神様のお節介
気がつくと、見渡す限り真っ白な何もない空間にいた。
……本当に何もないようだ。地面すらないとは。
しばらく、この場所について考えていると、目の前の空間に亀裂が入り、白い猫が現れた。
いきなり猫が現れたことにも驚いたが、それ以上にものすごい違和感を感じた。
……この猫には尻尾が2つある!
違和感に気づきつつも、この猫を撫でることにした。
……目の前に猫がいるんだし当然だよね!
「当然ではない、撫でようとするな」
……あれ?
誰だ、このおじいちゃんのような声は?
「……おじいちゃんのような声で悪かったな!」
声は目の前の猫から聞こえる。
まさかこの猫が喋ってる?
……というか考えていることが読まれている?
「ふむ、ようやく気づいたか」
……最近の猫ってすごいな!
「いや、猫ではないからな。わしは神だからな」
どうやら猫ではないらしい。
猫じゃないのは本当に残念だけど、モフらしてもらえないかな?
「神と会ったというのに全然動揺しないなお主……。わしはお主が暮らしていた世界の神、名はナルラトテップだ」
わたしが今どういう状況なのか情報が欲しかったので、ひとまずまじめに話を聞くことにした。
ナルラトテップからの話をまとめると、わたしは〈ナータス〉と呼ばれる異世界で行われた勇者召還の儀式に巻き込まれたのだ。なんでも、修学旅行中の学生が乗っていたバスごと異世界に召還されたらしく、たまたま近くにいたわたしも一緒に異世界に召還されるらしい。らしいというのは、まだ異世界に召還されてはなく、召還される前に時間の流れが現実とは違うというこの何もない異空間に連れてこられたからである。
「それで、わたしはどうしてここに連れてこられたんですか?」
「その理由はお主の身体にある」
……まさかの身体目当てだった!
「違うに決まっているだろ!」
即座に反応してくれる。実にノリがいい神様だ。
「……真面目に聞く気はないようだな。それならば……」
「ごめんなさい、冗談です。ですのでその殺気を閉まってください」
「次はないからな」
……危ない、危ない。
「ここに連れてきた理由は、お主の種族にある」
種族と言ってくるあたりわたしの正体は、ばれているようだ。
とはいえ、吸血鬼は割りとポピュラー(?)な種族のはず!
「どのあたりがポピュラーなのか小一時間問い質したいところだが、その吸血鬼という種族に問題がある。何せこれからお主が転移する世界には、吸血鬼なんて種族は存在しないのだからな」
「他に吸血鬼がいないのは少し寂しいけど、何か問題が?」
「問題というより、ナータスに転移してお主の正体を知られてしまうと、お主はナータスの神に殺されてしまうかもしれないからな」
マジですか?!……素で驚いてしまった。
「このまま見殺しにするのも気分が悪いからな……、少し節介をやくことにした。他の転移者とは別の場所に転移させてやろう。……それではナータスに向かうがいい」
異世界に召還されてすぐ神様に殺されるという出オチを回避できたと思ったつかの間、足元に黒い穴が出現し吸い込まれた。
もう少し詳しい説明を受けたかった。もしかしたらこの神様は、ゲームを買っても説明書を読まないタイプかもしれない。説明書をじっくり読む派のわたしとしてはもう少し説明が欲しかったです。