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モンストルム・デアデビル  作者: にっしー
ドッペルゲンガー編
17/108

運命会

2026年 4月18日 土曜日 22:00


 東京。

 900万の人口を抱える日本の首都。

 巨万の富を持つ者、全てを失い彷徨う者、あらゆるものを内包するこの巨大な街は夜を迎え深夜になろうとする時間帯でさえその賑わいは鈍ってはいなかった。

 そんな東京都心にある高層ビルの一つは、異様な雰囲気に包まれていた。


「────了解、ビルを完全に封鎖します」


「────会合が終わるまで、ネズミ一匹中に入れるなよ!」


 23階建てのビルの入り口には黒服にサングラスという格好の男達が、入り口だけでなくビルの周囲まで警護していた。

 男たちは無線機で何事かの連絡を取りながら、ビルへ近づこうとする者が居ないかを見張っていた。


「こちらもクリア、以後何かあれば連絡する──」


 男の一人が連絡を取り終える無線機を腰に収める。

 すると、隣に立っていたもう一人の男が声を掛けた。


「ねぇ……先輩」


「なんだ」


 声を掛けた男の声は若く、年齢は30歳位であろうか。

 もう一方の声を掛けられた男は逆に年老いており、50歳位のしわがれた声をしていた。

 二人は周囲の警戒をしながら、ひそひそと話始めた。


「なんで、俺達此処の警護してんすか?」


「俺達の所属はなんだ」


「へっ? そりゃ、警視庁警備部警護課……つまり要人警護ですが」


「つまり、そういうことだ」


「イヤイヤイヤ、そんな事言ったってここ……宗教団体っすよね? SPが宗教団体を要人扱いして守るなんてそんな──」


「どういう理由があろうとこれは警視総監からの命令だ、黙って従え」


 警視総監という単語を聞き、若い男は驚いた顔をした後、すごすごと引き下がり警護を続ける。

 警視庁警備部警備課──通称セキュリティポリス……SPである、主に要人警護を主な職務とする彼等は警視庁の中でも特殊な立ち位置にある。

 通常は総理大臣等の国にとって重要な人物を警護する彼等が、今守っているのは運命会と呼ばれる宗教団体であった。

 彼等は警視総監──日本の警察官の階級としては最高位の人物の命令という普通ならば絶対に起こり得ない命令を受けていた。


「しかも二回目……一体、なんなんだ? この運命会ってのは──」


 若い男はそう一人呟くと会合とやらが行われているであろう、ビルの上層階を眺めると自らに課せられた職務に戻っていった。


─────────────────────────────────────


 ビルの外が異様な雰囲気であれば、その中もまた異様な雰囲気に包まれていた。

 大きな会場には200人程度の高価なドレスやスーツで着飾った、仮面を付けた男女が集まっていた。

 彼らは給仕から飲み物を受け取りながら、談笑を行っている。

 飲み物を受け取る際のその仕草や、立ち居振る舞いが彼等が所謂上流階級に所属する人間たちであろうことを見るものに感じさせた。


「お集りの皆さん、お待たせいたしました」


 マイクのキーンという音が一瞬響いた後、会場に男の声が響いた。


「我らが運命会の開祖にして、教祖であらせられるバアル様です!」


 司会の紹介と共に、室内の最奥にあったステージにスポットライトが集中した。

 ステージを覆っていた緞帳が上へと上がっていき、歓声が上がった。


「バアル様!」


「バアル様だ!」


「お恵みを、バアル様!」


 緞帳が上がって現れたのは、左右に二本の角が生えた竜とも魚ともつかない顔の形をした王冠を被った人型の悪魔が其処に立っていた。

 バアルと呼ばれる悪魔は金色の杯を持った右手を上げ、自らを呼ぶ人間達へ返答する。


「うおおおお、バアル様ーー!」


「恵みを、我等にお恵みを!」


 バアルが姿を現した事で、先ほどまで上品に振舞っていた人間達はまるで我を忘れたかのようにステージの上に立つバアルへ詰め寄っていく。

 眼下に犇めく人間達を憐れむように真っ赤に染まった目を向けると、バアルは左手で一人の人間を指さした。


「おぉ……!」


「バアル様のお恵みよ、宿願の儀よ!」


「お、おぉ……! ありがとうございます、ありがとうございますバアル様!」


 バアルに指を差された初老の男は、空中に浮かび上がりながら悪魔へ喜びを伝える。


「汝の望みは」


「わ、私の望みは……若返りです! 決して老いる事の無い、20代の頃の若さを私に!!」


「承った」


 全ての存在が平伏したくなるような威厳を持つその重厚な声で、男の答えにバアルが頷いた。

 バアルが頷くと同時に、彼が右手に持っていた金色の杯が泡立ち始める。

 杯には当初何も入っていなかったが、どす黒い粘液の様なものが杯の底から湧き出て、火柱の様に噴出した。

 噴出した液体は、浮かび上がっていた初老の男に降り注いでいき……最終的に男は球体状の粘液に包まれる。


「おぉ……バアル様の御業をこの目で拝めるとは……ありがたや、ありがたや」


「羨ましい……私ももっとお布施をして、選んでいただかないと……!」


 初老の男の周囲に居た人間達は、高級なドレスが液体で汚れるのも厭わず球体の真下に膝をつく。

 一方の球体は、心臓の様に脈打ち、徐々に鼓動が早くなっていく。


「恵みによる再誕である」


 指を差していた左手を、今度はグッと力強く握りしめる。

 すると黒い球体が爆散し、室内を汚していく。

 黒い液体が室内に降り注いだ後、球体が浮かんでいた場所には若い男が立っていた。


「こ、これが私……! わ、わはははは! やった、やったぞ! これでもう老いに悩むことは無いのだ!!」


 若い男は自らの手や顔を触りながら、先ほどまでの老いていた自分とは違う事を確認し歓喜した。


「さぁ、それでは今宵の宿願の儀は終了となります。 以後はご歓談や奴隷オークションをお楽しみください!」


 司会の声が、室内に響き渡る。

 それと同時にステージの緞帳が下がっていき、バアルの姿が消えていく。


「そんな、バアル様、私にもお恵みを──」


「うおおぉぉぉぉ、バアル様ぁぁぁぁ!!」


 消えていくバアルの元へ、信者達が走り寄っていく。

 しかし緞帳はそのまま下がりきり、バアルは消えた。

 バアルが消えた後も信者達の熱狂はしばらく続き、その興奮のまま次の出し物である奴隷オークションが始まるのだった。


「やれやれ……信仰集めの為とはいえ骨が折れるな」


 緞帳が降りたステージの上で、バアルがやれやれと首を振った。

 手に持った杯から沸き立ったワインを口へ注ぎ飲み込むと、ビルの裏へと続く扉へ歩いていく。

 自動ドアを抜け、長い通路の脇に七三分けの髪型をした男が一人立っていた。


「お疲れ様でした、教祖様」


「うむ、やはりこちら側で力を使うのはかなり体力を使う……」


 バアルはいつの間にか、額に汗を流しており脇に居た男がタオルを差し出すと悪魔はそれを笑って受け取った。


「この後は定例会議ですが……」


「問題ない、ワシも出る」


「畏まりました」


 バアルの言葉に男は恭しく頭を下げたまま、悪魔は通路を進んでいく。


「だが流石に疲れるのでな、バアル、魔人化を解除しろ」


「承りました、主殿」


 バアルから壇上で聞こえた声とは別の男の声が聞こえた。

 次の瞬間、窓一つ無い通路に突風が吹いた。

 風が止むと、バアルの姿は其処には無く僧衣を纏った坊主の姿があった。

 先ほど頭を下げた男は、この光景がいつも通りなのか坊主に対して目を向けることも無く頭をずっと下げていた。


「やぁ諸君、待たせたかな」


 通路を進んでいき、左右に幾つかある扉を通り過ぎ、坊主は最奥の扉を開け叫んだ。


「現職IT大臣、大門司だいもんじ 竜蔵りゅうぞう参上仕った!」


 扉を開けた先にあった会議室に、大門司の大声が響き渡った。



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