謀略
2026年 4月18日 土曜日 22:33
禿げた頭部に法衣を来た、所謂坊主の格好をした男が自らの名を名乗りながら部屋の扉を開け放つ。
中には四人の男女が居り坊主が来るまでの間歓談でもしていたのだろう体勢で、彼の言葉に反応する事になった。
「おっと、皆歓談中だったか?」
坊主がいきなり大声を上げながら部屋に入ってきたことで、室内は静けさに包まれていた。
申し訳なさそうな顔をした坊主に、四人は立ち上がると一斉に頭を下げる。
「いえ、大門司様その様な事は……」
「むしろ我々一同、心よりお待ちしておりました」
初老の男二人が頭を下げながら述べると、長机の一番奥にある空席を四人全員が手の先で指し示す。
「ガハハハ、そうかそうか、邪魔でないのならよかった。 では定例会議を始めるとしようか!」
坊主──大門司は大仰に笑うと、部屋の一番奥にある高価な椅子まで移動し腰を掛ける。
それを見た四人は、坊主に続いて腰掛ける。
「さて、それでは今日の議題だが……会田君、説明を頼むぞ」
「はっ、大門司様」
大門司は向かって右手前側に座る男へ命じ、会田と呼ばれた男もそれに頷いた。
「まず本日最初の議題は我等が運命会の会員数の増加についてです」
会田はそう言うと、手元にあったリモコンを操作しスクリーンを部屋の入口に降ろし投影を開始する。
スクリーンには棒グラフが幾つか示されており、それは右側に行くほどに少しずつ大きくなっていた。
「我々が当団体を発足させた当初に比べ、現在の会員数は202名となり、現在も増加の傾向にあります」
「うむ、これに関しては湯浅幕僚長や原井君、色山君と会田君、君たちの行動の甲斐あってだな」
「いやぁん、教祖様にそんな事言われたらあたしうれぴ~★」
会田の横に座っていた、色山と呼ばれる女性が体をくねらせる。
「ふっ、年増がそんなことをしても醜いだけですよ」
そんな色山を、彼女の真向かいに座っていた見た目は30代の女性が鼻で笑う。
「ちょっとぉ……原井さん、それどういう意味ぃ?」
「ふっ、歳を取ると言葉の意味もきちんと理解できなくなるのですね。 ”もう一度”大門司教祖に若返らせてもらったらどうですか?」
「あんた、いい度胸じゃないのぉ……? なんならここでもっかいどっちが上か教えてあげちゃおっかぁ?」
決して容姿は衰えていない、むしろ10代の様な美しさを保つ青筋を浮かべた色山に対して真向かいに座っている原井は嫌味を続ける。
そんな原井に対し、色山は中指を立てながら煽り返す。
「ガハハ、二人の仲が良いようで何よりだ。 その血気盛んさで我が団体を大いに盛り立ててくれ、色山君が集めてくれる奴隷も原井君が集めてくれる素材も我々には重要だからな」
大門司はそんな犬猿の仲の二人を笑い飛ばすと、会田に次の説明へ行くように顎で促した。
奴隷という、現代日本においては似付かわしくない単語を発する大門司の顔も、それを聞く四名も普通の表情である。
そういった非日常的な言葉も普通になる程、彼等の倫理観は狂っていた。
「えー、話が逸れましたが……兎も角皆さんの活動で信者も増え、バアル様の名は着実に増えています。 このまま行けば年内の最終目標到達も夢ではないかと」
「おぉ、それは素晴らしい。 湯浅幕僚長、決起の準備は?」
大門司の左手前に座っている、この中で二番目に歳を取った男性。
湯浅が答えた。
「人間の方の根回しは終えていますが……Xシリーズに関してはやはり素材が足りませんな、機密性を保ちつつあれの実験を続けるにはやはり数か月は要すかと」
「なるほど……では原井君、素材の回収頻度はどれくらい上げられるかね」
湯浅と呼ばれた、自衛隊の制服を着用する最高位を示す勲章を付けた男の答えに大門司はこの部屋に入って初めて悩ましげな表情を浮かべた。
大門司は直ぐに湯浅の隣に座っている、眼鏡を付けた女性……原井に問いかける。
「はっ、国外からの輸入を認めていただけるのであれば一日に100人でも可能ですが現状ですと一月に二人が限界です」
「海外からだと足着くでしょ、あんたバカぁ~?」
「私は打開案を提示しただけです、余計な横やりは止めていただきたいですね」
「うむ、色山君の言う通り国外からでは少々根回しも面倒だ、素材の確保については少し手を打つ必要があるな」
大門司の言葉に、原井は首を縦に振った。
「これについては会田君と原井君の二人で話し合ってくれ、必要なら残りの二人も手を貸すように」
鶴の一声に、四人は同時に返事を返す。
「さて、では他の議題に入ろう会田君──」
「畏まりました、では次は色山君主導で行われている例の──」
会議は、この後二時間ほど続いた。
途中、笑いなども交えながら続く会議が終わろうとしていた。
「ですので、現状閼伽井に盗まれた指輪の行き先は見つかっておりません……申し訳ございません」
「警視総監自慢の警察が指輪一つ見つけられんとはな、どれだけ国が予算を払っていると思っているのだ」
「仕方ありません大門司様、奴は奴の無能故に我等の様に幹部になれぬ男……」
「ガハハハ、それもそうだったか」
会田が申し訳なさそうに頭を下げ、大門司が探す指輪が未だ見つかっていないことを告げる。
大門司は少しだけ顔を歪めながら、指輪の捜索に当たる警視庁へ嫌味を告げるが湯浅はそれに対して更なる嫌味を返し、二人は笑いあった。
「さて、それでは本日全ての議題が終了した、日も既に0時を回ったところだしそろそろ終わろうかと思うが……幹部諸君から何か気になっていることはあるかね」
「ありませぇ~ん」
「同じく」
に色山、湯浅が同意した。
大門司は残りの二人を見る。
「私からも特には」
会田も首を横に振り、最後は原井が首を横に振って会議は終了の筈だったが……。
彼女は手を上げ、一つの議題を提出した。
「はい、私から一つご報告が」
「えぇ~、もう終わりにしようよぉ~お肌にわ~る~い~」
「む、何かあるのかね」
色山の喚きを無視して、大門司が興味を示した。
「はい、実は研究所から逃げ出した悪魔──ドッペルゲンガーですが、消滅を確認いたしました」
「うっそぉっ!」
「何ですと!?」
「ほう……?」
大門司以外の幹部は、皆驚きの表情を浮かべていた。
一方の大門司は、面白そうに顎を摩りながら原井へ説明を続けるよう促す。
「どういうことだね原井君」
「新宿御苑に確認していたドッペルゲンガーのカテドラルの消滅を先日確認しています」
「魔力切れによる自然消滅ではなく、か?」
湯浅の言葉に原井は頷く。
「カテドラルを形成するに至った悪魔が魔力切れで消滅することは恐らく有り得ません」
「では、誰かが悪魔の駆除を……?」
「少なくともこちらで契約している悪魔使いはドッペルゲンガーとの接敵はしておりません」
「んじゃんじゃ、野良悪魔にやられた?」
「それも有り得ません、異界を通る悪魔は全てこちらの管理下にあります」
「だとすると……」
幹部四人の会話を聞いていた大門司は、ニヤリと笑いながら呟いた。
「ワシ等の知らん悪魔使いか何かか……」
「かと思われます、数日前に逮捕されたドッペルゲンガーと契約していた暴行犯が自らと同じく悪魔と契約した人間に倒された等と言っていますので」
「ガハハハハ! 野良悪魔ではなく、野良悪魔使いということか!」
「あるいは、魔人である可能性もございます。 暴行犯を新宿警察署まで運んできたのはキングと名乗るおよそ人間とは思えぬ存在であったと聞いています」
「ほう、キングか……自ら王を名乗るとは余程の自信家か、それとも相当な自惚れ屋か」
湯浅の言葉に、大門司は笑った。
「ガハハ、どちらにせよワシ等が知らぬ存在がこの東京に居るのは不味い。 探し出せ」
「見つけ次第処分を?」
「いや、まずは勧誘からだ。 本来はワシ等に従わない高官暗殺用の悪魔を発見しあまつさえ始末できる存在ならば、是非味方に欲しい」
「流石は大門司様、懐が大空の様にお広い……では見つけ次第、勧誘を行います」
「うむ、それとその暴行犯は拷問を掛けて相手が何者であったかも吐かせるように」
にこやかな笑顔でそう告げると、大門司は椅子から立ち上がる。
「では本日の運命会、定例会議はここまでとする! 終了の号令を!」
「「「「ツガー・シュメッシュ・シュメッシュ!」」」」
大門司の言葉に、幹部全員が立ち上がると右手を斜め上へ伸ばしながら何かの呪文の様な言葉を一斉に発し会合は終了した。
【下記、作者からのお願いです】
本作を読んで少しでも応援したいと思っていただけたなら、
・ブックマークへの追加
・画面下の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」
にして、応援していただけると、私のモチベーションに繋がります。
何卒よろしくお願いいたします!