作り掛けの記事や新聞の切り抜き等が広がっていた。
その部屋の奥では一人で作業を続けていたのであろうおさげの少女が、まるで熊にでも出会ったかのように顔面蒼白の状態で震えながら座っていた。
「く、くくくくくくくく玖珂晶さん!?」
「オウ」
「失礼します」
「そ、そそそそして閼伽井誠さぁん!?」
部室の中には震えている少女以外に部員は居らず、晶は長机の右側から回り込みながらゆっくりと彼女へ近づいていく。
「な、ななな何の御用でしょうか……」
「とぼけんなよ、アタシがこんな場所に来る理由位とっくにご存じなんだろ?」
机の上に勢いよく手を叩きつける少女は体を浮き上がらせ、怯える。
そんな晶の反対側から、誠がゆっくりと近づくと少女へゆっくりと手を伸ばし……。
「ひぃぃぃぃぃ! き、岸田本子死すとも表現の自由は死せずーー!!」
悲鳴を上げる少女……ではなく、彼女が今書いていた記事の切れ端を手に取った。
「やっぱりか」
「……え?」
「あん?」
「すみません、新聞部って今日から入部できますか?」
「は、はい?」
誠の突然の発言に、晶と岸田と名乗った少女の両名は呆けた表情を浮かべていた。
【閼伽井 誠 人間性ステータス】
教養 ★★一般高校生レベル ←Rank Up!
勇気 ★★一般人レベル
慈愛 ★心が狭い
魅力 ★格好悪い
ユーモア ★★人を笑顔にできる